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変わってしまった彼女

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その後、私はエミリーに説教をした。

例え学園だからといって身分を平等に扱われてはいても、礼儀があるものだと。

本人の許可無く、名前を呼んでは行けないし、貴族として廊下であんなに大きな声を上げるなんてとても恥ずかしいことだと。
しかも、親しい間柄でもない男性にあれほど体を押し付けるなど、以ての外だと。

理解ができるようにきちんと話したはすだった。

「セレシアって案外うるさいのね。ヒロインが大好きでもっと甘やかしてくれる人だと思ってたのに。」

うるさい…?

エミリーにそんなことを言われたのは初めての事だった。彼女に今までうるさいなんて言われたことはない。それに『ひろいん』とはなんの事だろうか。

「…エミリー?」

信じられなくて、思わず名前を呼んだ。

「はいはい、わかったってば。」

乱暴に相槌を打たれ、彼女は自分のクラスに入っていった。

何が起こっているのだろうか。
あれはエミリーじゃないのでは?
1日2日でこんなに人は変わるものだろうか?

環境?環境が変わったせいで、ストレスで彼女はああなってしまっているの…?

暫し、呆然と立ち尽くしたあとクラスに戻った。
クラスには生徒が多方揃ったようで、皆それぞれ話したり、打ち解けあったりしている。

私はそれをどこか他人事のように見ながら、先程のエミリーの態度や昨日の行動を思い返してみた。


私が考えている間に、担任の先生が入っていてホームルームが始まり、学校のマップを配られ説明を受ける。この後にクラス内で自己紹介を行ったら解散のようだ。

「初めまして、エミリー・バーデルです!家は男爵家で、好きな食べ物は甘いものです!よろしくお願いします!」

ハキハキと答える彼女は、無邪気な笑顔を見せる。害のない、むしろ守りたくなるその笑顔に男性は釘付けのようだ。

女性は男性の視線を独り占めする彼女を敵視するように見つめていた。

それからも自己紹介は続くが、ほぼ記憶に残らなかった。
先生に呼ばれるまで自分の番が来たことにも気づかないくらいエミリーのことを考えていた。

「ウェルナー、君の番だぞ」

「…し、失礼しました。セレシア・ウェルナーです。よろしくお願い致します。」

簡潔に述べ、また座る。

あぁ、ダメだわ。こんなに周りが見えなくなるまで彼女のことを考えるなんて。心配は心配だが、私も新しい環境に慣れる必要がある。

このままじゃいけない。何か解決策はないものか。

そう考えたところで、丁度自己紹介も終了し、今日は解散となった。


いつもなら、エミリーに話しかけに行くか話しかけられるのを待つだろうが、彼女はクラスの男子達に囲まれていた。

談笑しており、とても楽しそうな声が聞こえてくる。

まぁ、楽しそうだし…私は帰ろうかな


鞄を持つと、教室を後にしたのだった。







翌日から、授業が始まった。


歴史に、文学、算術に、理学、幅広い授業が展開され、カリキュラムはAクラスのため難なくとついていけた。

休み時間には図書室へ行き、置いてあるSクラスの参考書や教科書を見る。

Sクラスの方が応用問題が多く、やりがいがあるため暇つぶしにはもってこいだった。

エミリーはというと、休み時間は食堂へ男性たちと向かうのが見えた。まるで姫を守る騎士のように、エミリーを取り囲む取り巻き(男)達にエミリーは満足そうだった。

もちろん、それを見て不快な思いをする人は多く、まだ婚約者を決める年頃ではないにしろ、外聞は良くない。

あれからというものまだエルーム様にも付きまとい、最近では騎士団長のご子息や、侯爵家次男の方にまでちょっかいを出しているらしい。

最初は私も注意をしていた。
だが、何度も注意をするとエミリーが凄い剣幕で怒り始め次に号泣し始める。すごい情緒不安定だ。

「貴方は私のサポートキャラなのに!!全然サポートしてくれない!!」

意味のわからないことを叫んでは大泣きするという繰り返しだった。

私はかなり疲れてしまい、熱が出た。
ストレスから来る熱だと医師に言われ、安静にすることを言いつけられた。両親や兄もすごく心配してくれた。私が寝込み、学校を休んでいる間もエミリーはお見舞いに来てくれることはなかった。

3日ほど寝て、久しぶりにスッキリとした気持ちで学校へ向かった。

私は彼女と距離を置くことにした。


何かあっても、彼女は男爵令嬢だから誰かが注意するだろう。

私は思うのだ。私は彼女を今まで甘やかしすぎていたのかもしれない。共同生活という学園の中で、他人とよりよい関係を結ぶには人と関わるのが一番だ。だから、私は心を鬼にして彼女を構いすぎないようにしようと決めた。

そして、考えないように、必死に難問の問題を無心で解くのだ。



それから2週間。

問題が起こった。


問題を起こしたのはエミリー。

しかも、内容はひとつ先輩の二年生で誰もが知る皇太子に付きまとっているらしい。
しかも、それが皇太子妃候補筆頭の
ガーネット様に知られ、お叱りを受けた際泣きながら皇太子に抱きついたそうだ。

流石の私も、エミリーに怒った。

「エミリー!!自分が何をしたのか分かっているの!?貴方、不敬罪になって死んでしまうわよ!!なんてことを!!何故、皇太子様に!身分が違うのも明らかでしょう!なんて失礼なことを!」

頭に血が上ってしまい、言いたいことが沢山あるのに、上手くまとまらない。それが余計に腹ただしい。

「も~、セレシアも大袈裟だわ。ジーク様は不敬罪だなんてしないもの。彼は私に気があるのよ。ねぇ、セレシア、今ジーク様の好感度どれくらいかな?あと、ジーク様って何が好きかわかる?」


きっと、両親にも怒られただろうに。
何故そんな楽観的でいられるのか。

ジーク様?皇太子を愛称で呼んでいるの?
まさか、皇太子がお許しになられたのだろうか?
婚約者候補にも上がらない男爵家の令嬢に?

好感度?何を言ってるの?

「…私があの方の好きな物を知るはずがないでしょう。」

怒りに声が震えながらも、絞り出せたのはそれだけだった。

「え、嘘。じゃあ、ニック様の好きな場所は?」

この子は本当に何を言っているんだろうか。
何かの病気にでもなったのか?

「…知らないわ」

「はー!?え、なにそれ。セレシア全然使えないじゃーん。好感度のパラメーターが見えないから口で教えてくれるのかなって思ってたのに!それにいる場所とか教えてくれないと、毎回学園内を走らなきゃ行けないし…はぁ、詰んだわ。なに、サポートキャラ意味ないじゃん。使えな。」

彼女とは思えない口調で、眉間に皺を寄せ睨まれた。私は思わず、足がすくんでしまう。

「じゃあ、今まではただ単に邪魔してきただけか。うざ…セレシア、もうあんたなんか友達でも親友でもなんでもない。私に関わらないでくれる?っていうか、よくも今まで邪魔してくれたわね。覚えておきなさいよ」

そう吐き捨て、彼女は私の前から立ち去った。

私は幼い頃からのエミリーを思い出していた。
いつも天真爛漫で愛嬌があって、無邪気で、笑顔ひとつで幸せにしてくれる彼女はどこいったんだろう。

もう、あのころの彼女は戻ってこないのか。

『セレシアっ!だーいすき!!』

そう言ってくれた彼女を思い出し、私の目から涙が流れた。



この日から地獄が始まる。
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