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第4章
第7話 それぞれの今と、マシュマロ狂の願い
しおりを挟む「な、なんじゃこりゃあああああああ」
ふさげんな!俺の死を哀れんでいるかと思いきや、あいつら自由気ままに生きまくってんじゃねぇか!?
何だよ山賊に占い師にアイドルって、意味不明にも程があんだろ!?
「やっぱあいつらアホだ…ホンマもんのアホだよ…」
今の気持ちをどういった言葉で表現していいか分からない。分からないから、ただただ虚しく思うのだ。
「バンキス、愉快な仲間達やね?」
「ああ、全くだ…こんな事なら命を張って守るべきじゃなかったのかもなって思います、はい…」
「何で、落ち込む?」
「分からない。何でだろうな…」
別に彼女達がどういう生き方を選択しようが構わない筈だった。むしろこのまま各々がそれぞれの道を歩むというのであれば、それは俺にとっても好都合なわけだ。
俺の冒険者スローライフが約束されたようなもん。何せあいつらからすれば、俺は過去の人らしいし?このまま地上に戻ったところで俺の生きている事実すら気付かないだろうし?そう考えれば最上の未来と呼べなくはないが…
少しだけ寂しいなって、そう思うわけだよ。
「なぁビルマ、お前はあんな自由気ままな人間達を見て、どう思うんだ?」
どうしてそんな事を尋ねてしまっていたのか自分でもよく分からなかった。ただ聞いてみたいとは、そう思う俺がいたのは確かだった。
ビルマは一瞬戸惑った様には空を仰いだ。そして、
「楽しそうでいいなって、そう思う」
と、予想外な解答をするもんだから俺は面を食らっていた。
「た、楽しそう?」
「そう、みんな自由そうで、いいなって、ウチはそういうの、なかったから」
ビルマは寂しげな顔を作る。
「でも、そういうのが人の営みというもの、違うバンキス?本来、自由な生き方を選択できる生き方こそが正しいやないのかなって、ウチはそう思うの」
そう言ったビルマがこの時、どんな感情を胸に秘めていたのかは俺には分からない。ただ言って、楽しい感情じゃないことだけは、何となくだが理解できた。
また、そう言うビルマの言葉が全く理解できない俺ではないということも間違いでなかったり、
「…でもそうだよな…確かにお前の言う通りなのかもしれない。俺だってさ、別に冒険者になりはしたが魔王討伐したかったわけじゃないし、幻の大地グランデリアに行ってただただ自堕落な生活を送りたいという、ただそれだけの事の願いだったわけだしなぁ…」
考えてみたら俺とて彼女達と何ら変わりないじゃないか?
今更ながらに、俺はその事に気付かされていた。
いつの間にやら真っ当な冒険者のようには糞真面目にクエストをこなしていた俺こそ可笑しな話だったんだよ。仲間の為に動いたり、冒険資金貯めたり、協力して魔物を倒したり、そういうの。
「はは、いつから俺はこんなにも偉い子ちゃんになっていたんだろうなぁ…終いには地下異空間に閉じ込められるという災難付きだ」
「後悔、してる?」
「ん?」
「いやね、バンキスは、彼女達を守って、こんな事になったんでしょ?だったら、その選択に後悔はあったのかと、そう尋ねたい」
ビルマは真剣な瞳をぶつけてきていた。そんなビルマに対して「後悔しまくりだよ!」って、そう言おとした手間、
そうじゃないかって、何故かそう思ってしまう俺がいた。だから、
「いや、後悔はないかな?」
と、そう口走った俺は何だ?自分でもよく分からない。
「どうして、そう思う?」
「さぁね?ただ、あの時あの瞬間、俺の選択が違っていたらさ、今のあいつらの日常もなかったことになっていたかもしれないわけだろ?いやな、俺は別にいいんだ。俺はどんな運命に苛まれようが生き抜く自信があるし、その為の力を持ってるし…だが、あいつらは違う。あいつらはあいつらで凄いやつらだが俺からすればまだまだ未熟な仲間達、だったんだよ。だからさ、あいつらの未来が守れただけでもいいのかな、今はそう思う…かな」
それは嘘偽りなく、今の俺にある正直な感想だ。確かに俺の死を気に病んでくれたらいいなって、そう思う自分もいたりはしたが、そんな事より前を向いて進む彼女達をみれた事の方が何倍も良かったんではないかと、
「ま、欲を言えばもう少し真っ当な生き方をしてくれていた方が心配事も少なかったわけではあるが」
「…ふふ、バンキス、やっぱ良いやつ。ウチ、そういうの好きだよ」
ビルマはクスクス笑った。そんなビルマに、俺もまた尋ねてみた。
「お前はどうなんだよ?」
「ウチ?」
「ああそうだ。お前だってさ、地上に戻らない方が人類の為だって自分で決めておきながら、その手鏡を使って地上の様子を覗いていたんだろ?それってのはつまり、まだお前が地上に未練があるっていうことじゃないのかよ?」
「そ、それは…」
「それによ、お前からすればここでの生活は1カ月そこらみたいだが、地上では180年も過ぎている。その間、ビルマはずっとそんな世界が移り変わって行く様を見続けていたわけだろ?それって、寂し過ぎるじゃねーか…」
俺にはそんな生活耐えらんねー。例え自分が地上にとっていない方がいい存在だとしてもだ(実際ビルマなんかよりも俺の方がヤバイ存在だし)、それでも俺は自身の幸福を選ぶ。その事に際して、俺は別に自身を恥じたりはしない。胸を張って生きたいと、そう思っている。
「だからだよ、もう一度聞くぞ?お前にとって、ここでの生活は満足しているのか?また出たいか出たくないかと言えば…どっちなんだ?」
「……それ、答える意味ある?だって、どうせこっから出れないわけだし、それにウチが地上に戻ったって、」
「そうじゃないだろ?出れない出れるはまた別問題。あと、地上がどうだとかお前には関係ない。俺はなビルマ、今の、お前自身の話をしているんだ」
ビルマはキョトンとした瞳で俺を見つめて、
「ウチ、自身?」
「そう、ビルマ自身の率直なる願いの話だ。もう一度聞くぞ、ビルマ…お前は、どうしたい?」
「ウチは…」
ビルマは悩んでいた。無理もない。何せいきなり地上からやってきたただの冒険者風の俺にだ、トンデモナイ質問をぶつけられているわけだからな。聞いた話じゃビルマは自身が魔王になったことを悔いている。またその結果このカナリヤ大墳墓に封印された事も仕方ないと、そうも思っている。
でも、俺の予想が正しければだが、お前はそんな良い子ちゃんな筈ないんだよ。何故だか俺にはそれが分かる。
何故かって?知るか馬鹿野郎。分かるから分かる、ただそれだけのことだ。丸いものは丸い、動物は動く生き物、人間は自身の願いを叶えたい生き物、ただそれだけの話だろ?理屈じゃない、これは至って仕方ない自然現象ということだ。
だから問いたい、ビルマ、お前はどうしたい?
「ウチは…」
うんうん、
「ウチはッ!!」
おう!
「地上に出て…マシュマロの海に沈みたい!!」
成る程なって、
「何だよそれ!?今とあんな変わんねぇじゃねーか!?」
「違う!ここではマシュマロの数は減りゆく一方…毎日毎日一日のマシュマロ摂取量を考えなくてはいけない…ウチはそんなん嫌なんよ!マシュマロもを、思う存分食べたい!食べたいんよ!」
だそうだ。
「はぁ…ビルマ、お前がとんだマシュマロ狂だということは理解した。でもまぁ、人の願いなんて人それぞれ、何を願おうが人の勝手だしな。かく言う俺も大した願いなんかじゃないし…」
ただどちらにせよ、ビルマがこの異空間から脱出したいという願いは聞き届いた。なら話は早い、
「じゃあビルマ、今の内そのマシュマロ達を思う存分食っておくことだな?今にそのマシュマロ達はこの空間と共に消えて亡くなってしまうことだろうから」
「ど、どういう意味?バンキス、まさか…」
ビルマは目を見開いて、
「まさか、この魔術式異空間を解除すると、そう言うの!?」
と、心底驚いていた。
「ああ、そのまさかだよ」
「あり得ない。バンキスは馬鹿だと思っていたけど、救いようのない馬鹿、だったんだね…」
「はは、そう言ってられんのも今の内だぞビルマ?今から巻き起こる全てを見て、お前は俺に感謝せざるを得なくなる」
「まだ言うんね…」
「とにかくだ、そこで見てろビルマ。今、俺がお前の縛り付けているものを破壊してやる」
そう、俺にはそれができる。神の力を得ている俺ならな?
「自由を、この手に…魔力、解放…」
世界よ、動き出せ。
俺たちを、解放せよ!
「魔力、大放出!!」
恒久なる自由を、俺たちは望む…
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