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第3章
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しおりを挟む「ギィイイッ!!!!」
ゴーストは、激しく怒っていた。
また、どうやって二人を、ガンスレイブとヒポクリフトを亡き者にしてやろうと画策を張り巡らせていた。
乗っ取りは不可能。
でもだからといって、それがゴーストの全てではない。
基本は生者の体に移る戦いをしているが、それが出来ないのであれば……
空中を彷徨っていたゴーストが地上へと降りる。
そして、ゴーストの黒い霧の中から、ゾロゾロと無数の魔物達が姿を現した。
それはかつて、ゴーストが取り込んだ魔物達である。
ゴーストは、魔物の体には移れないものの、その黒い霧の中に閉じ込めて置く事ができる。
しかも、その数に限りはない。
また、どんな魔物でも、集約しておく事ができる。
そんな魔物達の中には地下深くにしか存在しない強力の魔物が多数含まれていた。
その魔物とは、熟練の冒険者三人分に匹敵する程の、強力の魔物達である。
しかも、そんな魔物達を無限と呼べるぐらいには貯蔵してある。
いくらガンスレイブとて、この数を相手にしては苦戦するに違いないーー
ゴーストはそう思っていた。
また、絶対に負けるはずはない、と。
だから、驚いたのである。
「……ゴーストよ、俺はもう、貴様を封印するなど、そんな生温い考えは捨てた」
ガンスレイブは、静かな口調で言った。
また静けさの中に、強い覚悟が込められているような、そんな口調で。
「殲滅、開始」
その言葉を合図に、ガンスレイブが動き出した。
右手には先程同様には大剣、ただ違いがあったとして、左手に水晶玉が握られていることぐらいだろうか?
その水晶玉が、眩い閃光を放っていた。
『!?』
ゴーストは、その閃光に酷く怯えていた。
またこれ以上この場に居たくないと、逃げ出してしまいと、そう思っていた。
だが、ガンスレイブはそれを許さない。
咆哮を上げ、地上にいる魔物達を虫ケラのようには、屠り、潰していく。
水晶玉から発せられる閃光に魔物達の動きは縛られているようだった。
瞬く間に、魔物の数が減っていく。
やばいーー
ゴーストは身の危険を察知していた。
今のこの状況は、自分にとって、非常にまずい状況である。
認めたくはないが、一時撤退もやむなしかーー
と、ゴーストが後退を始めようとした、
次の瞬間。
「どこにいく?」
『!?』
ゴーストのすぐ側で、ガンスレイブが訊ね聞く。
逃さないと、そう言っているかのような口振りで。
「この魔浄石なら、貴様を滅殺するには充分だろう?それは思わないか?」
だろう?
「さぁ、その正体を見せてみろ」
次に、ガンスレイブは魔浄石をゴーストの体の、黒い霧の中へと突っ込んだ。
魔浄石の閃光がより強い浄化の光となって、ゴーストの黒い霧を消し去っていく。
そして、その正体を露わにしていた。
「ほう……」
呟いて、ガンスレイブはゴーストの正体を、拝む。
見下すといった方が適切か。
ガンスレイブの視界先で、小さな目玉の塊がギョロギョロと蠢いていた。
それこそが、ゴーストの正体。
黒い霧の中にいたものとは、そんな目玉の塊でしかなかったのだった。
ガンスレイブは、溜め息を吐く。
「悍ましい……まさか貴様のようなものに……俺は今まで、苦しめられたというのか……」
『!?』
「ゴーストよ……死が、怖いか?虚無は、嫌か?」
『!??』
「この俺が……怖いか?」
ガンスレイブの赤い眼光が、ギラリと光る。
ゴーストはこの時、この世界に存在する事を許されて初めての死という概念を感じ始めていた。
よもや、この自分が死ぬわけない。
ずっとそう思ってきたゴーストには、死が全く持って理解できないでいたのである。
ただ、この時ばかりはそうはいかない。
それはこれまで数多の死を見てきたゴースト自身がよく理解していた。
自分は、これまで葬ってきた者達のようには、苦しみ、もがき、そして、死ぬのか?
『嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……』
ゴーストは一目散の撤退を敢行する。
体は黒い霧でいたよりも、随分と軽い。
また体が小さいため、仮にガンスレイブが攻撃してきたとしても回避は容易であろう。
ゴーストはまだ諦めていなかった。
まさか自分が無様にも逃げ惑うことになるとは想像にもしていなかった。
でも、生きてさえいればチャンスは何度だってある。
ゴーストは逃げる最中にも、次はどうやってガンスレイブを苦しめてやろうか、思考を張り巡らせていた。
生きてさえいれば、生きてさえいればーー
ゴーストは生まれて始めての生の有り難みを実感。
生きてさえいれば、何でもできる。
そんなもの、今更考えたって遅いとは梅雨にも思わずに。
「死の覚悟はできたか?」
『!??』
ガンスレイブが、唸る。
背後から伝わる、強者の気配。
圧倒的、死の香り。
総じて、その時のガンスレイブはーー
死神だった。
「さぁ、泣け」
ガンスレイブがゴーストの体を、目玉の塊を握り捕まえた。
そのままゆっくりと、力を入れたり、入れなかったり、まるでゴーストの命を弄(もてあそ)ぶようには命運を左右している。
「……俺は、今、どうやら怒っているらしい」
『!??』
ガンスレイブは唸る。
一切の迷いは、とうに捨てている。
今はただ、このゴーストを断罪できる唯一の者として、その罪に値する殺し方を、模索する。
模索して、ついにはその答えは見つからなかった。
それ程に、このゴーストに対する怒りは、重い。
普段、生命の生き方、在り方に文句を言わないガンスレイブもこの時ばかりは我を忘れる。
ただ無情の死神と、成り果てていた。
そして、
「潰れろ」
グチャリッ、ガンスレイブの手の中で目玉の塊は潰れた。
果たしてそれが、生き物であったのか、またただの目玉に過ぎなかったのかは、誰にも分からない。
故に、覚えられもしない。
ガンスレイブだけが、覚えている。
「……哀れな」
ただガンスレイブは、覚えておくつもりはないようだった。
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