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第六章 雨に濡れた髪
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「はぁ? デート? 蘭子が?」
次の日、営業終わりのことだ。大吾の自室に上がり込んで、僕は蘭子ちゃんから聞かされたその話を大吾へと打ち明けていた。
「そうみたい。なんでも24日のクリスマスイヴ当日、同級生にデートへ誘われたんだとさ」
「なんだそれ、ありえねぇ」
「そんなこともないでしょ。だって、蘭子ちゃんJKだし。色恋沙汰の一つや二つあったとしても、不思議じゃないと思うよ」
「ああ、普通のJKならな。どこにでもいる、ふっつーのJKならな。あいつは、あやかしだぞ」
「あやかしでも、女の子だよ。それにさ、あやかしと人が恋に落ちるって、なんだかロマンチックじゃない?」
少なくとも、僕はそう思う。大吾はどう思っているかは分からないけどさ。
「いや、それ自体は別いいんだよ……むしろ、あやかし同士よりは、ずっとマシだ」
と、神妙な面持ちで大吾は言った。少女漫画のようなロマンチックな恋を好む大吾のことだから、理解はしてやれるみたい。
僕は話の本題へと移ることにした。
「でね、デートをすることはいいんだけど、服とか髪型とか、どうしていいか分からないんだってさ」
昨日、蘭子ちゃんはこんなことを言っていた。
『あたし、デートとかしたことなくて、デートに着ていく服装とか、メイクとかもよく分かんなくて。それに髪型も、ずっとこんな感じだし……あたしって、本当に魅力がないんです』
そんな悩みを打ち明けられはしたものの、僕はそんなことはないと思った。自分では気付いていないのかもしれないが、蘭子ちゃんは姉の涼子さんに負けず劣らずの整った顔立ちをしている。メイクしなくても可愛いと思うし、それはそれで透明感があって僕は好きだ。それに、蘭子ちゃんの髪は痛みのない艶々とした髪質をしている。だったら問題なし、蘭子ちゃんはもっと可愛くなれる。
というわけで、僕はその旨を大吾に打ち明ける。
「だから、蘭子ちゃんのデートをプロデュースしてあげたいんだよ。名付けて、『蘭子ちゃんクリスマスデート大作戦』」
「けっ、そんなことか。やりたきゃ勝手にしろよ」
「大吾も一緒にだよ」
「は? 待て待て、なんで俺を巻き込むんだよ!?」
「いやだって、一人より二人の方がいいでしょ? それに、これは蘭子ちゃんたってのお願いでもあるんだから」
大吾は目を丸くした。また「どういう意味だ?」なんて、まだ理解が追いついてないみたい。
「だから、蘭子ちゃんが言ってたんだよ。大吾にも、協力して欲しいって」
「どうして。俺がいたって、どうにかなる問題でもねえだろ」
「そうでもないんじゃないかな。ほら、男目線から見た女の子の印象も大事だと思うし」
それに、
「『変わりたい』、だとさ」
「は?」
「いやね、昨日、蘭子ちゃんが言ってたんだよ。僕にはよく分からないんだけど、なんか大切な誰かがどっかへ行っちゃうみたい。だから、その誰かに心配かけないように、『変わりたい』って、蘭子ちゃんそう言ってたよ」
その「変わりたい」が、蘭子ちゃんにとってはデートだったのだろう。恋愛が大人の階段を登ることだって、その結論に至ったのかもしれない。僕はそんなにも純情な気持ちを尊重してあげたくて、また全力で応援してあげたいと思った。
一方の大吾とは、呆れたのか重たげなため息を吐く。
「はぁ、ったく。バカだな、あいつも」
「そんなこと言っちゃダメだよ。いいじゃないか、可愛いらしくて。それこそ、大吾が好きな少女漫画みたいな展開でしょ」
と、僕が言えば、
「ちげえよ、これは。そんなキラキラした話じゃねえ」
悟りきった表情を浮かべる大吾だ。そんな大吾には、妙な違和感を覚える。なぜなら、今の大吾はこの前の蘭子ちゃんと同じで深刻そうな目をしていたからだ。
「(なにか、僕が知らないことでも、あるのかな?)」
いずれにせよだ。
「……分かった。仕方ねえから、協力してやるよ」
大吾はもう一度大きなため息を吐くものの、結局は協力してくれるみたいだ。
次の日、営業終わりのことだ。大吾の自室に上がり込んで、僕は蘭子ちゃんから聞かされたその話を大吾へと打ち明けていた。
「そうみたい。なんでも24日のクリスマスイヴ当日、同級生にデートへ誘われたんだとさ」
「なんだそれ、ありえねぇ」
「そんなこともないでしょ。だって、蘭子ちゃんJKだし。色恋沙汰の一つや二つあったとしても、不思議じゃないと思うよ」
「ああ、普通のJKならな。どこにでもいる、ふっつーのJKならな。あいつは、あやかしだぞ」
「あやかしでも、女の子だよ。それにさ、あやかしと人が恋に落ちるって、なんだかロマンチックじゃない?」
少なくとも、僕はそう思う。大吾はどう思っているかは分からないけどさ。
「いや、それ自体は別いいんだよ……むしろ、あやかし同士よりは、ずっとマシだ」
と、神妙な面持ちで大吾は言った。少女漫画のようなロマンチックな恋を好む大吾のことだから、理解はしてやれるみたい。
僕は話の本題へと移ることにした。
「でね、デートをすることはいいんだけど、服とか髪型とか、どうしていいか分からないんだってさ」
昨日、蘭子ちゃんはこんなことを言っていた。
『あたし、デートとかしたことなくて、デートに着ていく服装とか、メイクとかもよく分かんなくて。それに髪型も、ずっとこんな感じだし……あたしって、本当に魅力がないんです』
そんな悩みを打ち明けられはしたものの、僕はそんなことはないと思った。自分では気付いていないのかもしれないが、蘭子ちゃんは姉の涼子さんに負けず劣らずの整った顔立ちをしている。メイクしなくても可愛いと思うし、それはそれで透明感があって僕は好きだ。それに、蘭子ちゃんの髪は痛みのない艶々とした髪質をしている。だったら問題なし、蘭子ちゃんはもっと可愛くなれる。
というわけで、僕はその旨を大吾に打ち明ける。
「だから、蘭子ちゃんのデートをプロデュースしてあげたいんだよ。名付けて、『蘭子ちゃんクリスマスデート大作戦』」
「けっ、そんなことか。やりたきゃ勝手にしろよ」
「大吾も一緒にだよ」
「は? 待て待て、なんで俺を巻き込むんだよ!?」
「いやだって、一人より二人の方がいいでしょ? それに、これは蘭子ちゃんたってのお願いでもあるんだから」
大吾は目を丸くした。また「どういう意味だ?」なんて、まだ理解が追いついてないみたい。
「だから、蘭子ちゃんが言ってたんだよ。大吾にも、協力して欲しいって」
「どうして。俺がいたって、どうにかなる問題でもねえだろ」
「そうでもないんじゃないかな。ほら、男目線から見た女の子の印象も大事だと思うし」
それに、
「『変わりたい』、だとさ」
「は?」
「いやね、昨日、蘭子ちゃんが言ってたんだよ。僕にはよく分からないんだけど、なんか大切な誰かがどっかへ行っちゃうみたい。だから、その誰かに心配かけないように、『変わりたい』って、蘭子ちゃんそう言ってたよ」
その「変わりたい」が、蘭子ちゃんにとってはデートだったのだろう。恋愛が大人の階段を登ることだって、その結論に至ったのかもしれない。僕はそんなにも純情な気持ちを尊重してあげたくて、また全力で応援してあげたいと思った。
一方の大吾とは、呆れたのか重たげなため息を吐く。
「はぁ、ったく。バカだな、あいつも」
「そんなこと言っちゃダメだよ。いいじゃないか、可愛いらしくて。それこそ、大吾が好きな少女漫画みたいな展開でしょ」
と、僕が言えば、
「ちげえよ、これは。そんなキラキラした話じゃねえ」
悟りきった表情を浮かべる大吾だ。そんな大吾には、妙な違和感を覚える。なぜなら、今の大吾はこの前の蘭子ちゃんと同じで深刻そうな目をしていたからだ。
「(なにか、僕が知らないことでも、あるのかな?)」
いずれにせよだ。
「……分かった。仕方ねえから、協力してやるよ」
大吾はもう一度大きなため息を吐くものの、結局は協力してくれるみたいだ。
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