29 / 78
第2章 ラクスマリア城とラクシャータ王女の剣
13話 初任務
しおりを挟む昼下がり午後、俺は一人城下街を歩く。
久々の外出、1週間ぶりに歩く城下町とはやはりと言って緊張するものだ。また色んな刺激に満ち溢れているせいかやけに気分が落ち着きない。例えば今まさに俺の横を颯爽とは歩き抜けていった冒険者風の男だとか、平然と様子では街の一風景として溶け込むトカゲ人間や猫人間などの亜人種達etc…目が奪われて仕方ない。
「やっぱり落ち着かねぇな、この場所は」
見渡す限りの人、亜人、そして時々見たこともない異様な獣が沢山の荷物を背負い道を闊歩する…その獣は生前で言うところの牛のような姿形をしている。まるで家畜のようである。
とにかくそんなルコンドの街並みとは圧巻の一言に尽きた。
人混みに緊張し過ぎているせいか時間の流れがやけに早く感じていた。
しかもずっと誰かに見られているような気がして、それは多分俺の勘違いなんだろうが、いかんせん俺は緊張しい性格だ。こんな人混みに紛れること自体慣れないわけで…うん、帰りたいな。
俺はグインの指示に従っては城下町へと繰り出し、覚束ない足取りのままにはその場所へと足を進めていく。
そうして辿り着いたその場所とは、ルコンドの中腹辺りにある一軒の鍛冶屋。
外観からして結構歴史の古そうな建物だった。看板に至っては年季が入りすぎていて最早読み取るのさえ難しい。
「ここで…いいんだよな?」
1週間前のあの日、武具の点検にやってきたとされるこの鍛冶屋の主人。確かに外来記録への記入は確認されていたはずなのに、何故か魔法によってその記録は隠蔽されていた。
その理由はまだ分からないが、少なくともあの晩に起きた殺人に関わっていたと間違いはないだろうとはグインは言っていた。
「とりあえず、中に入るか…」
鍛冶屋の扉を押して、恐る恐るは中へと足を進める。
中は入ってまず、俺の鼻を鉄と油の匂いが刺激していた。
また鍛冶屋の店内はかなり薄暗く、窓から入る弱々しい太陽光だけが頼りである。そんな頼りない逆光に照らされて、乱雑には散らばった刀剣やら防具やらが目を引くーーーそんな空間。
ざっと見た感じはそんな感じで、どうやら鍛冶屋の主人は外出しているらしい。
にしてもだ、おいおい何だよこの場所…
『これが…鍛冶屋?』
総じて、この鍛冶屋に対する俺の印象とは『不気味さ』そのものだった。
どれくらい不気味かと言えば、生前引き籠っていた俺の自室並。自分で言うのも何だが、生前俺の世界の全てだった自室とは人の住むような場所ではなかった。
それは何とも表現し辛い部屋の異臭だったり、湿気に満ちてジメジメとした悪い空気だったり、部屋中に散乱し尽くされたゴミの数々だったりと要因は幾らでもあったーーーが、元を辿ればそれら全てを生み出したのは俺自身であり、つまり俺という存在そのものが部屋を魔窟と化していたと言えるだろう。
当時の俺は自分をそんな風には思った事はなかったけど、今こうして異世界転生を果たして、生前の自分の事をよくよく考えるようになって、うん、やっぱり俺はどうしようもない奴だっだんだなーと改めて実感できる。
ここはそんな俺の自室によく似ている気がした。何がどう似ているか、なんてはっきりとは言えないけど、雰囲気とか、雰囲気とか雰囲気とか雰囲気とか。
要するに、この場所にはまるで得体の知れない何者かが潜んでいる気してならないわけだ。
『嫌なとこに来ちまったな…全く』
早くにも退散したいのが山々だが、いかんせん用を済ませないことには帰るわけにもいかない。
ただ事件に関わっているとされる鍛冶屋の主人がいないとなると、俺に現状できる事はまずない。
来て早々にも俺の心は挫けそうだった。
0
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない
AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。
かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。
俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。
*書籍化に際してタイトルを変更いたしました!
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
異世界転移!? それでも、絶対に引きこもってやる~
うさぎ青
ファンタジー
異世界転移といえば、チートで、スローライフとか引きこもるとかいいつつ、目立ちまくって、有名になって、全然逆の人生を歩んで行くのが、某小説等の定番だけど、私は、『有言実行』が座右の銘です。何が何でも、引きこもってみせます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる