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第1章 モンスターテイマーとしての在り方

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 ひまわり牧場がモンスターテイマーなる職業(ジョブ)の訓練施設となって、今年で80年を迎えるという。
 ひまわり牧場は初め、人類にとっての害悪でしかないモンスターのその研究施設であったのらしいのだが、それもまた昔の話。
 今ではモンスターテイマーなる稀有な職業を志願する若者達が集まる場として、日夜モンスターと戯れる日々を送っている。
 彼等モンスターテイマーの卵達は早くて2年、遅くても三年の訓練期間を経ては世に送り出される。
 晴れてひまわり牧場を卒業した者は一端のモンスターテイマーとして、世の為人の為に働くと。
「それなのに、どうしてアポロさんは卒業しないのですか?」
 ひまわり牧場にはある宿舎の食堂。人の履けた食堂で二人、新米訓練生のウボーと私は遅めの夕食をとっていた。そんな折にも、ウボーは質問責めを繰り返す。
「どうしてって、私はまだここに来て一年しか経ってないから」
「でもでも、アポロさんは既に上級モンスターテイマーの称号を会得しているじゃないですか?」
 確かに、ウボーの言っていることは正しい。というのも、上級テイマーとして認められた私とは、既にひまわり牧場での訓練過程を全てクリアしている。故に私の任意次第でいつでも卒業していいとされていたのである。
「それなのに分かりません。アポロさん程のテイマーなら、今直ぐにでも世界で活躍できると思うのですが」
「活躍するつもりないからいいのいいの」
「えっ!? それ程の才能を持ちながら何故ですか!?」
 ウボーは身を乗り出し、目を見開く。
「そんな驚くこと?」
「当然ですよ! だって、ここの卒業生の中には既に世界を股にかけて活躍されてるテイマーさんがたくさんいるじゃないですか!?」
「それはそうだけど、だからって私まで彼等と一緒にされちゃ困るわけよ」
「何だかなぁ……アポロさん程のお人なら、金獅子のアルゴ様や竜騎士セブン様みたく超有名なテイマーとして活躍できると思うのですが」
「あー、いたね。そんなテイマー」
 確か二人共このひまわり牧場の卒業生だったと聞く。
 訓練期間が被っていないから会ったことないが、金獅子のアルゴは金等級のモンスター『金獅子』を従える有名なテイマーだ。
 竜騎士セブンもまた金等級モンスター使いで、気高き『紅竜』の主人として認められた唯一のテイマーであるとされている。
 モンスターには階級というものがあり、下から順に銅等級、銀等級、そして金等級と分別されている。
 テイマーの殆どが銅等級使い、才能があれば銀等級使い。そして、才能さえも凌駕する血統を得た者にだけが金等級使いとなれ、金等級モンスターの使い手は人類史に於いて未だ8人しかいないとされている。
 彼等は勿論のこと上級モンスターテイマー達であり、世界でも名の知れた人物達。そんな彼等に憧れたテイマーがここ最近急増している、とのこと。
「もしかして、ウボーがここに来た理由ってアルゴやセブンがここの卒業生だからって、そういうこと?」
「はい! 伝説のテイマーが卒業した学び舎で修練を積む、これ程に名誉な事はありませんよ?」
「ふーん、そんなもんかねー」
 私には分からない。どこで学ぼうがテイマーはテイマー。その事に変わりはないと思うのだけれど。
「あ、あとですね?」
 と、ウボーは身をモジモジと捩りながらに、続けて。
「あれ、まだ何か理由があるの?」
「はい。実は、上級テイマーのいる学び舎ってのも、中々ありませんので……」
 恥ずかしそうに言って、ウボーは俯いた。
「えっと、もしかしてその上級テイマーって、私?」
「……ええ、もちろん」
 ははは、えらく期待されたもんだ。
「でも残念、私はウボーが期待する程のテイマーじゃないからさ」
「そんな事はありません! 今日だって、ゴブリン達と楽しそうに鬼ごっこしてたじゃないですか!?」
 私にはできなかったのに……、ウボーはションボリとそうも言った。
「あれぐらい誰だって出来るって。私はほら、一応ここのゴブリンと面識あるしさ?」
 何で私がフォローせねばならないのか、後輩とは実に面倒なものだ。
 
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