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第4章 騒乱と死闘

12話 因果応報

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 次の瞬間、俺の視界からノブナガの姿が消えた。
 それは一瞬の出来事にして、反応することさえ許さない瞬間的な事象。
 目で追うことは無理に等しかった。また感覚にと知覚するのも困難に等しかった。
 だから次に俺がノブナガの姿を確認したのは背後からの攻撃を受けた後。瞬時に俺の背後へと移動したノブナガの俺の背中を蹴り飛ばした後だった。


「ぐっ!?」


 蹴られた痛みに耐えて、理解の追いつかない頭を必死に持ち直して、俺は身を翻した。 
 翻して、背後に移動したノブナガを視認すれべく振り返った。


「……いない…」


「こっちだよ、たけし」


「!?」


 またもや遅れを取ったのは俺。
 次は痛烈な一撃を頬に受けて、それは拳による一打。
 脳がグラグラと揺れていた。
 ノブナガの動きが早すぎて全く反応ができなかった。
 いや、早いとかそういう問題じゃない。そういう次元の話じゃない。
 アルバートとの初実戦の時にも感じた、人体の動きを遥かに超越した動きーー[スキル]。


 しかもそれはアルバートの[スキル]とはてんで比較にはならない。アルバートの時はまだ反応を許されていたが、今はそんなことも許されずに、俺はノブナガの攻撃を防ぐどころか姿を見ることさえも叶わなかった。
 

 そうした次の刹那にも再度ノブナガが俺の脇腹を殴りつけた。右手に握った黒々とした長刀をそのままに、何故かノブナガは左手のみの肉弾戦を実行する。そのまま一撃、ニ撃、三撃、四撃と、ひたすら俺の全身を拳にて殴りまくる。
 意味が分からない。


「…直ぐに殺してやってもいいんだがネ…でもやはりゲームは楽しまないと…そうだろ?それがかのjokerジョーカーと恐れられた存在とするならばネ」
 そう言って、クククとはノブナガは笑った。
 


「お前は…何を知って…いる」
 痛みに悶えながらも、俺は言葉をひねり出すようにはそう言って、尋ねた。
 


「教えてあげてもいいけど…ただ教えるだけじゃあ面白くもない。僕に勝ったら、色々と教えてあげてもいいけど?」


 「ま、無理だろうけどね…」と、なおも優位さを崩さずにノブナガ、全身を使っての渾身の回し蹴りで俺の脇腹を蹴り貫いた。


「がっ…はぁっ…」


 息が、苦しい…


「あらあら、弱いな、君は」


 全身が、痛い…


「…でも、やめないよ、僕は?」


 ノブナガはそのまま崩れた俺の体を押し倒すと、片手にて俺の右足首を掴んだ。
 掴んで、勢いよくは空中へと投げ飛ばす。
 投げ飛ばして、俺はフワリフワリと空中を待って、空気が振動する感覚を覚えた。


 必死に重たい瞼を開けて、俺は地上のノブナガへと視線を移す。
 移して、ノブナガから発せられる禍々しいほどの魔力オーラを感じとっていた、
 ノブナガの剣にどこからともない現れた黒い光が集まっては、刀身をみるみる漆黒色へとは染め上げていく。元々黒い長刀だったにしても、それよりもっと黒く、よどんでは俺の目に映し出されていた。


「死なないでよ、ほんと。勝負はまだまだ、これからなんだからぁっ!!」


 そう叫んだノブナガが、ブンッと、大きなモーションを見せつけては黒い長刀を振り抜いた。
 振り抜いて、ノブナガの黒い長刀から黒い斬撃が実態を帯びたかのようには一直線に俺へと迫っていた。
 それを回避のは不可能とは悟って、俺は不自由な体のままには力を振り絞って剣を構えた。


 そうした次の瞬間、黒い斬撃が俺の構えた剣に直撃。
 物凄い剣圧と、焼け付くような熱を発しているような、そんな斬撃。
 また空中に投げ飛ばされていた俺がそんな斬撃を受けきれるわけもなく、俺の手から剣から弾け飛ばされた。
 弾き飛ばされてだけならまだいい。ただそんなにもいかずに、俺の右腕をそのまま一気に巻き込んで行った。
 

 ストンッと、そんな軽い音が聞こえたような気がした。
 それが気のせいかどうかなんて今この状況に於いて分かるわけもなく、次の瞬間にも俺の体は宙から地面へと急降下。
 

 地面に落ちた俺を落下の痛みが襲う。ただそれだけではないよう思えた。その痛みは、右腕から。
 ジンジンとした裂傷からくる痛みのようで、ただ何かがおかしい。

『右腕が、異様に軽く感じていたのだ』


 地面には瞬く間に大量の血だまりが発生していた。
 それは右腕からダラダラと滝のようには流れ出ており、あまりの異常な量に驚愕を隠せなかった。


『兎に角…今は傷の心配をしてる場合じゃない!まだ戦闘は続いているんだ…起き上がらないと…』


 そうして、地面に右手をつこうとしたーー次の瞬間。
 

「…あれっーー」


 スルッと、体が地面へと倒れた。
 右手をつこうとした筈なのに、何故か俺の体は再び地面へと崩れ落ちていた。
 

「あれ…あれ…」


 おかしい。おかしいおかしいおかしいおかしいおかしい…
 ただ立ち上がりたいだけなのに、それができない。
 右手をついた筈なのに、何故かそこに右手は
 代わりと言ってそこには大量の血だまりが溢れ落ちていくだけで、またこんなにも右腕を軽いのは何故?
 何故?何故?何故何故何故何故…


『何故?』



「あは、ははははははは!!無様だねぇ…jokerジョーカー…まさかとは思うが、気付いていないのかい?」


 そう嘲笑うようには言ったノブナガに対し、「えっ?」とは自然と情けない声を出していた。
 俺は咄嗟にノブナガに目を向けて、ノブナガの人差し指を見た。


「ほら、ちゃんと自分の目でご覧よ。君の


「み、右腕…だと?」


「いいから、ほらっ!!」


「……」


 ノブナガに言われるがまま、俺は恐る恐る右手へを見た。
 見て、見えなかった。
 ある筈の場所に、右手は見えない。
 見えないということはつまり、ということ。


 じゃあって、どういうことだ?


「はは…は…う、嘘…だろ?」


「嘘じゃないよ?現実さ」


「はぁ、はぁはぁはぁはぁはぁ…」
 途端に、呼吸が尋常じゃなく早くに感じていた。
 いや、感じたのではない、実際にはそうだったのだ。
 心の動揺が、異常に俺の呼吸を荒げていたのだった。



「あ、あああああああああああっ!!!」


 俺は、右腕を失っていた。


「あははははは!何だよ、右腕を失ったぐらいで。jokerじょーかー、君は僕と同じでこれまでたくさんの命を奪ってきたんだろ?だったら、今更腕の一本や二本何だって言うんだ?」


「ちくしょうぉお…ちく…しょお…」


 耳が痛かった。
 何故ならそれはかつて、俺がアルバートの腕を切り裂いた際に言ったものと同様の言葉であったからだ。




””『…お前アルバートだってこれまでたくさんの命を奪ってきたんだろ?だったら、腕の一本ぐらいどうだってことはない…そうだろ?』””



 確かに俺はアルバートにそんな事を言っていた。
 腕を失い戸惑い狂うアルバートに対し、俺は間違いなくそんな言葉を投げかけていた。
 因果応報、俺は…あの時のアルバートのようには戸惑い、狂う。



「ぁあああ…ああ…」


 

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