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第一部 決闘大会編

百六十三話 

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 寮のベッドは、かなりガッシリしてて頑丈だ。男子高校生二人が寝たって、ビクともしねえ安心設計ってやつ。
 ただ、狭いのは狭いから、寝転ぶとイノリとぴったりくっついてしまう。

「トキちゃん、キュークツじゃない?」
「おう、へっちゃらだぜ!」

 俺は壁側に陣取って、Vサインを出した。「それならよかったー」って、イノリはごそごそと布団に潜り込む。

「俺、まくら貰っていいのか?」
「うん。俺、無くても寝れるからー」
「そっか」

 布団を鼻まで引き上げて、低い位置にあるイノリの横顔を見る。
 イノリと一緒に寝るなんて、久々だ。ガキに戻ったみたいで、ちょっと嬉しい。
 まあ、遊んでるわけじゃねーんだけどさ。
 俺は、こうなった経緯を思い返す。




「一緒に寝るって、なんで?」

 目をまん丸にしてたずねると、イノリは言った。

「んーとね。トキちゃんのベッド、しばらく使わない方がいいと思うんだー」
「えっ?」
「犯人の痕跡、残ってるかもしんないし。証拠とるまで、ベッド替えてもらおうよー」
「はー、なるほど……確かにそうかも」

 刑事ドラマを思い出して、俺は納得した。確かに、「触るな! 証拠が消える!」ってやってるもんな。

「で、今日はベッド一個しかないし、一緒に寝よ?」
「わかった!」




 ってなわけで、一緒に寝てるんだ。つくづく、イノリって色々考えてんだなあって思う。
 まじまじと横顔を見つめると、もう目を閉じていた。きっと、疲れてるんだろう。
 イノリは、長い腕をコンパクトに畳んでて、やたら窮屈そうだ。
 俺はころんと寝がえりを打って壁際に寄る。――勢いが強かったのか、壁にごちんと額をぶっつけた。

「いたっ」
「だいじょうぶ?」

 でっかい手が、俺の額を包んだ。
 首だけ振り返ると、イノリが心配そうに見ている。

「悪い、起こした?」
「ううん。目、閉じてただけだからー」
「あっ」

 イノリは言いながら、俺の腹に腕を回して引き寄せた。ぽす、とイノリの胸に頭が当たる。

「やっぱ、せまいんでしょ? もっとこっちおいでー」

 よしよし、と頭を撫でられて項が熱くなる。
 いや、お前が狭いんじゃないかと思ったんだけど。そう言おうにも、回された腕があったかくて、頭がぽーっとしてくる。
 って。

「イノリお前、腕しんどくね? 寝にくいだろ」
「へいきだよー。俺、横になれたらいいしー」
「えええ」

 俺は明日休みだけどさ。お前、なんか偉い人と会わなきゃなんだろ。ただでさえ、とんぼ返りになって疲れるだろうに。
 そう言っても、イノリは「よゆーよゆー」って笑ってて。
 なんか、ひしひしと罪悪感が湧いてくる。かっこつけて色々黙ってて、かえって心配かけてるし。

「なんか、ごめん……」
「えっ、なに?」

 なんとか寝返りを打って、イノリと向き合った。

「お前、大変なのに。俺のことで帰ってきてもらっちまって……ふぎゅ!」

 と、思いっきり鼻をつままれた。

「そんなん、言いっこなしでしょー?」
「で、でもよう」
「遠慮なんかしないでよ。俺、トキちゃんのこと、すっげぇ大切なんだから」
「……!!」

 じっと熱い目で見つめられ、息が止まる。
 俺の頬を、指の背で優しく撫でながら、イノリは言う。

「俺ね。トキちゃんの決めたこと、応援したいよ。だから、ちからになりたいし、一人で抱え込まないで欲しい」
「イノリ」

 俺は、ハッとする。
 イノリは、笑ってるけど、寂しそうだった。
 ひょっとして――イノリは俺に突き放されたって、思ってるんだろうか。
 胸が苦しくなって、ぎゅうっとイノリの腹に両腕で抱き着いた。

「ごめんな! 俺、自分のことばっかで。お前の気持ち、考えなくて」
「そんなことないよー」

 優しい声が、否定する。
 じわ、と鼻の奥が痛くなって、イノリの胸に顔を押し付けた。
 俺ってバカだなあ。
 頼られたいからって、かっこつけて。
 こんなに心配してくれるイノリのこと、知らんぷりするなんて。
 俺は、ぎゅっと腕に力を込めて抱きついてから、ぱっと顔を上げる。

「イノリ、ありがとう。お前が来てくれて嬉しかった」
「トキちゃん」


――もう、無理に背伸びするのはやめよう。

 俺は、ニカッと笑ってみせる。
 イノリは、少し目を潤ませたみてえだった。
 背中を両腕に抱えられるように、抱きしめられる。ちょっとびっくりしたけど、なんだか嬉しくて。
 俺は、イノリの胸に頬を寄せた。

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