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第一部 決闘大会編

百二十五話 

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 その後は、先輩がお茶をたくさん入れてくれて、俺もがぶがぶ飲んだ。
 ハーブティって、たくさん種類あるんだな。チャイくらいしか知らんかったから、何を飲んでも驚きだった。

「どうかな? こっちのお茶はね、カモミールとミントをベースにしてて」
「えーと。鼻がスーッてしてうまいです!」

 俺なりに、頑張って感想を言ったんだ。「ひとの意見って重要だ」って顧問も言ってたし、大事なことだもんな!
 焼き菓子も、ズーズーしいくらいお呼ばれして。お暇するころには、お腹がはち切れそうになってた。

「引き留めちゃって、悪かったね」
「いえ! 俺の方こそ、ごちそう様でしたっ」

 暗い校庭を歩きながら、先輩は言う。俺もその横を歩きながら、両手を合わせた。
 ずいぶん長居してしまってたみたいで、もうすっかり暮れていた。まばらにしか、生徒がすれ違わない。
 C館の近くで、先輩は足を止めた。

「僕の昇降口あっちだから、ここで」
「はい。お疲れさまです!」

 ペコっと頭を下げる。
 先輩は手を振って歩きかけてから、振り返った。

「そうだ。――吉村くん、これあげる」
「えっ?」

 渡されたのは、小さなきんちゃく袋だった。とっさに出した手のひらに、ポトンと乗っかって、花の香りを漂わせている。

「わ、いい匂いですね」
「ラベンダーのサシェなんだ。こういうの作るのも、好きでね」
「すげー!」
「ラベンダーは安眠効果があるんだよ。よかったら、枕元にでも置いてみて」
「ありがとうございます! やってみるっす」

 そう言うと、先輩は嬉しそうに笑った。




 寮に戻ったら、さっそく枕の下にサシェを押し込んでみた。
 枕の下から、ほんわりとラベンダーの匂いが漂う。安眠って、楽しみだな。
 とはいえ、今夜はその真価、試せねえかもなんだけど。
 だって今夜は、お借りした教科書でテスト勉強するからな。ぜってえ、一時・二時に寝るような真似はしないぜ!
 すでに、大浴場でひとっ風呂浴びてきた。
 食堂でお米を借りて、お握りも作った。これで、夜中に腹が減っても大丈夫。

「よーし! やるぞっ」

 俺は腕まくりして、魔法術式の問題集を開く。
 高柳先生の魔法術式の授業は、「実技テスト」も「筆記テスト」も両方ある。
 さらに、問題集のテスト範囲のページ全部やって、テスト後に提出だって言われてんの。
 ノートに問題を解きつつ、大事そうな用語をせっせと書き込んでいく。

「ええと……日本における魔法術式の詠唱呪文の文言の定型は何年に定められ、誰が…………誰だっけ」

 教科書の該当ページをめくると、あった。
 そうそう、日本語の呪文だけど、日本生まれじゃないんだよな。X国で使われてた呪文を、日本の葛城朔也って人が訳して、当局の出張魔法使いのA・ルーメンさんが実用化に働きかけて……。

「ん? この場合、誰の名前書くんだ? 回答欄、どう見ても一人分くらいしか余白ねえけど……詰めて書けばいい感じ?」

 確認しようにも、回答は高柳先生が回収しちゃってるしなぁ。
 まあ、明日質問行けばいいか。
 とりあえず、当てはまりそうな名前をノートに全部書きつける。

「よし、次!」

 俺は、せっせと問題に取り組んだ。
 一時間ぐらいして、腹が減ったのでお握りを食べた。ポットのお湯を飲んで、ほっと一息つく。
 一人の部屋は静かで、ヒーターの音しかしない。
 今夜も、佐賀先輩は演習場だ。西浦先輩も、お友達の部屋に行ったままだし。
 先輩たち、まだ仲直りとか……出来てねえ感じかな。
 なんかさ。
 先輩たちのケンカ、いつも「ひええ」って思ってたけど。こんな風に、会えないでギスギスしてる方が、よっぽど怖えーもんなんだな。
 二人がポンポン言い合ってるの、すでに恋しいや。
 何とかしたい。――でも、どうしよう?
 佐賀先輩は、ずっとピリピリしてて「話しかけんなオーラ」やべえし。あれは、ちょっと突っ込んで聞く勇気出ねえ。
 西浦先輩には、物理的に会えてねえんだよなぁ。あんまり荷物持ってってなかったけど、いろいろ大丈夫なんかな……。
 白湯をちびちび飲みつつ、俺は考えこむ。
 そうだ。
 明日は思い切って、西浦先輩のクラス訪ねてみようかな。

「そうと決めれば、もうひと頑張りすっか!」

 頬をパチンと叩いて、シャーペンを握りなおした。
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