異世界一の牛丼屋

たろたろぬ

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序章

千年に一度の逸材長崎

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「いらっしゃいませ!!」

 東京都内某所。夜七時半すぎ。
 今日も牛丼チェーン店牛食は会社帰りのサラリーマンや学校帰りの学生でとてもにぎわっていた。

「長崎さん! オーダー入ります」

 クルー(従業員)の一人が声をかける。
 だが長崎はじっと目をとじたまま肉鍋の前から動かない。
 まるで立ったまま死んでしまってるのかと思ってしまうほど、ピクリとも動かないのである。

「……………………まだだ。まだだ。……………………………ここだ!!!!!!」

 長崎はすっとポーション(肉をすくう道具)をとり、軽やかな動きで肉をすくいご飯の上にのっける。

「牛丼並盛! それとトン汁だ。はいよ」

 オーダーが入ってから料理を作るまで、その間わずか十秒ほど。
 これくらい長崎にとっては朝飯前である。



「さすがですね長崎さん。ところでなんで今止まっていたんですか?」

 さきほどのクルーが料理を提供し終え、戻ってきて話しかける。
 ちょうど今店内にいるお客さんすべてに商品を提供し終え一息つける時間だった。

「この肉はさっき入れたばかりだからな。最高においしくなるにはあと六秒煮込むのがいいと思ったんだよ」

 長崎は仕込みをしながらさらっとそう告げた。
 そして長崎の調理の細かさにクルーはただただ言葉を失う。
 長崎の意見を理解できる者など千年に一度現れるかどうか。この平凡クルーに理解するというのが無理な話である。

「六秒で味なんて変わるんですか?」
「そうか、じゃあ試してみるといい」

 長崎はすっと冷蔵庫から肉と玉ねぎを取り出し、空いているスペースに少量具材を入れる。
 袋から具材を取り出し、具材を入れるまでのあまりのかろやかさに思わずクルーは見入ってしまう。

「ほら肉煮えるまで時間あるんだ。止まってないで手動かせ」

 はっ! と我に返ったクルーが慌てたようにせかせかと厨房を離れる。
 
 
 それから数分。ちょうどいいころ合いを見て長崎はクルーを呼ぶ。

「いいかこれがまずは六秒早い肉。そしてこれが俺がパーフェクトだと思う肉だ」
「ありがとうございます」

 クルーは二つの小鉢と箸を受け取る。
 そしてじっくりと二つの肉を見てみたが、見た目に違いというのはまったくなかった。
 ただ驚くのは両方同じくらいの量の肉と玉ねぎが入っていることである。時間をかけてそろえたのか、少し聞きたいことではあるがクルーはぐっと飲みこむ。

「いいから早く食え。冷めるだろ」
「あっ、はい!」

 まずは六秒早い肉からクルーは口に運ぶ。

「うん、うまいですね。普通にうまいです」
「じゃあ次はそっちだな」

 自信満々の長崎の表情。
 そんな表情を見せられたものだからクルーはどんなものがくるかと………………………。



 っかは!! う、うまい。なんてうまさだこの肉は!? 
 噛んだ瞬間口いっぱいに汁があふれこんできて、それが僕の味覚をこれでもかというくらい刺激してくる。しかもこの肉の柔らかさ。柔らかすぎず、きちんと肉を食べているんだということをこれでもかというくらい主張してくる。

「これはまさに肉の芸術作品!!」

 はうぅ~ととろけ切った表情のクルー。
 こんなうまい牛肉食べたことがない!! 
 クルーの表情はそれをはっきりと伝えている。
 
「ほら仕事仕事」

 長崎はそうしたり顔で告げた。



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