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第一部 決闘大会編

百六十一話 

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 額を赤くした二見が、サシェをテーブルに置いた。

「これなんだけどさ。吉村くんのベッドマットに挟まってたんだよね。心当たりある?」
「おう。貰ったんだ。安眠グッズなんだぜ」

 俺は頷いた。
 二見が言ってるサシェってのは、もちろん姫岡先輩がくれたものだ。
 枕の下に挟んであったんだけど、今朝みたらなくなっててさ。たぶん、布団敷きなおしたときに、隙間に落ちちまったんだろな。

「ふんふん。誰から貰ったの?」
「ええと……三年の姫岡先輩て人だよ」
「姫岡!?」

 何故か二見は、カッと目を見開いた。
 いや、二見だけじゃない。先輩たちも――イノリも驚いた顔をしてる。

「トキちゃん、どうして姫岡と知り合ったの?」

 イノリは、ちょっと深刻な声音で俺に言う。俺は、ちょっと狼狽えながら、経緯を説明した。
 クラスメイトの先輩で、偶然会ったこと。教科書のことで、勉強会に参加させてもらったこと――。
 話を聞き終えると、イノリが静かに目を伏せた。

「そうか……姫岡に知られちゃったのかぁ……」
「ちっ、誰だよ。そのクラスメイト」
「えっ」

 みんな、「すげえ厄介なことになった」って顔してるぞ。
 どよーんと、部屋の空気が重くなった気がして、俺はおずおずと聞いた。

「あのう。俺、なんかやっちまいました?」
「ううん。吉ちゃんが悪いんじゃないよ。ただ……よく知らない人のこと言うのも何だけど。姫岡先輩は、あまりいい噂を聞かない人だから」
「えっ。そ、そうなんすか?」

 ぎょっとしてのけ反ると、西浦先輩は暗い顔で頷いた。

「本人は、優等生だよ。紫だし、すでにいくつも論文で賞を貰ってるみたいだし……。ただ、あの人の周辺では、不登校になったり停学騒ぎを起こす子が続出してるんだ」
「俺らの学年の、ろくでもねえ奴らともツルんでるしな」
「ええ……」

 絶句する。
 姫岡先輩に、そんな噂があったなんて。
 いや、もちろん、先輩たちを疑うわけではないんだけど。
 でも――お茶飲ませてもらったり、教科書貸してもらったり、お世話になったから。ちょっとその情報、どう整理していいかわかんないぜ。

「トキちゃん、おどかしてごめんね。でも、俺も近づかないほうが良いと思う……」
「イノリ……」

 先輩たちもイノリも、すげえ心配そうな顔をしている。その様子に、俺は知らない間に「やらかした」のかもって、不安になってきた。

「まあ、考えようによっちゃ、ラッキーだよ! 思ったより大物が釣れて驚いたけどさ」

 と、明るい声で二見がバン! とテーブルを叩いた。佐賀先輩が片眉を上げる。

「ラッキー? どういうことだよ」
「そのまんまですよ。このサシェに姫岡が関わってるなら、あいつが何か悪事に加担してるのは間違いないでしょ。こいつを調べてさ、怪しい仕掛けが出てくれば、姫岡を堂々と追求できるじゃない」
「えっ」

 そうなのか? 隣を見ると、イノリも頷いている。

「まだわかんないけどー。俺も、これは何か関わってるきがするー」

イノリはサシェを手に取って、揺らして匂いを嗅ぐ。

「んー、やっぱりなぁ。――トキちゃん、これ嗅いだら眠くなる?」
「え、あ。おう、よく寝れるよ」

 安眠効果の看板通り、サシェを枕元に置いてたらすぐ眠気が来た。そう言うと、イノリは口に指を当てて、考え込んだ。

「あのさ、トキちゃん。俺、ちょっと気になることがあるんだよね。さっきも言いかけたんだけど、昨日トキちゃんから、か――」

――ピリリリリリ。

 その声を遮って、鋭い電子音が鳴り響いた。
 イノリは、ポケットから端末を出すと、ピッとボタンを押して着信を切った。いいのかよ。

「お、おい!」
「いいの。でね――」

 ピリリリリリ。
 間髪入れず、着信音が鳴る。

「…………はあ」

 うんざりした顔で、イノリがため息を吐いた。

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