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第一部 決闘大会編

二百十一話

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 ――翌日。
 
「たあっ!」
 
 風の魔力を纏った拳は、土の元素に相殺される。ビィン! と腕にしびれが来る――俺はすかさず詠唱した。
 
「水の元素よ、わが身を巡れっ!」
 
 キン、と水の魔力に切り替えて、ワンツーをお見舞いした。
 しかし。
 窓の暗褐色の光が、ずんと濃くなって、俺のパンチは相殺されちまった。
 
「ぬおー、まただ!」
 
 俺は、マットレスにひっくり返った。荒くなった呼吸を、ハフハフと整える。
 依然として、俺は窓を殴り続けていた。
 昨夜も遅くまでやってて、ちょっと寝て、再開したところ。まだ、窓にはヒビも入ってねえ。
 決闘大会は、いよいよ明日。俺は、自分の試合時間がいつかも、聞いてねえし。――焦らないと言えば、嘘になるけど。
 
「でも……ちょっとずつわかって来てるぜ……」
 
 水をがぶがぶ飲みながら、俺は考える。
 この窓が出してくる元素は、四種類。
 そんで、俺の攻撃に合わせて、出力を合わせて来てる。
 たとえば、俺が「土の元素を5の力で打つ」とすると、向こうは「水か風を5の力で纏う」って感じ。だから、こんなに殴ってても「相殺」されるだけなんだ。
 
「あっちのが弱かったら、壊せてるはずだし。強かったら、俺がダメージ食ってるはずだもんな。……うむ、我ながら冴えてるぜっ」
 
 そんで、考えたわけよ。
 窓の魔力が切り替わるより早く、連続攻撃をすればいいんだって。元素を切り替えての攻撃なら、ぜったいダメージを与えられるはずだ。
 でも。
 
「思い付きは、わるくねえと思うんだけど……どうしても、詠じてるうちに追いつかれちまう……」
 
 ペコ、とペットボトルが手の中で凹んだ。
 A・S・A・Pで、詠じてるつもりなんだけどなあ。
 わが身に宿る~っていうと、どうしてもタイムラグがあるのよなー。
 
「ううむ」
 
 俺は、メロンパンを引き寄せて、はむっと齧る。ともかく、腹ごしらえだぜ。
 しゃりしゃりした砂糖を噛んで、ごきゅんと飲み込む。
 メロンパン、うま。
 そういや、前にイノリが火の魔法でメロンパン炙ってくれたっけ。カリッとして美味かったなあ。「トキちゃん、それ焼く?」って言ってさ、いきなりポンって……
 
「はっ!?」
 
 そうだ。
 イノリって、魔法発動までの時間が、超短くね。
 あいつ、詠じてないから。
 そういや、こないだの模擬戦のとき、鳶尾も元素の切り替えが早くって――やっぱり詠じてなかった。
 つまり、発動を早くしてえなら。
 
「無詠唱……!」
 
 俺は、ぶわーっと風が吹いてってような気になった。
 それに、イノリもいつか、言ってたよな。
 
――無詠唱は、詠じるよりも魔法の効果が、強くなるって!
 
 つまり――無詠唱で、魔法を発動することができれば。
 詠じるよりも、強い力が出るってことだよな。
 そしたら狙い通り、窓を壊して出られるかもしれねえ。
 ごくり、と唾を飲み込んだ。
 
「ごちそうさまっ」
 
 はやる気持ちで手を合わせて、マットレスを駆け上る。窓の前に立って、すうっと深呼吸する。
 
「……よし」
 
 まず、最初は「火」で殴ろう。(これは、難しいから詠唱)
 そしたら、きっと「水」にしてくるから。すかさず、無詠唱で「土」に切り替えて、渾身のパンチを打つ!
 
「風と土なら、得意だし。いける!」
 
 待ってろ、外の世界! さらば、反省室っ!
 
「わが身に宿る火の元素よ、躍動せよ!」
 
 まっすぐにパンチを打つと、狙い通り。窓は「水」の魔力を纏う。――ここを、「土」の魔法だ……!
 
「おりゃー!」
 
 俺は、渾身の力でぶん殴った。
 
 ――バキッ!
 
 鈍い音が響き、俺は叫んだ。
 
「いって~!」
 
 ぴょいと飛び上がり、マットレスをドタバタと駆け下りる。
 ぬおーん、痛えよー!
 ちっとも、魔法が発動してねえ……! 素で窓をぶん殴って、大ダメージだぜっ。
 トホホ、とジンジンする拳に、息を吹きかけた。
 






「……危なかった」
 
 俺は、ふうと息を吐いた。
 なんとか、拳は大丈夫。
 ジャケットのポケットに入ってた、回復薬を思い出してさ。いちかばちかで塗ってみたら、効果てきめん。
 小瓶を揺らすと、ちゃぷっと薬が揺れる。
 こんなかたちで、役に立つとはな。鳶尾にゃ、腹立ったけど……ここを出たら礼を言わねえと。
 無詠唱ってのは、思ってたより危険なシロモノだぜ。
  
「……でも」
 
 俺は立ち上がり、また窓に向き直った。
 せっかく、可能性が見えたんだ。――絶対、悔いは残したくない。
 
「うおー! まだまだっ」
 
 
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