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第二部 プロムナード編
第十一話
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「うおおおっ!」
俺は、踏ん張っていた。
会長に手を引かれ、コンパスみてえに踏ん張っている俺を、道行く人が胡乱な眼差しを向けてゆく。
しかし、俺はこの足を緩めるわけには行かねえ。でないと――高級レストランの、優雅な入り口に飲みこまれちまうからだ!
「こら、吉村。往生際が悪いぞ」
「ああっ! 怖え! 高級レストラン怖え!」
「心配すんなよ、美味いから」
俺は、会長のサブバッグよろしく小脇に抱えられちまう。セクシーだが、嫌みっぽくねえ香水の匂いが香った。――生徒会って、香水つける決まりでもあんのか?
ってのは、置いといて俺は叫ぶ。
「そら美味いだろうけど、困るっすよ! イノリが呼んで――」
俺は、ウナギのようにのたくった。
と、会長の腕にぐっと力がこもって、「ぐえ」と呻く。えづいていると、めちゃくちゃ綺麗な顔がずいと寄せられる。
「桜沢のことなら、大丈夫だって。須々木先輩は有言実行だし、ちゃんと会場に連れってくれっから」
「マジっすか?」
「マジ。なんなら、俺の端末を貸してやるから、本人と話すといい」
「えー!? いいんすか!」
その申し出は、素直にありがたいぜ。
学園内に戻った途端、スマホ取り上げられちまったからな。せめて、イノリに無事を伝えられれば、それ以上のことはねえ。
希望に満ちた眼差しを向けると、会長はニッと笑った。
「おうとも。ここでメシ食ったらな」
黒服のウェイターさんに誘われ、会長と、小脇に抱えられた俺は店内を進む。
「……うおっ」
昼飯時なだけあって、テーブルは結構埋まってるみてえだ。でも、会長が歩いているのに、下の食堂みてえに大騒ぎにならねえ。レストランだからかもな。
「八千草くんのスーツ、マジ眼福……」
「つーか、小脇に抱えてんの誰?」
ただ、視線の熱量はすさまじく、小脇に抱えられた俺も余波で焼け死にそうだぜ。俺、レストラン出た途端、ボコボコにされたりしねえよな?
恐々と周囲を窺っていると、会長が笑った。
「安心しな、吉村。俺は桜沢と違って、誰にでも優しいからよ」
「へ。どういうことっすか?」
「俺みたいな超絶美男子と一緒に居たからって、いじめられる心配はねえってことさ」
自信満々に笑う会長に、俺は震えた。
か、かっけえ……! 俺も一度くらいはこんなことを言ってみてえもんだ。――なんとなく、台詞にデジャブを感じたが、気のせいだろう。
一番奥の部屋に案内され、ドアを潜ると、そこは他にもお客さんがいた。あかがね色の腕章をつけた生徒達が、一斉に視線を向ける。
ご飯を食べ終わっていたようで、テーブルの上にはコーヒーと何かの資料が乗っかってるだけだった。
「八千草……」
「黒河先輩。こんにちは」
声を上げたのは――いつかの集会で、会長の隣にいた風紀の人だ。すげえタッパと、やくざ並みの迫力の面構えだったから覚えてるぜ。
礼儀正しく頭を下げた会長を睨み、彼はコーヒーカップを皿に置く。席を立ち、制服のジャケットを直すと、よく通る太い声で命令した。
「……ミーティングはこれまで。十分休憩の後、業務に戻れ」
「はい!」
一緒にテーブルを囲んでいた風紀の人達も、すぐに身支度を整え、席を立った。先を行く黒河さんに、隊列を乱さずついていく。
黒河さんは、会長の横を通る一瞬、鋭く睨みつけていく。
「お疲れさまです」
会長は気づいてないかのように、飄々と笑いかけている。黒河さんの米神が、爆発しそうに膨らんだ。
「俺に馴れ馴れしく声をかけるな。風紀の権限に割り込んで、いい気になっているのか?」
めちゃ怒ってるせいなんか、体がひとまわり大きくなったみてえに見える。一触即発――そんな雰囲気に緊張が走る。
――てか、こんな怖い人の前で、抱えられてる俺まじやばくね?
恐々としてた俺をよそに、会長はあっけらかんと言う。
「とんでもない。昔から変わらず尊敬してますよ、黒河先輩」
「――行くぞ」
忌々しそうな黒河さんの号令で、あかがね色の腕章の流れが過ぎ去っていく。
……け、喧嘩になんなくて、よかったぜ。
額の汗を拭ってたら、唐突にべしんとケツを叩かれる。
「でっ!?」
ぎょっとして振り返ると、眩しい金髪が目に飛び込んできた。
半眼になった二見が、手を振り切った格好でニヤニヤ笑いを浮かべてる。
――い、いたんかお前?!
唖然としていると、風紀の人が二見を呼んだ。二見は「はーい」とゆるい返事をし、のんびりと歩み去って行く。
相変わらず、マイペースな奴だぜ。
俺は、踏ん張っていた。
会長に手を引かれ、コンパスみてえに踏ん張っている俺を、道行く人が胡乱な眼差しを向けてゆく。
しかし、俺はこの足を緩めるわけには行かねえ。でないと――高級レストランの、優雅な入り口に飲みこまれちまうからだ!
「こら、吉村。往生際が悪いぞ」
「ああっ! 怖え! 高級レストラン怖え!」
「心配すんなよ、美味いから」
俺は、会長のサブバッグよろしく小脇に抱えられちまう。セクシーだが、嫌みっぽくねえ香水の匂いが香った。――生徒会って、香水つける決まりでもあんのか?
ってのは、置いといて俺は叫ぶ。
「そら美味いだろうけど、困るっすよ! イノリが呼んで――」
俺は、ウナギのようにのたくった。
と、会長の腕にぐっと力がこもって、「ぐえ」と呻く。えづいていると、めちゃくちゃ綺麗な顔がずいと寄せられる。
「桜沢のことなら、大丈夫だって。須々木先輩は有言実行だし、ちゃんと会場に連れってくれっから」
「マジっすか?」
「マジ。なんなら、俺の端末を貸してやるから、本人と話すといい」
「えー!? いいんすか!」
その申し出は、素直にありがたいぜ。
学園内に戻った途端、スマホ取り上げられちまったからな。せめて、イノリに無事を伝えられれば、それ以上のことはねえ。
希望に満ちた眼差しを向けると、会長はニッと笑った。
「おうとも。ここでメシ食ったらな」
黒服のウェイターさんに誘われ、会長と、小脇に抱えられた俺は店内を進む。
「……うおっ」
昼飯時なだけあって、テーブルは結構埋まってるみてえだ。でも、会長が歩いているのに、下の食堂みてえに大騒ぎにならねえ。レストランだからかもな。
「八千草くんのスーツ、マジ眼福……」
「つーか、小脇に抱えてんの誰?」
ただ、視線の熱量はすさまじく、小脇に抱えられた俺も余波で焼け死にそうだぜ。俺、レストラン出た途端、ボコボコにされたりしねえよな?
恐々と周囲を窺っていると、会長が笑った。
「安心しな、吉村。俺は桜沢と違って、誰にでも優しいからよ」
「へ。どういうことっすか?」
「俺みたいな超絶美男子と一緒に居たからって、いじめられる心配はねえってことさ」
自信満々に笑う会長に、俺は震えた。
か、かっけえ……! 俺も一度くらいはこんなことを言ってみてえもんだ。――なんとなく、台詞にデジャブを感じたが、気のせいだろう。
一番奥の部屋に案内され、ドアを潜ると、そこは他にもお客さんがいた。あかがね色の腕章をつけた生徒達が、一斉に視線を向ける。
ご飯を食べ終わっていたようで、テーブルの上にはコーヒーと何かの資料が乗っかってるだけだった。
「八千草……」
「黒河先輩。こんにちは」
声を上げたのは――いつかの集会で、会長の隣にいた風紀の人だ。すげえタッパと、やくざ並みの迫力の面構えだったから覚えてるぜ。
礼儀正しく頭を下げた会長を睨み、彼はコーヒーカップを皿に置く。席を立ち、制服のジャケットを直すと、よく通る太い声で命令した。
「……ミーティングはこれまで。十分休憩の後、業務に戻れ」
「はい!」
一緒にテーブルを囲んでいた風紀の人達も、すぐに身支度を整え、席を立った。先を行く黒河さんに、隊列を乱さずついていく。
黒河さんは、会長の横を通る一瞬、鋭く睨みつけていく。
「お疲れさまです」
会長は気づいてないかのように、飄々と笑いかけている。黒河さんの米神が、爆発しそうに膨らんだ。
「俺に馴れ馴れしく声をかけるな。風紀の権限に割り込んで、いい気になっているのか?」
めちゃ怒ってるせいなんか、体がひとまわり大きくなったみてえに見える。一触即発――そんな雰囲気に緊張が走る。
――てか、こんな怖い人の前で、抱えられてる俺まじやばくね?
恐々としてた俺をよそに、会長はあっけらかんと言う。
「とんでもない。昔から変わらず尊敬してますよ、黒河先輩」
「――行くぞ」
忌々しそうな黒河さんの号令で、あかがね色の腕章の流れが過ぎ去っていく。
……け、喧嘩になんなくて、よかったぜ。
額の汗を拭ってたら、唐突にべしんとケツを叩かれる。
「でっ!?」
ぎょっとして振り返ると、眩しい金髪が目に飛び込んできた。
半眼になった二見が、手を振り切った格好でニヤニヤ笑いを浮かべてる。
――い、いたんかお前?!
唖然としていると、風紀の人が二見を呼んだ。二見は「はーい」とゆるい返事をし、のんびりと歩み去って行く。
相変わらず、マイペースな奴だぜ。
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