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第2章 ラクスマリア城とラクシャータ王女の剣

22話 殺す決意

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「私を殺せるんですか?貴方に?」


 アルバートは手に持った[アルバートの短剣]を俺の血の滲む左肩に向けて、


「そんな傷で?さっきまであんなにも苦しそうにしていた貴方が?無理ですよね?だって貴方、覚悟、ないでしょ?」
 と、最もらしい事を口にした。


「覚悟、か…確かに、俺には覚悟が足りなかったのかもな…」


「自覚はあるんですね?だったらーー」


「それでも、それはさっきまでの話。もう迷ったりはしねーからさ、安心して死ねよアルバート・ジックレイ。俺はお前より遥かに最低で、最悪の殺人鬼にこれからなる男だ」


 そう言った俺の言葉に嘘偽りはない。
 俺はこれから本当にそうあるべき殺人鬼なる道だろうことを自覚していて、それは生きる為には仕方がないことだと割り切っていることで、俺はこれから悪の限りを尽くすだろう。


「魔王になるってのも、悪くないかもな…はは」


「魔王、ですって?あはははは、それは大きく出たもんですね。でもいいでしょう…そんな貴方だからこそ、私もまた本気の殺意を向けることができるーーー」
 その言葉を皮切りに、アルバートは動き出した。
 地面を蹴って、迷いなしには俺の方へ向けて飛びかかってくる。
 飛びかかって、アルバートの周囲一体を漂うオーラの影。
 そのオーラは先程アルバートから感じたものと同様の、要するにだ…


「やはり、スキルなんだな」


「御名答。あれ、貴方スキルの反応を感覚にて判断できる人ですか?」


 アルバートは前進しながらにはそう言って、続けざまに「特殊体質、ですね」とは呟く。


 そのままアルバートは低い姿勢のままには俺の足元に達すると、短剣を下方面から一気振り上げた。
 速い。


「…くっ!」


 それでも見えてないわけでもない。
 目視してから回避までは余裕、問題はどうやって攻撃に転じるかだがーー


「避けてばかりじゃ私は殺せませんよ?」


「ったりめーだ。そんなこと言われたくなくたって分かってんだ、!」


 片手にて振り抜いた剣、両手で振るよりもスピードは鈍く、力もあまり隠ってはいない。
 つまり、アルバートには届かない。


「はっ、おっそいおっそい!」


 アルバートは俺の剣を短剣にて受けながすと、流れるようなモーションのままには短剣を俺の腹へと向け突き出した。
 その瞬間、俺はスキル[エリアスリーパー]を発動させる。
 身を瞬時にアルバートの背後へと移して回避、形成を逆転させる。


『獲った!!』


 アルバートの背後に向けて、高く振り上げた剣を一気に振り下ろした。
 背後からの一撃、もしこれが直撃すれば俺の勝利は揺るぎないものとなることだろう。

 振り下ろされて、確かに俺の剣はアルバートの背中を確かに捉えていた。
 ただそこに手応えはなく、アルバートの背中をスルリとは通り抜け空を切る俺の剣。
 要するに、これはフェイクーー残像。


「あはははは!分身とはね、こうやって使うんですよ!!」


 俺の直ぐ頭上からアルバートの声が響き渡った。
 アルバートは優位そうな物言いで、それは事実、俺はアルバートの残像に剣を向けたままの不利な状態であった。
 

「自身の未熟さを呪いながら死になさい、たけしぃいいいい!!」


 アルバートは「アルバートの短剣」を両手でしっかりとは握り締めて、そのまま頭上から俺のうなじに向けて突き下ろす姿勢にいた。
 アルバートの振り下ろした刃と俺の首元、その距離は僅かでしかなく、また現状俺の不利な体制のままにそのアルバートの刃を避けることは無理に等しく…


『俺は、死ぬ』







「…なわけねーだろ、アルバートぉお!!」


 
---------------------------

【通常スキル】
・リバウンドアクション

[概要]
可動不能である自身の体制を瞬時には可動可能な体制へと転じることできるスキル。ただ可動可動な体制には限りがある。
その可動率はレベルによって比例する

----------------------------


 スキル[リバウンドアクション]を展開。
 スキルレベルは3。不利な体制から超常な動きを可能にする体術スキル。
 尋常ではない程の動きでは[アルバートの短剣]をうなじスレスレで回避。
 成る程、これがさっきアルバートが見せた変な動きの正体スキル。アルバートもこの[リバウンドアクション]を習得していたってわけか。


「種が見えてきたぞ…」


 俺は[リバウンドアクション]でアルバートの短剣を回避して、足を地面につけ、体制を安定させた。
 安定させて、短剣を地面へと突き下ろす形となったアルバートに向けて再度剣を振るう。


「…っちぃい!」


 アルバートは腰を落として俺の剣を避ける。
 避けるが、俺の振るった剣には僅かな手応え。
 見ると、アルバートの首元には掠める程度ではあったが血の滲む傷痕。
 
 

「よくも、やってくれましたねぇええ!!」


 激情を露わにするアルバート。
 俺にはそんなアルバートの姿が、やけに滑稽に見えて仕方がなかった。


 やった、アルバートに俺の剣が届いたんだ!
 やったぞ、俺の剣はアルバートに届く!
 届く、届く届く届く届く…


「来いよ、アルバート。俺はここだぞ?」


「この野郎ぉお!!」


 まさか傷をつけられると思っていたなかったのだろう、アルバートの動きに動揺が見え始めていた。
 また冷静さを失ったアルバートの短剣には、先ほどまでの鋭さはない。
 最早スキルなど使用しなくたって回避は余裕。


「くそ、くそ、くそ、くそ!」


 アルバートの連撃が面白いほどによく見えた。
 それこそ、この動体視力だったり反射神経だったりはアルテマの力の賜物なのだろう。
 そうさ、俺は普通してれば強いんだ。
 初めっから臆する必要なんてなかったんだよ。
 

「ふふ、はははははは!!」


 やばい、笑えてきた。
 俺は何に怯え、何を恐れていたのだろうか?
 俺がこんな奴アルバートに負ける筈ないだろう?
 

「今分かったよ、アルバート」


「は、はぁっ?何が、分かったと?」


「いや、普通に考えてさ……」


 俺は、


「俺はお前よりも、遥かに強いってことだよ」


 絶対に負けない。




 
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