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第一部 決闘大会編

百三十三話 

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 教室の真ん中には、燭台がぐるりと円を描くように配置されている。
 大きさは、おおよそ直径四メートルくらい。
 その円の中心を、生徒が駆けまわっていた。燭台の一つ一つに手をかざして、蝋燭に火を点している。
 その奮闘っぷりを観戦しながら、俺は蝋燭を手元の燭台に差し込んだ。

「そこまで。――次!」
「あ、ありがとうございました……」

 しばらくして、高柳先生がストップをかける。
 燭台の円から出てきた生徒は、汗だくになっていた。
 走り回って、くたくたなんだろう。そのファイトを、彼のダチが称えている。

「あー、だめだあ。半分も出来なかった……」
「いや、すげえって。あんな数、どうせ皆出来ねえよ」

 俺とクラスメイトは、古い燭台をのけて、新しい燭台でまた円をつくる。


「そこまで。――次!」
「ありがとうございました!」


 今日は、週明けの試験のために、実技の予行をしてるとこ。
 ほら、制限時間内に、どれだけたくさんの蝋燭に火が点せるか、ってやつな。
 かなりの蝋燭が必要なもんで、順番待ちの生徒が燭台の準備をしてるわけよ。
 簡単な作業だから、みんな手も口も動かしながら、のんびりやっていた。
 俺も教室の壁にはりついて、せっせと作業する。
 でも、ラクなのも考えものだよな。
 いろいろと、考えちゃったりするからさ……。

「はぁ~」

 俺は、深いため息を吐いた。

――何か、危ないことに巻き込まれてない?

 思わず、くしゃ、と顔が歪む。
 また、イノリに心配かけちまったよ。
 つい昨日、「自分の力で頑張る」って言ったばっかりだってのに。
 イノリのやつ……すっげえ不安そうだった。

「トキちゃん、無理はしないで。……お願いだよ?」

 イノリはそう言って、別れ際まで抱きついて離れなかった。
「大丈夫」つったし、何があったかはバレてねえと思うけど――。
 俺ってやつは、どうしてこう締まらないかなあ。
 強い男になって、イノリに頼られるっていう目標には遠いぜ……。

「……いや、へこんでる場合じゃねえ!」

 俯きそうになった頬を、バチンと叩く。
 始めたばっかりで、へこむなんてダサいぞ!
 それに、身近な例を思い出せ。
 そう……父さんが出張に行くのを、見送ってるときのおじさんの顔とか!
 いつも「心配しすぎよ」って母ちゃんが笑ってるじゃん。
 おじさん、いつも「勇二さんを信じてますし、大丈夫ってわかってるんですよ」って苦笑してるよな。
 だから。
 イノリも、俺を信じてないとかじゃなくて。
 単純に、俺が自分が不甲斐ないから、気にしちまうだけなんだ。
 
「よしっ」

 メンタルリセット。
 俺は、高柳先生の号令に、燭台を抱えて走り回った。
  




「――次! 鳶尾くん」
「はい」

 先生に呼ばれ、鳶尾は前に進み出た。
 クラストップの実力を持つ、鳶尾の魔法にみんな注目している。

「鳶尾くん、頑張って!」

 お追従マン――柏木と芝原が、鳶尾に声援を送る。鳶尾は、片手を上げて答えると、円の真ん中で足を止めた。

「鳶尾くん。よろしいですか」
「はい」
「では――はじめ!」

 高柳先輩が、合図をする。

「……」

 鳶尾は、その場に立ったまま動かない。
 みんな、開始の合図があったら、すぐに燭台に駆け寄るのに。
 周囲がざわめく。
 俺も、じっと鳶尾の横顔を見た。丸っきり、涼しい顔をして焦ってる様子はない。
 そのとき、鳶尾が動いた。
 バッ、と両腕を大きく広げて、 

「我が身に宿る火の元素よ。熱を生じ彼の気と結び、蝋燭に火を点させよ」

 高らかに詠唱する。
 次の瞬間、奴の周囲を囲む蝋燭すべてに、一斉に火が点った。

「おおーっ?!」

 クラスメイトの歓声が上がる。
 すげえ。
 蝋燭、本番より少ないったって、五十本以上あるんだぜ。走って点けて回る以外に、方法ねえと思ってた……! それを、一息に火をつけちまうなんて。
 そこに、パン、パン! と高い音で拍手が鳴り響く。
 高柳先生だ。
 頼もしそうな目で、鳶尾を見ている。

「素晴らしい。一年目の君たちにここまで求めるつもりは、ありませんでしたが。……君には容易でしたね」

 鳶尾は、得意気な顔で礼をする。
 壁際に戻ってきた鳶尾に、すかさず柏木と芝原が駆け寄った。「すごい」って興奮気味な声が聞こえてくる。
 確かに、かっけえ。
 あんな、離れた蝋燭に火を点すなんて。めっちゃ魔法みてーじゃん!

「次! 吉村くん」

 と、高柳先生に指名された。

「はいっ!」

 勇んで、前に出た。
 サッカーのスーパープレイ見たときみてえに、胸がうずうずしてる。
 さっきのあれ、俺もやってみてえ。
 先生、グッドタイミングで声かけてくれたぜ。鉄は熱いうちに打たなくっちゃな!
 
「よろしくお願いします!」
 
 俺は、円の中心に立つと高柳先生に礼をした。
 開始の合図とともに、腕をガバッと広げて。
 気合い十分に、詠唱した。

「我が身に宿る、火の元素よ――!」

 
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