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しおりを挟む最後はゴブリンの根城です。木の上に身を潜めていました。
ゴブリンに関しては、ベルウルフが進んで対処してくれました。アサルトライフルにて、脳天を一撃です。
ズババババと、ものの数秒で殲滅完了です。
「普通、こう言った事は大人がやるものだと思っていた」
計2匹のゴブリンを解体するベルウルフがそう言ってきました。
「というのもだ、俺の国には子供がいない」
そうも言うのです。
「……つまり、貴方は私を子供と呼びますか?」
これでも成人の儀を終えた立派な大人なんですが?
「気に障ったのなら申し訳ない。いやな、俺からすればお前はまだ子供の部類に入るのでな……だからかもしれない。俺は、自分勝手な見解をしていた」
「と、言いますと?」
「生死の概念よりかけ離れた魔物の子だと、俺は薄々にもお前をそう判断しようとしていた」
ベルウルフはゴブリンから取り出した臓物を寄越してきて、私は「どうも」とそれをバックへと納めます。
「魔物ですか。酷いじゃないですか?」
「悪い悪い。モンスターを殺る時のお前の目を見て、こいつは普通の人間じゃねぇって、そうは思っちまったんだよ」
ベルウルフは頭をポリポリと掻きます。
「その……疑って悪かったな」
「別に構いませんけど」
「……反省するよ」
一先ず、モンスターの根城は粗方叩きました。
昼過ぎです。そろそろ下山を始めた方がよろしいですね。
「ハイエンド」
おもむろ、ベルウルフに名を呼ばれました。
「はい、何でしょう?」
帰り支度を並行して、私はベルウルフへと応えます。
「今日は色々と失礼な事ばかりを言ってすまなかった。以後、この様な事がないようを気をつける」
さいですか。
「でだ、明日は俺の仕事を手伝ってほしいのだが……いかがだろうか?」
いや、いかがだろうかと問われましても。
「そういう約束でしたから、当然手伝いますけど?」
バックを背負い、支度完了です。
「ではベルウルフ、今日はこの辺にて。貴方も食事には細心の注意を払うといいでしょう」
「ああ、忠告感謝する」
「では」
「あ、早々ハイエンド。明日はここではなく、森の方へと行こうと思っているのだが……どこか身を潜める事の出来る場所を知らないか?」
森、ですか……
「そうですねぇ」
そんな場所ありましたかね……と、
「あ、そういえばありました」
「おお、何処だ?」
「森奥にですね、朽ち果てたボロ小屋がありましたよ。誰も住んでいませんし、あそこなら近付く者もまずいないでしょう」
とは言っても、そこまでのルートを口では説明できません。
ですので、
「そこまでの地図を貴方に貸してあげます」
「それは助かる、が……お前は大丈夫なのか?」
「ええ。大方地図は頭に叩き込んでいますので、それに森は私からすれば庭のようなものです。迷ったとしても抜け出す方法は幾らでも思い付きます」
「優秀だ」
「いやいや、それ程でも」
その後はベルウルフと別れ、村へと戻りました。
すっかり夕焼け空ですね。
我が家に帰る前、ピコの容態を確認しに行きましょうか。
「ハイエンドぉおおお!!」
苦しいです。
ピコの自宅に入って早々、私は猛烈なるハグ行為に襲われました。
「あのですねピコ。私はこれでも女ですので、そのような行為は控えて頂きたいのですが?」
「何を言ってる!?お前と俺の仲だろうがーって、んなこたぁ今はどうでもいいんだよ!」
いや、よくはありませんが?
「ハイエンド……皆んなから話は聞いた……お前、俺の命を救ってくれたみたいだな……」
いえ、お爺さんが助けました。
「何でも、苦しむ俺の唇にそっとキスをして、『大丈夫、私がついているから……』と、涙を流しながらナイフを握ったと」
いえいえ、どうしたらいいか分からなかったからですね、取り敢えずお腹にナイフをぶっ刺しただけですよ?
酷い脚色(きゃくしょく)が加えられているようですね……
「もしかして、ハイエンド。お前俺のこと好きなのか!?」
はぁ?
「まさか、全然好きじゃありません」
嘘はついてません。
「ははは、照れるなって?どうだ、このまま結婚すっか!?」
ふざけるのも大概にして下さい馬鹿野郎。
「いやな、ハイエンド……お前がどうしてもっていうならさ、俺は別に構わないのだけどさ?仕方なくってか、いや、まぁ、男して?女の子の気持ちを無下にはできないというか?」
はぁ、全く勘違いも甚だしいですね。
「取り敢えず、抱き着くのをやめてくれませんか?」
「嫌だ!もう少しこのままがいい!」
強情な。
「何ですかもう、貴方は子供ですか?寄生虫に脳みそまで犯されてしまったのでは?」
「んなことない。んなことないもん……」
と、ピコの表情はいきなり暗くなります。
感情豊かなのも考えものです。
「どうしたのですかピコ?らしくないですよ?」
「……うるさい」
私はピコの頭を撫でてあげます。宛ら、彼のお母さんにでもなった気分ですよ。
「大丈夫ですか?」
「……ハイエンド、俺、怖かったんだ」
「ええ、ええ」
「死ぬかとオモタ……」
「はい、はい」
「もう……悪夢に魘(うな)されまくりでさ……」
「大変でしたね、よしよし」
「怖かった……怖かったんだよぉぉ……」
等々、ピコは泣き出してしまいました。
いやはや、男の子なのに泣いてしまうとは情けない。
こういう時、どうしたらいいのか私には分かりません。どう慰め、諭してあげたらいいのか本には書かれていませんでしたし、モンスターを狩るより随分と難しいのです。
モンスター退治は簡単です。剣を振るって、息の音を止めて終了ですので。ですが、人付き合いとは難解じみていて、私は不得意なんです。
さて、そうも言ってられないのが今の状況。
泣き縋るピコに、私は何と適当言ってやればいいものやら。
「ピコ、大丈夫ですよ。貴方は助かりました。生きています。私の心臓の音を聞いて下さい」
と、私はピコの頭を胸に当てます。
「どうですか、聞こえますか?」
「……キコエナイ」
あれ、おかしいですね?
それっぽく慰めようとした私の作戦は、早くも破綻してしまいました。
「では、これならどうですか?」
私はピコの体をギュッと抱きしめてあげます。
「さすがに、これなら私の温もりも感じられるでしょう?」
「……ウン」
「良かった、それは生きている何よりの証拠です」
「ハイエンド」
「はい?」
「好き」
「そうですか。私は嫌いです」
「……酷い」
「普通です」
「……確かに」
その後ピコに解放された頃、すっかり日は沈んだ後でした。
今夜は月が綺麗に出ています。
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