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 私がモンスター?
 はて、このベルウルフという男はいきなり何を言い出すのでしょうかね?
 意識そのもの狂ってしまったのだと推測します。
 大体、私にモンスターとしての要素がどこにあると言うのかお伺いしたいところです。
 ま、何にせよ。一先ず、
「私に敵意を向けた貴方を駆逐する方が先でしたね、ベルウルフ」
 私は宙を舞う体を安定させ、地面に着地。そのまま後退しました。
 後退して、荷物を回収。一時撤退。
「……何処へ行くぅうう?」
 背後からそんなベルウルフの気色の悪い声を聞きます。知りません。私はただ森中へと逃げました。
 暫く逃げて、草木の茂みへと身を隠します。これで少しは時間稼ぎできるでしょうと考えた私ですが、
「……待ってくれよぉお……仲間を置いていくなんて酷いじゃないかぁああ?」
 私の逃避行動も無駄には終わったようです。
 直ぐそばから、以前としたベルウルフの不気味な声が聞こえてきます。まるで私の位置が分かっているかのようですね。
「俺も駆逐するんだろぉおお?」
 尚も声が響いてきます。ただ、どこから響いているのか分かりません。
 息を殺し、耳を澄まします。神経を研ぎ澄まし、ハンターとして培ってきた索敵能力をフルに引き出します。
 ますが、やはりベルウルフがどこにいるのかてんで分からない私です。
 どうして?
「どうして私の位置が分かるのか、そう思うだろぉおお?」
 真横からでした。突然、茂みからにゅっ顔をだしたベルウルフと目が合いました。
 鼻と鼻が擦れ合う程の微かな距離です。ヤバイです。
 再び脱兎が如し逃避するのです。
「無駄だぞ?」
 ベルウルフが言ったーー刹那。
 後ろから頭を鷲掴みにされ、そのまま地面へと叩きつけられてしまいました。
 そして地面へと顔面をぶつけ、地球とキスをしてしまったのです。
 しかも一回だけではありません。二回、三回、四回……頭を何度も打ちつけられたわけです。脳天が揺らぎます。
 八回目に上る頃、私はやっとの思いでベルウルフの手を振り退けました。振り退け、直ぐ様ベルウルフと向かい合います。
「酷い顔だなぁああ……鼻血でドロドロじゃないかぁああ?」
 だそうです。
 掌を鼻元へ当てると、確かに血だらけでした。鼻血ブーブーの不細工さんです。
「どうも私の位置を的確には察知できるみたいですね?」
 私は剣を取り出し構えます。
「おや、もう鬼ごっこは終わりかなぁあ?」
「ええ。逃げて様子でも伺おうと思いましたが、無駄だと分かりましたので」
 どうせ様子を伺う隙すら与えてくれないでしょう。
「どうして私を狙いますか?」
「え、今更か?」
 あははははーーベルウルフは高笑いを上げました。
「決まってるだろ?仲間だからさ!」
「仲間、ですか?」
「そうだ!俺たちは運命に従う仲間、いわゆる、運命共同体というやつだ!」
 理解に苦しみます。
「つまりです、貴方はベルウルフの体を乗っとった何者かで、可愛い可愛い私に恋をしてしまった結果、妄言を口走る暴漢者になってしまったと、そういうことですね?」
「違うなぁあああ」
 違うもんですかーー私は剣先をベルウルフの喉元へと突き出しました。
 私自慢の刺突、この刺突を避けられた存在は未だかつて存在しません。故に、無敵。一撃必殺。
「残念!」
 ベルウルフは剣先を喉元スレスレで回避。首を横に倒して、鼻で笑っています。
 私の一撃必殺とは、今現在を持って二撃必殺へとなりました。
 これなら避けれないでしょう?
 ハイエンド式二段突きをお見舞いしてやるのです。
「それも当たらないなぁあああ……」
 なら、三撃必殺ーー
「無駄無駄無駄ぁあああああ!ハイエンド、お前の思考が手に取るように分かるぞぉおお!?」
 全てかわされてしまいました。
 これには流石の私も肝が冷えましたね。
「なら、仕方ありませんね」
 私は再び刺突のモーションを見せて、勢いよく突き出してーー
「だから、無駄だと、」
 と、口に出して言ったベルウルフの眉間スレスレです。不意に、剣柄から手を離しました。
 そうです、つまりこれはフェイク。
 次に私は肩に抱えていたアサルトライフルを構え、銃口をベルウルフに向けます。
「おろ?」
 これにはベルウルフも戸惑っている様子。
「アサルトライフルの威力は貴方が一番よく理解しているでしょう?ベルウルフ」
 構え方は教わった通りに、私は照準をしっかりと見定め、トリガーを引きました。
 そして、ズババババババ。無慈悲なる銃弾の霰をベルウルフに。
 どうでしょうか?
「ぎぃいいいいいいい!!!」
 ベルウルフの悲鳴を聞きます。
 全弾命中を確認。やりました。
 それなのに、
「ハイ……エンドぉおお……」
 苦しみ声を上げるベルウルフは、尚も倒れてはくれませんでした。
 あり得ません。化け物ですか貴方は?
「グール……ではないようですが……これは一体」
「ぐふ、ふふふ……ハイエンド。お前も時期に、分かる。だから……その身を我々に委ねろ!」
「却下します。自分の身は自分に任してありますので、」
「その結果が……今、なのだろう。なぁ?」
 ベルウルフは仰け反り、笑っていました。
「人間という殻に身を投じていた結果が今を生んだのだ!気付けハイエンド……この狂った世界に、そもそもがモンスターと人間の境界線などなかったのだよ!私はそれに気付いた!だからその身の全てを……神に委ねたのだ!ベルウルフもそうした!愚かにも私を裏切り者呼ばわりするから……諭してやったのだ!」
 と、尚もトチ狂った異常者の如く。
「……はぁ、何と無くですが、貴方の正体に覚えがあるように感じます」
 ベルウルフを裏切り者呼ばわりする辺り、彼の関係者であることは間違いありません。更に更に言えば、そんな存在についてこの地には二人としていない事を私は知っていたのです。
 そうです、多分今私の目の前にいるのはーー
「ワンサイド、その人以外に説明がつきません」
「……ふふふ……ご明察。そうさ、私がワンサイドだ」
 ほらね。この私にかかればその程度の推理はお茶の子さいさいなんですよ。

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