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第5章
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しおりを挟む二人が地下8階層に来て、一日が過ぎた。
一日とは、このダイスボードに於いて地下8階層だけ許された明確な時間表現である。
地上へと続く魔法転移陣のある地下8階層にだけは、時間を図る習わしが存在する。
日は無くとも、せめて時の流れぐらいはーー
いつかの冒険者が、そう思った故の計らい。
だからこその一日。
昼夜の有無は分からないダンジョン内で、ヒポクリフトは朝を迎えた。
結局、ヒポクリフトとガンスレイブはボムズの住む石造りの家にお邪魔する事になった。
外から見た感じは然程広くは見えなかったが、中はかなり広く、しかも3階まで存在する。
ヒポクリフトは3階の一間を借りて、ガンスレイブは適当に何処かで腰つかせていた。
ヒポクリフトにとって、それは久々のベッドだった。
冷たいダンジョンの床ではない。
また魔物は襲ってこない。その他諸々の危険は、まずない。
幸せーー
起きた瞬間にもそう思って、再び寝ようとしたヒポクリフトの部屋に、ドカドカと階段を昇り来る足音が近づいていた。
そして足音が止まる頃、部屋の扉は勢い良く開いた。
「おっはよ!!朝だよ!ご飯だよ!」
現れたのはボムズである。
朝から元気一杯のボムズとは、とにかく愉快そうだった。
「あ、おはようございますボムズさん……」
「ああ、おはようヒポちゃん!ささ、早く二階に!ご飯の準備はしてあるよ!」
「ご、ご飯、ですか?」
ヒポクリフトはゴクリと唾を飲んだ。
そんなヒポクリフトとは、ここまでろくな食事をとってはいなかった。
食えて、ガンスレイブの食べれると判断した魔物の肉だったり、野草だったり、とてもじゃないが美味いと言えないものばかり。
だからこその期待。
ヒポクリフトは期待を存分に、真剣な眼差しを作った。
「それは、魔物の肉、でしょうか?」
「え?違うよ!あんなクッサい肉、わざわざ食べるわけないじゃない?」
確かに、ヒポクリフトは頷き答えた。
「では、どういったものでしょう?」
「大したもんじゃないけど、牛肉のスープに、それとパンでしょ?それと、」
ボムズがそこまで言いかけて、もう大丈夫です、とヒポクリフト。
「ご馳走なのは、重々伝わりました」
「ご、ご馳走って程じゃないけど……」
二階へと降りたヒポクリフトの目に、獣顔はいる。
食事の並べられたテーブルについて、何故か胸元には真っ白なよだれかけが巻かれていた。
え?ーー
ヒポクリフトは目を丸くさせて、ガンスレイブを見つめていた。
「やっぱりあれ、可笑しいよね?」
ヒポクリフトの隣からヌッと顔を出したボムズが言って、ニヒルな笑みでガンスレイブの首元に巻かれたよだれかけを指差した。
「いやいや、獣の食事は荒いからね?部屋を汚されたら叶わないからね?」
「……汚すか馬鹿者。大体、俺は飯は食わない」
ガンスレイブが席を離れようとして、それを無理やりボムズが止める。
「まぁまぁ、たまにはいいじゃない!それにこんなものまで巻いちゃって~」
ボムズはガンスレイブに巻かれたよだれかけを指で摘んだ。
「お前が無理やり巻いたのであろうが!」
「あれ、そうだっけか?」
「ふん、白々しい……この怪力娘は」
「言ったね、獣の……あんた、今私を怪力馬鹿と、そう言ったね!?」
「そこまでは言っていない」
やれやれと、ガンスレイブは鼻息を吹く。
その様子に、一層ムキになるボムズ。
それはまるで痴話喧嘩。
そんな獣に近い人間と、獣顔の人型による一連のやり取りを見て、自然とヒポクリフトの口元を緩んでいた。
「な、何がおかしい?」
ガンスレイブは気まずそうに尋ねる。
「いえ、別に……ふふ」
「?」
ガンスレイブはただ不思議そうに、笑うヒポクリフトを見つめていた。
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