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3話
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その日の夜、わたしはクローゼットを開き、仕舞い込んでいた制服を取り出した。入学したときはぶかぶかだったセーラー服。いくらか身長は伸びているし、今は丁度いいぐらいだろう。あまりいい思い出がない制服だけれど、ちょっとずつでも新しい思い出を上書きしていきたい。まだまだ登校するのは、恐いけれど、もう学校では独りではない。今のわたしには大切な親友がいる。あのときの恐怖は和らげることができるだろう。そして新しい自分になれるように、きちんと一歩一歩歩いていこう。いつかソウ兄から妹分を卒業したい。そのためにも何か行動を起こさなければいけない。
制服を持って、父の元へ向かった。一番心配をかけたのは父さんなのだから。きちんとけじめをつけなければならない。キッチンに立つ父に声をかけた。
「ねぇ、父さん。今いいかな」
「なんだい。マナ」
「その。もし学校に行きたいって言ったら、父さんどうする?」
父さんは驚いた表情を浮かべた。それもそうだろう。これまでずっと不登校生活を過ごしてきたのだ。いきなり、学校へ行きたいと告げたのだから。しばらく沈黙が流れると、父さんは安心したような表情を浮かべ、口を開いた。
「本当かい。でも急にどうした。あんなに恐がっていたのに」
「今日ね、近藤さんと奏さんと一緒に出かけてたでしょ。それでね、臆病なところも含めて好きだって言ってくれたの。だからね、父さん。わたし、もっともっと二人に好きになってもらいたいの。だから、もう一度学校に行ってみたいって思ったの」
「そっか。良かったよ。マナが少しでも前を向けるようになったんだから。その近藤さんって子や高田くんが、学校へ行くきっかけを作ってくれたんだな。今度、お礼をしなくちゃな」
「そうだね」
「じゃあ、夕食作るのがんばっちゃおうかな。壮馬も来るって言ってたし」
「ちょっ。このことは父さんから言わないでよ。自分のことは自分で話すから」
「わかってるよ。自分のタイミングで、きちんと言うんだよ。お前が部屋に閉じこもったときに、本気で心配してたんだから」
「うん。ソウ兄にもすごく心配かけたから。きちんと向き合うから」
「うん。がんばれ」
「ありがとう」
泪を浮かべながらも、わたしはそっと微笑んだ。
*
連休が明け、いつもより早く起きて登校する準備をした。正直、かなり緊張をしてしまっている。胸が、はち切れそうなぐらいに、バクバクとしていた。だけれど、もうわたしは独りじゃない。気持ちを引き締めるように、タイを結んだ。
――早くしないと近藤さんを待たせてしまう。
急いで階段を駆け下り、玄関に向かった。
連休中に、近藤さんに復学すると連絡すると、彼女から一緒に登校しようと言ってくれた。正直、心強かった。まだ一人で学校に行くことが、とてつもなく恐かった。またあのときのように、異様な視線を向けられてしまうのではないか。考えただけでも、冷や汗をかいてしまう。だけれど、今は助けてくれる親友がいる。もう一人ではない。だから、もう一度学校へ行きたいと思えた。
「マナ、忘れ物はないかい」
リビングから父さんが顔を出して、声をかけてきた。わたしは溜め息を吐いた。夕べから幾度も同じ質問をされたからだ。
「父さん、それ何度目? もう大丈夫だから。何回も確認したんだから!」
「すまんすまん。でもまた娘の制服姿を見れるなんで思いもしなかったな」
「やめてよ。気持ち悪い」
「おっ、反抗期か」
父さんは、からかうような笑顔を浮かべた。わたしは「バカ」と呟き、靴を履いた。胸がざわざわと騒いでいる。でも今までとは、まったく違うざわめきであった。とてつもなく心地のいいものだ。わたしは、朗らかな調子で笑みを浮かべ、父に口にした。
「父さん。行ってきます」
「あぁ、行ってらっしゃい」
暖かい声に背中に押され、玄関の扉を開け、日に照らされた世界に一歩踏み込んだ。
制服を持って、父の元へ向かった。一番心配をかけたのは父さんなのだから。きちんとけじめをつけなければならない。キッチンに立つ父に声をかけた。
「ねぇ、父さん。今いいかな」
「なんだい。マナ」
「その。もし学校に行きたいって言ったら、父さんどうする?」
父さんは驚いた表情を浮かべた。それもそうだろう。これまでずっと不登校生活を過ごしてきたのだ。いきなり、学校へ行きたいと告げたのだから。しばらく沈黙が流れると、父さんは安心したような表情を浮かべ、口を開いた。
「本当かい。でも急にどうした。あんなに恐がっていたのに」
「今日ね、近藤さんと奏さんと一緒に出かけてたでしょ。それでね、臆病なところも含めて好きだって言ってくれたの。だからね、父さん。わたし、もっともっと二人に好きになってもらいたいの。だから、もう一度学校に行ってみたいって思ったの」
「そっか。良かったよ。マナが少しでも前を向けるようになったんだから。その近藤さんって子や高田くんが、学校へ行くきっかけを作ってくれたんだな。今度、お礼をしなくちゃな」
「そうだね」
「じゃあ、夕食作るのがんばっちゃおうかな。壮馬も来るって言ってたし」
「ちょっ。このことは父さんから言わないでよ。自分のことは自分で話すから」
「わかってるよ。自分のタイミングで、きちんと言うんだよ。お前が部屋に閉じこもったときに、本気で心配してたんだから」
「うん。ソウ兄にもすごく心配かけたから。きちんと向き合うから」
「うん。がんばれ」
「ありがとう」
泪を浮かべながらも、わたしはそっと微笑んだ。
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連休が明け、いつもより早く起きて登校する準備をした。正直、かなり緊張をしてしまっている。胸が、はち切れそうなぐらいに、バクバクとしていた。だけれど、もうわたしは独りじゃない。気持ちを引き締めるように、タイを結んだ。
――早くしないと近藤さんを待たせてしまう。
急いで階段を駆け下り、玄関に向かった。
連休中に、近藤さんに復学すると連絡すると、彼女から一緒に登校しようと言ってくれた。正直、心強かった。まだ一人で学校に行くことが、とてつもなく恐かった。またあのときのように、異様な視線を向けられてしまうのではないか。考えただけでも、冷や汗をかいてしまう。だけれど、今は助けてくれる親友がいる。もう一人ではない。だから、もう一度学校へ行きたいと思えた。
「マナ、忘れ物はないかい」
リビングから父さんが顔を出して、声をかけてきた。わたしは溜め息を吐いた。夕べから幾度も同じ質問をされたからだ。
「父さん、それ何度目? もう大丈夫だから。何回も確認したんだから!」
「すまんすまん。でもまた娘の制服姿を見れるなんで思いもしなかったな」
「やめてよ。気持ち悪い」
「おっ、反抗期か」
父さんは、からかうような笑顔を浮かべた。わたしは「バカ」と呟き、靴を履いた。胸がざわざわと騒いでいる。でも今までとは、まったく違うざわめきであった。とてつもなく心地のいいものだ。わたしは、朗らかな調子で笑みを浮かべ、父に口にした。
「父さん。行ってきます」
「あぁ、行ってらっしゃい」
暖かい声に背中に押され、玄関の扉を開け、日に照らされた世界に一歩踏み込んだ。
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