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第3話 鍛冶屋
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「……クドラ! いるか!?」
店に入ると同時に、俺はそう叫んだ。
店先に店員一人いないことがすぐに分かったからだ。
まぁ、当然だろう。
この店はたった一人の人物が経営している店だ。
しかも、ほぼ一見お断りであり、ふらっと誰かが訪ねてくると言うこと自体、滅多にない。
だから店員など基本的に必要ないのだ。
「……あぁ? 今日はもう誰も来る予定は……あぁ、なんだ。レグか。それにその後ろの奴ぁ……?」
しかし、店主は大体いつもここにいる。
むっつりとした顔で、眼光鋭くやってきたそのドワーフの男は、俺と、後ろにいるアルフレッドを見ながらそう言った。
クドラ・グラント。
この鍛冶屋の店主であり、俺とも長い付き合いの男だ。
「なんだとはご挨拶だな。暇そうな鍛冶屋にわざわざ新規の客を連れてきてやったって言うのによ」
「あぁ? 俺は暇なんじゃねぇ。予約客と常連しか相手にしてねぇだけだ。この間だって、おかしな貴族の三男坊が剣を打てってやってきたが、追い返してやったくらいだぜ。俺は、客は自分で選ぶ主義なんだ」
そう、クドラはこの偏屈な経営方針で生きているドワーフの鍛冶師であり、しかしこれでやれてしまうほど腕のいい鍛冶師でもあった。
本来、冒険者向けの鍛冶屋というのは武器なら武器、防具なら防具、とある程度、打つものの方向性が決まっているものだ。
そうでなければ魔物相手に戦えるまともな武具というのを作れるほど極めきれないからだ。
けれどクドラはそんな盆百の鍛冶屋とは異なり、何でもござれの達人、鍛冶馬鹿である。
ここに来ればどんな武具でも完全に揃えることが出来るため、俺はアルフレッドを連れてきた。
しかし、問題はないわけではない
クドラ本人が言うとおり、この男は客を選ぶ。
そのお眼鏡に適わなければ、どれだけ金を持っていようとも彼の武具は買えない。
だから俺はクドラに言った。
「そりゃ、知ってるよ……。まぁ、あんたが売ってくれねぇってんなら、他を当たるさ。ただ、俺の久々のパーティーメンバーだ。出来ることなら、俺が一番信頼する鍛冶師を紹介して、武具を売って貰いたいって思っただけだ」
すると、クドラは驚いた顔で、
「……お前がパーティーを組んだのか!? 十年ぶりだな……俺はてっきり、もう一生パーティーなんて組まねぇでやっていくもんだと思ってたぜ。そもそも、何度も言ってるがお前はもっとあいつと話し合うべきだって……」
「おっと。小言の方は勘弁してくれよ。それより、こいつ……アルフレッドはあんたから見てどうだ? 売る気になるか?」
「……ったく。あいつも気の毒だな……手紙の返事くらい書いてやれ。で、そっちのガキのことだが……おい、ちょっとそこのお前。こっち来い」
そう言ってクドラはアルフレッドを近くに呼んだ。
アルフレッドは素直に、
「は、はい……」
と言ってクドラの近くに行くと、クドラはアルフレッドを調べ始める。
体中をパンパン、と叩いたり、手を握ったり、目を見たり……。
これは別に妙なことをしているわけではなく、クドラ流の人物鑑定なのだった。
正確に言うなら、どんな武具を作るべきか、その人物の体つきから戦い方や性格を読み取っているという感じだろうか。
俺も始めてここを紹介されたときには同じことをやられたからよく知っている。
十分ほどかけて、丹念に調べたクドラは、最後に頷いて、
「……いいだろう。悪くねぇ。ただ……正直、体を酷使しすぎだぞ? いや、訓練をするなとか戦うなとかそういうことじゃねぇんだが……色々やりすぎというか。少しくらい休養をとれ。でないと強くなるもんも強くなれねぇぞ」
そう言った。
「おっ。ということは、アルフレッドに武具を売ってくれる気になったのか?」
「アルフレッド、というのがお前の名前か?」
聞かれたアルフレッドは頷いて、
「は、はい。そうです……」
「そうか……あぁ。アルフレッド。俺がお前にいい武具を打ってやる。まぁ、今日のところは既製品を持って帰って貰うしかねぇが……オーダーメイドは時間がかかるからな。で? いくら持ってる?」
「い、いや、俺は……」
もちろん、無一文のアルフレッドである。
ここは俺が割って入る。
「……クドラ。そいつは色々と事情があって金がねぇ。だから俺が全額出すことにしたんだ。だからまぁ、良い奴をくれよ。既製品じゃなくてオーダーメイドで作ってくれるとは驚いたが、まぁ、多少高くなっても構わねぇ」
「お前、そこまでこいつに期待してんのか? 確かに……いい冒険者になりそうだがな。とりあえず、D級程度まで使えるくらいのものでいいか? それ以上になったときには寿命も来てるだろうから、買い換えるとちょうどいいと思うが……」
「いや、C級まで耐えられるやつにしておいてくれ。たぶん、こいつはすぐにそこまでなるからよ」
「なに……? そこまでか。だが、そうなると……奢るには高くなるぞ?」
「別に構やしねぇ。もう俺は決めたんだ。こいつを立派な冒険者にしてやるってよ。いつか、こいつがとんでもねぇ冒険者になったとき、元パーティーメンバーで師匠のレグ、って新聞に載りゃあ、それで儲けもんだろうが」
「お前じゃなけりゃ、どんな夢見てんだよって言いたくなるが……お前がそこまで目をかけたくなるほどか。よし、分かった。おい、アルフレッド。お前には、とびきりの武具をこの俺が打ってやる。だから、途中で絶対に諦めるなよ。一流の冒険者に、必ずなれ、いいな?」
クドラがそう言って凄むと、アルフレッドは少し怯えたが、最後には深く頷いて、
「……必ず!」
そう言ったのだった。
店に入ると同時に、俺はそう叫んだ。
店先に店員一人いないことがすぐに分かったからだ。
まぁ、当然だろう。
この店はたった一人の人物が経営している店だ。
しかも、ほぼ一見お断りであり、ふらっと誰かが訪ねてくると言うこと自体、滅多にない。
だから店員など基本的に必要ないのだ。
「……あぁ? 今日はもう誰も来る予定は……あぁ、なんだ。レグか。それにその後ろの奴ぁ……?」
しかし、店主は大体いつもここにいる。
むっつりとした顔で、眼光鋭くやってきたそのドワーフの男は、俺と、後ろにいるアルフレッドを見ながらそう言った。
クドラ・グラント。
この鍛冶屋の店主であり、俺とも長い付き合いの男だ。
「なんだとはご挨拶だな。暇そうな鍛冶屋にわざわざ新規の客を連れてきてやったって言うのによ」
「あぁ? 俺は暇なんじゃねぇ。予約客と常連しか相手にしてねぇだけだ。この間だって、おかしな貴族の三男坊が剣を打てってやってきたが、追い返してやったくらいだぜ。俺は、客は自分で選ぶ主義なんだ」
そう、クドラはこの偏屈な経営方針で生きているドワーフの鍛冶師であり、しかしこれでやれてしまうほど腕のいい鍛冶師でもあった。
本来、冒険者向けの鍛冶屋というのは武器なら武器、防具なら防具、とある程度、打つものの方向性が決まっているものだ。
そうでなければ魔物相手に戦えるまともな武具というのを作れるほど極めきれないからだ。
けれどクドラはそんな盆百の鍛冶屋とは異なり、何でもござれの達人、鍛冶馬鹿である。
ここに来ればどんな武具でも完全に揃えることが出来るため、俺はアルフレッドを連れてきた。
しかし、問題はないわけではない
クドラ本人が言うとおり、この男は客を選ぶ。
そのお眼鏡に適わなければ、どれだけ金を持っていようとも彼の武具は買えない。
だから俺はクドラに言った。
「そりゃ、知ってるよ……。まぁ、あんたが売ってくれねぇってんなら、他を当たるさ。ただ、俺の久々のパーティーメンバーだ。出来ることなら、俺が一番信頼する鍛冶師を紹介して、武具を売って貰いたいって思っただけだ」
すると、クドラは驚いた顔で、
「……お前がパーティーを組んだのか!? 十年ぶりだな……俺はてっきり、もう一生パーティーなんて組まねぇでやっていくもんだと思ってたぜ。そもそも、何度も言ってるがお前はもっとあいつと話し合うべきだって……」
「おっと。小言の方は勘弁してくれよ。それより、こいつ……アルフレッドはあんたから見てどうだ? 売る気になるか?」
「……ったく。あいつも気の毒だな……手紙の返事くらい書いてやれ。で、そっちのガキのことだが……おい、ちょっとそこのお前。こっち来い」
そう言ってクドラはアルフレッドを近くに呼んだ。
アルフレッドは素直に、
「は、はい……」
と言ってクドラの近くに行くと、クドラはアルフレッドを調べ始める。
体中をパンパン、と叩いたり、手を握ったり、目を見たり……。
これは別に妙なことをしているわけではなく、クドラ流の人物鑑定なのだった。
正確に言うなら、どんな武具を作るべきか、その人物の体つきから戦い方や性格を読み取っているという感じだろうか。
俺も始めてここを紹介されたときには同じことをやられたからよく知っている。
十分ほどかけて、丹念に調べたクドラは、最後に頷いて、
「……いいだろう。悪くねぇ。ただ……正直、体を酷使しすぎだぞ? いや、訓練をするなとか戦うなとかそういうことじゃねぇんだが……色々やりすぎというか。少しくらい休養をとれ。でないと強くなるもんも強くなれねぇぞ」
そう言った。
「おっ。ということは、アルフレッドに武具を売ってくれる気になったのか?」
「アルフレッド、というのがお前の名前か?」
聞かれたアルフレッドは頷いて、
「は、はい。そうです……」
「そうか……あぁ。アルフレッド。俺がお前にいい武具を打ってやる。まぁ、今日のところは既製品を持って帰って貰うしかねぇが……オーダーメイドは時間がかかるからな。で? いくら持ってる?」
「い、いや、俺は……」
もちろん、無一文のアルフレッドである。
ここは俺が割って入る。
「……クドラ。そいつは色々と事情があって金がねぇ。だから俺が全額出すことにしたんだ。だからまぁ、良い奴をくれよ。既製品じゃなくてオーダーメイドで作ってくれるとは驚いたが、まぁ、多少高くなっても構わねぇ」
「お前、そこまでこいつに期待してんのか? 確かに……いい冒険者になりそうだがな。とりあえず、D級程度まで使えるくらいのものでいいか? それ以上になったときには寿命も来てるだろうから、買い換えるとちょうどいいと思うが……」
「いや、C級まで耐えられるやつにしておいてくれ。たぶん、こいつはすぐにそこまでなるからよ」
「なに……? そこまでか。だが、そうなると……奢るには高くなるぞ?」
「別に構やしねぇ。もう俺は決めたんだ。こいつを立派な冒険者にしてやるってよ。いつか、こいつがとんでもねぇ冒険者になったとき、元パーティーメンバーで師匠のレグ、って新聞に載りゃあ、それで儲けもんだろうが」
「お前じゃなけりゃ、どんな夢見てんだよって言いたくなるが……お前がそこまで目をかけたくなるほどか。よし、分かった。おい、アルフレッド。お前には、とびきりの武具をこの俺が打ってやる。だから、途中で絶対に諦めるなよ。一流の冒険者に、必ずなれ、いいな?」
クドラがそう言って凄むと、アルフレッドは少し怯えたが、最後には深く頷いて、
「……必ず!」
そう言ったのだった。
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