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第1章 ゴブリンキング
終末歴1815年 1月20日
しおりを挟む最強。
果たして、そんな二文字の称号を得た者がこの世界にどれだけ存在するのでしょうか。
才能ある者。
研鑽を積んだ者。
一体どれくらいの月日を力に注ぎ込めばその領域に達するのか、知る者は限りなくゼロに近いでしょう。
ですが、彼に至っては違います。
何故なら彼は、その場に於いて敵なし、脅威なし。
襲いくる様々な魔物を払い除け、打ち倒し、最早その実力に敵う者は存在しなかったのです。
魔物たちはついに認めました。
彼こそが、最強に相応しいと。
故に、迷宮の最深部第48階層にて力の限りを尽くし競い合っていた魔物たちは、自ずと彼の前に道を開きました。
そして、彼はついにその頂き、迷宮の頂点、最奥の果てへと辿り着いたのです。
キングは、堂々たる威厳を放ち、数百年に渡り閉ざされていた扉を押し開きます。
そこは、荘厳たる空間でした。
部屋一面に財宝が敷き詰められており、その中央に一本の剣が突き刺さっていたのです。
キングは財宝を踏み潰しながら、室内へと進みます。
剣の前に立ち、ゆっくりと瞼を閉じます。
これまで歩んできた迷宮での記憶を思い返し、小さなため息を溢しました。
「こんなものか」
キングは憂鬱な声で言いながら、目を開くと、台座に突き刺さった剣を容易く引き抜きました。
彩飾のない、無骨な黄金の剣。
キングの趣味とは違う、なんとも面白みのない剣。
故に、キングは思いました。
迷宮の果てに残されていたのは、こんなにもつまらない結果でしかなかったのかと。
そこに、キングの求めた答えはありませんでした。
自身の出生に隠された秘密もありません。
超新星に関する秘密もありません。
ただただ強さを求めた意味もありません。
キングは思いました。
この迷宮は、もう無価値であると。
キングは剣を台座に戻し、その場を後にすることにしました。
最果ての間から出てきたキングに対して、魔物たちは恍惚とした瞳を向けます。
その瞳にて、「中にはなにがあったのか?」と、そう尋ねたがっているようでした。
これまで、並居る猛者たちが押しても引いても開かなかった迷宮の最奥には、一体なにがあったのか。
魔物の興味は尽きません。
キングはそんな魔物たちの気持ちに気付いてはいましたが、真実を教えてやろうとは思いませんでした。
ただ一言、呟きます。
「この先には、この世を統べるだけの力が眠っていた」
この言葉は、魔物たちの射幸心を煽りました。
歓喜にも狂気にも満ちた怪物たちの雄叫びが、迷宮内へと響き渡ります。
結果として、魔物たちはこれからも争いを続けることでしょう。
「くだらん」
キングは半狂乱する魔物たちに背を向けながら、迷宮を去っていきました。
そんなキングの堂々たる姿へ、魔物たちは畏敬の眼差しを送り止まない。
その後、キングは迷宮を踏破した唯一の魔物として長く語り継がれ、こうは呼ばれました。
『ゴブリンキング』と。
キングの実力を知る者たち全てが、彼こそが最強だと認め、その異名を語り継いだのです。
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