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第3章

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◆◇◆◇ 

 いつかの獣顔とは、やはり迷宮ダンジョンの攻略に精を出していた。
 それはヒポクリフトという冒険者と出会う、100年以上も前の話であり、もちろんヒポクリフトはまだ世界には生まれていない。
 そんな迷宮ダンジョン[ダイスボード]で、ガンスレイブが地下52階層に差し掛かった時であった。
 ガンスレイブの隣には、一人の冒険者の姿があった。
「ねぇ、どこまで行くつもり?」
 一人の冒険者はガンスレイブに尋ねる。
 艶やかなブロンドの髪を靡かせ、ただ黙々とは歩くガンスレイブに歩調を合わせ疑問色を浮かべるのであった。
「このダイスボードが続く限りだ。それと、アルビダ、お前はいつまでついて来る気だ?」
 重たいため息まじりに、ガンスレイブは呆れ声を発した。
 もちろんそれは隣を歩くその冒険者へ向けてであり、その冒険者をガンスレイブはアルビダと呼ぶ。
「あなたが進む限りよ。全く、こっちの身にもなってよね?」
 その冒険者ーーアルビダは眉を顰(しか)め、ガンスレイブの横顔を覗く。
 アルビダの目にいつも変わりない様子のガンスレイブの横顔とは映る。
 まるで自身の存在など気にもとめてないような、そんなガンスレイブの様子一切にいつもと変わりない。
 アルビダはそれを快く思っていなかった。
 ガンスレイブはいつもそうだ。
 孤高の存在として、一人ズカズカと地下深くへと進んでいく。
 冒険者達が数をなして必死辛辛(からがら)には攻略するダイスボードを、平然とした様子では攻略していく。
 そんなガンスレイブとは、冒険者界隈で[キング]と呼ばれていた。
 それは言葉通りの意味で、ダイスボードの奥地の地下深くを一人で進撃していく様は、ダンジョン攻略の王と言っても過言ではない。
 ただ言って、キングの正体が獣顔である事はアルビダしか知り得ない事である。
 というのも、ガンスレイブは冒険者達の前では、いつも黒い羽衣を見に纏い、底の深いフードを被る。
 姿一切を露わにしていなかったのである。
 ガンスレイブ自身、明かすつもりもないようだった。
 また、アルビダは知っていた。
 この迷宮ダンジョン[ダイスボード]には、獣顔をした存在がいたという伝承が残されていることを。
 また、こうも思っていた。
 彼はもしかしたら古い伝承に伝わる獣顔のダンジョン攻略者であるのではないのか?
 このダイスボードの存在が発見されたとされる推定1000年前の文献に、もガンスレイブらしき存在の事は記されていた。
 四体の魔獣が世界を食い散らかしていた、そんな時代に神が現れ、魔獣に神罰を下したと。
 それと同時期に、獣顔の、魔獣の男(ウルフマン)という存在が地下迷宮ダンジョンに現れ、ダンジョン攻略を始めたと、そう記されていた。
 つまり、アルビダはこう考えていた。
 その四体の魔獣の内のその一体が、この地下迷宮ダンジョンに押し込められたのではないか、と。
 確証はない。
 また文献には、その魔獣の男(ウルフマン)はダイスボードで命を堕としかけた数多くの冒険者達を救ったとされる。
 なればこそ、人々に災いを齎(もたら)した、かの魔獣とは真逆の存在。
 果たしてガンスレイブとは何者なのかーー
 アルビダはガンスレイブを魔獣が転生した事実を推奨するが、
「どうした、アルビダ?」
 黙り込むアルビダを見て、ガンスレイブが訊いた。
 アルビダはあわあわと取り乱して、「何もない!」と声を張り上げる。
「そ、それより!ガンスレイブ、私はあなたに着いて行くと決めたの。別にいいでしょう?」
 話題を逸らすように、アルビダは訊ね聞いた。
 ガンスレイブは困った顔を作る。
 むう、とは呟いて。
「……邪魔にならなければ、別に構わんのだが」
「邪魔?あなたねぇ……この階層まで進んできた私が邪魔になるとでも思ってるわけ!?」
 確かにガンスレイブは孤高にして、最強。
 ただ言って、アルビダとてダイスボード地下52階層まで進んできた。
 冒険者の中ではかなりの実力者だと、アルビダはそう自負してする。
「それに、魔法に関して言えば、エルフである私の方が長けてる、違う?」
「……否定はしないが」
「そうでしょ?だったらいいじゃない。ガンスレイブと私、これからは二人でダイスボードを攻略するの。そもそも二人の方が何かと効率がいいでしょう?」
 アルビダの言っていることに、何ら間違いはなかった。
 そもそもダンジョン攻略とは、其れ相応の人数を成してこそ攻略が可能というもんである。
 それを、この獣顔は今まで一人でやって退けてきた。
 そんな事実の方が間違っているのだ。
「この話はこれでお終い!ガンスレイブ、これからよろしくね?」
 アルビダはガンスレイブの腕にしがみつき、楽しそうには笑う。
 ガンスレイブは嫌そうな顔で、アルビダの振り解く。
 それはかつての、ダイスボードで起きた実際の話。
 この時の二人は、これから待ち受けているだろう最悪の結末について、知る由はなかったのだった。
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