上 下
32 / 43
第5章

3

しおりを挟む

 二人が地下8階層に来て、一日が過ぎた。
 一日とは、このダイスボードに於いて地下8階層だけ許された明確な時間表現である。
 地上へと続く魔法転移陣のある地下8階層にだけは、時間を図る習わしが存在する。
 日は無くとも、せめて時の流れぐらいはーー
 いつかの冒険者が、そう思った故の計らい。
 だからこその一日。
 昼夜の有無は分からないダンジョン内で、ヒポクリフトは朝を迎えた。
 結局、ヒポクリフトとガンスレイブはボムズの住む石造りの家にお邪魔する事になった。
 外から見た感じは然程広くは見えなかったが、中はかなり広く、しかも3階まで存在する。
 ヒポクリフトは3階の一間を借りて、ガンスレイブは適当に何処かで腰つかせていた。
 ヒポクリフトにとって、それは久々のベッドだった。
 冷たいダンジョンの床ではない。
 また魔物は襲ってこない。その他諸々の危険は、まずない。
 幸せーー
 起きた瞬間にもそう思って、再び寝ようとしたヒポクリフトの部屋に、ドカドカと階段を昇り来る足音が近づいていた。
 そして足音が止まる頃、部屋の扉は勢い良く開いた。
「おっはよ!!朝だよ!ご飯だよ!」
 現れたのはボムズである。
 朝から元気一杯のボムズとは、とにかく愉快そうだった。
「あ、おはようございますボムズさん……」
「ああ、おはようヒポちゃん!ささ、早く二階に!ご飯の準備はしてあるよ!」
「ご、ご飯、ですか?」
 ヒポクリフトはゴクリと唾を飲んだ。
 そんなヒポクリフトとは、ここまでろくな食事をとってはいなかった。
 食えて、ガンスレイブの食べれると判断した魔物の肉だったり、野草だったり、とてもじゃないが美味いと言えないものばかり。
 だからこその期待。
 ヒポクリフトは期待を存分に、真剣な眼差しを作った。
「それは、魔物の肉、でしょうか?」
「え?違うよ!あんなクッサい肉、わざわざ食べるわけないじゃない?」
 確かに、ヒポクリフトは頷き答えた。
「では、どういったものでしょう?」
「大したもんじゃないけど、牛肉のスープに、それとパンでしょ?それと、」
 ボムズがそこまで言いかけて、もう大丈夫です、とヒポクリフト。
「ご馳走なのは、重々伝わりました」
「ご、ご馳走って程じゃないけど……」

 

 二階へと降りたヒポクリフトの目に、獣顔はいる。
 食事の並べられたテーブルについて、何故か胸元には真っ白なよだれかけが巻かれていた。
 え?ーー
 ヒポクリフトは目を丸くさせて、ガンスレイブを見つめていた。
「やっぱりあれ、可笑しいよね?」
 ヒポクリフトの隣からヌッと顔を出したボムズが言って、ニヒルな笑みでガンスレイブの首元に巻かれたよだれかけを指差した。
「いやいや、獣の食事は荒いからね?部屋を汚されたら叶わないからね?」
「……汚すか馬鹿者。大体、俺は飯は食わない」
 ガンスレイブが席を離れようとして、それを無理やりボムズが止める。
「まぁまぁ、たまにはいいじゃない!それにこんなものまで巻いちゃって~」
 ボムズはガンスレイブに巻かれたよだれかけを指で摘んだ。
「お前が無理やり巻いたのであろうが!」
「あれ、そうだっけか?」
「ふん、白々しい……この怪力娘は」
「言ったね、獣の……あんた、今私を怪力馬鹿と、そう言ったね!?」
「そこまでは言っていない」
 やれやれと、ガンスレイブは鼻息を吹く。
 その様子に、一層ムキになるボムズ。
 それはまるで痴話喧嘩。
 そんな獣に近い人間と、獣顔の人型による一連のやり取りを見て、自然とヒポクリフトの口元を緩んでいた。
「な、何がおかしい?」
 ガンスレイブは気まずそうに尋ねる。
「いえ、別に……ふふ」
「?」
 ガンスレイブはただ不思議そうに、笑うヒポクリフトを見つめていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。 ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。 基本ゆったり進行で話が進みます。 四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...