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楽園創造編

因縁のあいつらが攻めてきました

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「ビルマ様、無事任務を遂行して参りました。ご褒美なでなでを所望します」

 傷一つなく帰ってきた武甕雷タケミカヅチの頭を撫でながら、わたしはとにかく不安で仕方がなかった。

「や、やり過ぎかな?」
「なにを言いますかビルマ様、先に仕掛けてきたのはあちら側ですよ」
「そう言ってもですよザラトさん。別になにかされたわけじゃないよ? もしかしたら、この島へ移住しに来たのかも」
「甘いですね。冒険者たちが武装していたのです。完全に潰しにかかってきた腹ですよ」
「雑種に同調するのは不快極まりないですが、拙者もそう思います。奴らは拙者を見るなり、迷うことなく武器を構えました。あれらは、話し合いをするつもりはなかったようです。生かしてやっただけでも、譲歩してやった方ですよ」

 武甕雷タケミカヅチの話では、冒険者たちはガレオン船に備え付けられていた小舟で帰っていったというが……そもそもの話、彼らは一体どうやってこの最果ての島までやってきたのだろうか?

 それにだ、

「なんでここのことがバレちゃったんだろ……」
「裏切り者ですよビルマ様。安心してください、これから皆を集めて、一人一人拷問して犯人を炙り出しますので」

 ザラトの目は本気だった。

「ちょっと待って、ザラト」
「なんでしょうか? まさか、ビルマ様ご自身で拷問を?」
「ちょ、そんなわけないでしょ! わたしはただ、この中に裏切り者がいるなんてどうしても思えないの」
「では、どうして情報が外へ? この計画は、立案者である魔王様と、ここにいる者たちしか知らない極秘情報ですよ」
「そ、それでもっ! 裏切り者なんて、絶対にいないよ!」

 素行に難ありな子ばかりだけど、みんな心優しい子たちばかり。悪さをしたらちゃんと「ごめんなさい」するよう教育したし、仲間が悲しむことはしちゃダメだって伝えてきた。

 それに血は繋がっていないけれど、わたしたちはもう既に家族みたいなもの。灰狼勇華団ブレイブ・ウルフの時とは違う。わたしは彼らとの中に、真の絆を見つけたのだ。

「疑ったり、責めるのは簡単だよ。でも、だからこそそんな楽な道に走っちゃダメだって、わたしはそう思う。仲間が仲間のことを信用しないで、誰が信用するっていうの」
「ビルマ様……」
「だからザラト、もう仲間を疑っちゃダメよ。だってわたしたちは、もう家族みたいななんだから」

 ザラトは、面を食らった様子で「家族……」と呟いた。

「……分かりました。このザラト・リッチ、いま一度考えを改めようと思います」
「よしよし、良い子だね」

 わたしはザラトの頭を撫でてあげる。するとザラトは「むぅ……」と、小動物みたいな声をあげて縮こまった。

「ビルマ様、こんな雑種は放っておいて、もっと拙者を可愛がってくださいまし」
「武甕雷。あなたは余程この私に壊されたいようですね。いいでしょう、表へ出なさい」
「まあまあ二人とも、喧嘩しないで仲良くやってよ~」

 と、二人を仲裁していると──ガタンッ!

「「「我がビルマ隊に、敗北はなしッ! ビルマッ! ビルマッ!」」」

 なんか、みんなが勝手に盛り上がっている。
 でもそうだよね、みんなも多分、今回のことは心配だったのだろう。

 ほっとした、そんな感じか。

 だったら──

「よーしみんな、今夜は祝勝会だよっ! たくさん創造クリエイトしちゃうからねっ!」

「「「うぉおおおーッ!」」」

 その晩は、盛大な宴を開催。大いに盛り上がった。
 まだわたしたち以外誰も住んでないけれど、いつかこの島全体でお祭りができたらいいなって、そう思う。

 そうしたらきっと、幸せ倍増だ!

「あびゃあ~、飲み過ぎたぁ~」
「「「ビルマ様っ!?」」」

 ちなみに、わたしは18歳でもう成人したからお酒が飲めます。とは言え、かなり弱いみたいだけどね。

 そうして、わたしはいつの間にか気を失っていたみたいだ。

 家族に囲まれた、幸せな夜だった──

◾️

 翌朝。

「うげぇぇ、飲み過ぎたぁぁ」

 二日酔いだった。
 頭が超痛い。毎度のことながら、もう二度お酒なんて飲みたくないって、そう思っていると──ガチャッ。

「ビルマ様、緊急事態です」
「ごめんザラト、後にしてくれる……やばい、吐きながら死にそう……」
「そうですか。では、敵の侵攻は我々だけで対処致しますので。では」

 んっ、いま、なんて……敵?

「ちょちょちょっ! 待ったぁああああっ、おええぇぇっー──げろげろぉぉ」
「落ち着いてください、ビルマ様」

 強壮ドリンク【モンスターエンジン】を創造クリエイト、ガブ飲みっ!

 ふぅ、ちょっと気分が楽になってきた。

「それでザラト、敵って……」
「また人間たちが攻めてきたようです」
「え⁉︎ 昨日の今日で⁉︎」
「昨日の今日で、です。本当に懲りない連中ですよ」

 ため息を吐いたザラトは、手のひらに魔法映像ホログラムを展開させた。

「しかもなにを血迷ったか、今回はたったの4人です」
「えっ、うそ……これって……」

 魔法映像ホログラムに映し出された小舟に乗る4人を見て、目を疑った。

灰狼勇華団ブレイブウルフの、みんな……?」

 まさかこんなことって……。
 3年も経ってるから風貌は少し変わっているけど、彼らはどこからどう見てもかつての仲間たちだった。

 何年も一緒にいたんだ。見間違えるわけない。でも、どうして彼らがこの島に……。

「どうされますか、ビルマ様?」

 ザラトが聞いてくる。
 どうするって言われても……。

「会わない方がよろしいのでは?」
「えっ」
「かつての仲間たち、なのでしょう?」
「……どうして、ザラトが知ってるの?」
「ビルマ様のことは、世界で一番私が詳しいので」

 答えになってない。だけど、直々にわたしを魔王軍へスカウトしに来たのはこのザラトだ。その辺のことは、知っていたとしてもなんら不思議ではない。

「もしかしたら、ビルマ様がこの島にいることを把握した上で攻めてきたのかもしれません」
「そ、そんなことって……」
「ビルマ様を軽々しく見捨てたクズ野郎どもです。あり得ない話ではないと思いますよ」

 そうなのである。
 3年前、みんなはわたしが邪魔になったからと、平然とわたしを見捨てた。ずっと一緒に頑張ってきたのに、まるで腫物みたいに追い出して……。

「やはり、私が直々に行きましょう」
「えっ、ザラトが⁉︎」
「ダメですか?」
「いや、だって……ザラトは、戦いたくないはずだよ」

 ザラトは、眉根を寄せた。

「なにを言っているのですか? 私は、かの魔王アスラ・ソウ・リリスの右腕とまで恐れられた残虐非道な魔族、ザラト・リッチですよ。敵を血祭りにあげることが、私の至福そのもので──」
「いいや、違う。ザラト、あなたは本当は戦いたくないはずだよ」
「……どうして、そう思わられるのですか?」
「なんとなく、としか。でも3年間、ずっと一緒にいたんだもん。なんとなく、分かるよ」

 ザラトと出会って間もないの頃は、争うことこそが生きがいの魔族なんだろうと思っていた。けれど、実際は違った。魔族の誰かが喧嘩した時、ザラトは真っ先に仲裁に入っていた。

 なにより、ザラトはわたしと一緒になにかを作っている時、とても生き生きしていた。そんな子が、争いを好むなんてどうしても思えない。

「やっぱり、わたしが行く」
「ダメです」
「ダメでも行くッ!」
「そんなワガママ言わないでください。ビルマ様、あなたはこの島の主。言わば、王なのです。王が自ら戦地へ赴くなど、あってはなりません」
「いいや、行かせてザラト。これは、わたしのケジメでもあるの」

 ずっと、辛い過去から逃げ続けてきた。でもどんなに目を背けたって、当時のことが悪夢として蘇るし、わたしが灰狼勇華団ブレイブウルフの一人だったことは紛れもない事実だ。

「ちゃんと現実と向き合いなさいって、神さまがそう言っている気がするの」

 ザラトは、憂鬱そうに呟いた。

「神なんて、いるわけありませんよ」
「いるよ。だって、そうじゃなきゃわたしがここにいるわけないもん……わたしは、あなたたちとこの国を創造クリエイトするために、神さまからこの力を授かったんだ。他の誰かじゃない、わたしじゃないと、ダメだったんだよ」
「ビルマ様……」
「大丈夫。今回もきっと、うまくいくっ! だからザラトたちは、ここで待ってて。絶対帰ってくるから」

 わたしは部屋を飛び出し、灰狼勇華団ブレイブウルフが上陸するだろう海岸へと向かった。
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