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 さてさて、まず手始めに何から始めましょうか。
 モンスターを狩るのは並行任務として、冒険者っぽい事をしなければなりません。
 特に妙案は思い付きはしませんが、とりあえず今日は森の奥地へと進んでみましょうか。
「ハイエンド!今日もよろしく頼むぜ」
 ピコは弾んだ声でそうは言います。
 何故か、今日も付いてきたのです。
「暇なのですか?」
「はぁ?そうじゃないだろう?俺たち二人一組、言ったらパーティというやつだ」
 パーティですか、聞き馴染みのない言葉ですね。
「何でも、違う大陸にはギルドなるものがあってだなぁ、その場所で仲間を集っては一緒に狩りと向かうらしい」
 ピコは瞳をキラキラと輝かせています。
「そんな仲間達とはパーティと呼ばれていてな、」
「そうなんですね。分かりました」
「な、何だよ……ノリ悪いな」
「ピコの元気が良すぎるだけだと思います」
「ふん、もういいやい!」
 と、ピコが駆け出しました。
 ふて腐れて一人で森の奥へと進んで行ってしまいました。
 すぐ戻ってきました。
 そして私の耳元に口を近づけては、ひそひそと、
「先生……ゴブリンです」
 そうは言ったのです。




 鬱蒼とした森の中は、まるで夜のようです。 
 微かなこぼれ日がある分マシではありますが、不気味なことに変わりはありません。
 こんな奥まで進んで来たのは始めてでした。
 いわゆる、未知の領域というやつですね。
「ゴブリンはいないみたいだな」
「ですね」
 ゴブリンの殆どは村の方へと向かっていたのでしょうか。
「違うモンスターがいるかもしれませんね」
「えっ!?そうなのか?」
「確証はありませんが、お爺さんなら聞いた話では森の奥地には多種多用のモンスターがいると、」
「あ、ははは……またまた……あの爺さん冗談きついぜ~」
「ねぇねぇ、ピコ?」
「ん?」
「足にいるそれ、モンスターじゃないですか?」
「……は?」
 ピコは恐る恐るといっだ様子で、自身の足元へと視線移しました。
 そして、
「うわぁあああッ!!出たぁああああッ!!」
 心底ビックリしたようです。
「ピコ、あんまり抱きつかないで下さい。重いです」
「だだだだだって、ほらッ!そこッ!?」
 ピコが指差します。
 指差した先に、そのモンスターはプニプニと身を揺らした佇んでいました。
 石ころ大程の大きさの、始めて見るモンスターです。
「予想ですが、それスライムだと思います」
「ススス、スライム?」
「はい。体の98パーセントが水分で構成された珍しいモンスターです。まさかこの森に居たなんて驚きました」
 私はスライムを手にとって見ました。
 ひんやりとした感覚と、トロリとした感触が何とも堪りません。
「目はないみたいですね」
「ばば馬鹿野郎ッ!?あぶねーぞハイエンド!?」
「大丈夫ですよ。スライムは人を襲ったりしない、温厚なモンスターなのです。それにいざという時は、火で炙って飲み水にしたりもできます」
「そ、そうなのか?」
「ええ。そしてこのスライムの体内にはある赤い球体……いわゆるコアというものが本体です。これを砕けば、スライムはただの水へと様変わりです。ピコ、どうぞ?」
 私はスライムを差し出しました。私の手のひらで、スライムはフルフルと僅かに動いています。
「ほ、本当に触っても平気なんだな?」
「ええ。可愛いですよ」
「それじゃあ……」
 と、ピコはゆっくりとスライムを手に取ると、まじまじと観察しています。
「どうですか?」
「何ともない」
「でしょう?」
「不思議だ……これもモンスター、なんだな」
「モンスターといっても、一概に脅威となる存在ばかりではないということですね」
「成る程成る程って……あっ!」
 突然です。スライムがピコの手のひらから飛び跳ねました。
 そして、私の頭の上には乗っかるのです。
「な、懐(なつ)かれたとか?」
 私を指差して、ピコはゲラゲラと笑っていました。
「ちょっと頭が重いけど……」
 まぁ、害は無いようだし、問題はないでしょう。
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