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第一幕:悪役令嬢? お断りです!

10. フラグを折る準備はぬかりなく

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 ソーイの頭の中ではとんでもない所まで話が進んでいたのだと分かり、わたしはぐったりとソファーのクッションにもたれかかった。


 侍女に感想を求めるだけでは飽き足らず販売までとは。
 確かに昨日の話の流れからそう推測されてもおかしくはないけれど。


 頭の回転の速いソーイでさえこの反応なのだから他の人には絶対に見せてはダメね。今回はその回転が別の方へ向かっていたようだけれど。
 精霊の話だけで瞬時に理解してくれたようで何よりだ。




「あの本の内容を完全に信じているわけではないわ。おかしな点も多いし。だけれど、意図的であった以上はこちらも対策をしなければならないと思うの」


「私の知っているお嬢様で安心いたしました」


 ああ、その笑顔の時は私を揶揄っている時の顔なのよね。



「ソーイが勝手に脳内でわたしを暴走させたんでしょう。分かっていると思うけれど……」


「もちろん黙ってお嬢様についていきます」


 ついさっきまで見捨てようとしてたじゃない、というのは言わないでおこう。



 小説の主人公、リリィ嬢は人を生き返らせるほどの膨大な聖属性の魔力を溜め込んでいるとあった。

 しかし最近の研究で、聖魔法は人の心を操ることも可能という事が分かっている。
 その使い方や具体的な魔力量など詳細は公開されてはいないが、もしリリィ嬢という人物が存在するのであれば、小説に登場する人物への精神干渉が起こるかもしれない。

 そうでもなければあの様な愚かなエンディングが現実で起こるとは考えにくい。



 わたしはテーブルに置いた書類を再び手に取ると、ソーイに向かい側のソファーに座るよう促した。


「あの本の内容、設定、その裏にあるもの全てを把握したという前提で話を進めるわ」


 先ほどまでの揶揄ったような笑顔は消え、真剣な表情でソーイは「はい」と答えた。



「まずソーイにお願いしたいのは、モルト男爵家の調査。これは六日後の入学セレモニーが始まる前までが期限」


「二日で終わらせられます」


「ありがとう。その間にわたしは対聖魔法の魔導具を作製するわ」


「対聖魔法とは……考えましたね、お嬢様」



 この世界には、魔法の攻撃から身を守る護身用魔導具が存在する。

 全ての魔導具は魔石に魔法陣を施し作る事ができる。
 精神魔法についてはまだ分かっていない事や発表されていない事が多いため、精神に干渉する魔法のみを防ぐ魔法陣の作製は難しい。

 それならば聖魔法を丸ごと対象にしてしまえばいいのだ。



 ちなみに普通の令嬢は魔法陣など描くことは滅多にしないらしい。というより、研究員か魔導具製作を専門に扱う魔導師しか魔法陣の描き方は知らない。


 今までの人生の半分を過ごしたシュネーハルト公爵領は魔導具の街と呼ばれるほどその利用が盛んだ。

 わたしはお祖父様から魔法陣の基礎を教わり、自分で幾つもの魔法陣を描いては発動させて遊んでいた。

 魔法陣は、発動条件に具体性を持たせるほど細かく時間をかけて作製しなくてはならない。


 しかし、たったひとつの属性の魔法から防御する程度の魔法陣ならどうってことないのだ。
 すぐに色落ちしてしまう青薔薇への水やりの負担を減らすために作製した魔法陣とそう変わりはない。



「今日はまず、魔法陣を施すための魔石をゴールデネ商会に注文するわ。それから商談を取り付ける。それが万が一の場合の逃走資金、その後の生活資金になる予定」


「勝算があるのですね?」


「ええ、領地にいた頃からずっと温めていたものだもの。こういう形で出す事になったのは残念だけれど、カルロならきっと承諾するわ」



 ゴールデネ商会の母体は我がシュネーハルト公爵領にあるシュテルン商会。現会長が一代で大きくした商会で、孫のカルロは幼い頃から会長に付き添い商売を学んでいた。

 公爵領の邸宅にも出入りをしており、まだ五歳になったばかりだったわたしは、綺麗なドレスや見たことのない美味しいお菓子を持ってきてくれるお兄さんとして、カロルの訪問を楽しみにしていた。


 しかしそのカルロがある時ぱたりと邸宅へ来なくなってしまった。
 わたしが王都に来て数ヶ月後、たくさんの見たことのない商品を持って王都の公爵邸へとやってきた。

 それからたった三年で王都でも屈指の商会、ゴールデネ商会を作り上げたのだ。



「それではお嬢様、応接室まで向かいましょうか。カルロ様の事ですからお約束より早くいらっしゃるかと」


 ソーイがそう言ってソファーから立ち上がったのに続き、わたしも書類をまとめ、立ち上がる。



 今までずっと、新しくて素晴らしい商品に驚かされてばかりだったけれど、今日はわたしがカルロを驚かす番よ。







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