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第一部 決闘大会編
百十二話
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――晩メシの後。
「ふぃ~、腹いっぱい」
俺はベッドにだらんと伸びた。
超だらしないけど、一人だから問題ない。
食堂のてりたま丼、うまいんだよなぁ。照り焼きがこてまろと思わせて、半熟たまごの絶妙の優しさ加減。イノリの奴、食ったことあるかなー。絶対好きな味だと思う……。
お腹をポクポクとさすりつつ、ベッドの木目を眺めた。
それにしても、さっきはビビった。
爆発のせいか、測定室の前に生徒たちが詰め寄せてきてさ。道をふさがれて、帰るに帰れなくなっちまったんだけど。
「お前達、そろそろ下校時刻だぞ!」
葛城先生の鶴の一声がなきゃ、どうなってたことか。
先生は、寮まで付き添ってくれた。
「では、おつかれ」
「うす! ありがとうございます」
俺を送ってくれた後、葛城先生は測定室に戻ってった。片づけがあるんだって。なんか申し訳ねぇ。
ゴロンと寝返りを打って、時計を見上げる。
まだ、二十時前だった。
二見との約束は、二十二時ごろ。
時間はたっぷりあるし、課題を先に終わらせておこうかな。
鞄から、今日の課題と筆記用具をとりだした。
「そういえば、昼間はあぶなかったな」
教材ドロボーされたこと、イノリにバレるところだったし。
あれは、めっちゃ焦った。イノリには、教材とか失くなったの言うつもりないからさ。
とっさに誤魔化したけど。――イノリのやつ、大分不思議そうにしてたよなあ。
「やっぱり、早いとこなんとかしねえとなっ」
アイツ、ただでさえ忙しいのに、俺のことで心配かけたくねーし!
そうと決まれば、明日さっそく姫岡先輩を訪ねてみよう。
約束の時間が近づいて、えっちらおっちら部屋を出た。
二見の部屋は、俺とは違う棟にある。
とはいえ、片倉先輩のお部屋と同じ棟だから、行くのに迷ったりはしないけどな。
無事に着いて、部屋をノックした。
「すんません。二見くんいますか」
少ししてから、反応が返ってくる。
「……はーい! 手が離せないから、勝手に入ってきてー」
「わかった。お邪魔します」
戸を開けると、もわっと熱気と湿気を顔に浴びた。そんでもって、なんか化粧品みたいな、いい匂いがする。
「いやーごめんね。お風呂入ってたもんだからさぁ」
タオルでわしわし頭を拭きながら、二見が部屋の奥から出てきた。カラフルなドーナツ柄のスエットを履いただけで、上は裸だ。
俺は、驚きの声を上げた。
「す、すげー! シックスパック!」
「は?」
「うおお、ナナメまで割れてるし! やべー」
「えー? 怖っ」
きゃっきゃ興奮する俺に、二見は後じさる。
いやいや、だって。
二見って、でっかいなーとは思ってたけど、仕上がり半端ねえじゃん! しかも、ムキムキすぎず、理想の細マッチョ。
「トキ、マッチョになって文化祭はBTS踊ろうぜ! モテモテ間違いなしっ」
「マジで!? やるやるっ」
ガッチャン達とも、筋肉つけようと奮闘したもんだ。みんなでバナナ食ったり、懸垂したり楽しかったなぁ。
まあ、みんなマッチョに進化したのに、なぜか俺だけもやしだけどな。イノリは「割れてなくてもかわ……かっこいいよ?」って励ましてくれたけど、いずれ割りてぇと思ってて。
熱く語る俺をよそに、二見はボディクリームをぬりぬりして言う。
「はぁ。吉村くんって、筋肉好きなの?」
「おうっ」
頷くと、二見はにやにや笑う。
「そーなんだ。でも、桜沢祈だって、かなりスゴそうだけどね。見慣れてないわけ?」
「へ。なんでイノリ?」
まあイノリが、実はすげーのはわかるけど。
ぎゅってされたとき、胸板とか腹筋とかが当たるからさ。
でも、見慣れるかどうかっつーと……そもそもイノリって、俺の前で脱がないんだよなぁ。こないだのお泊まりだって、風呂上がりでもきちんと着こんでたし。
なんでだろ。
ガキの頃はそうでもなかったんだけど……。
ちょっとしょんぼりしていると、二見がけらけら笑いだした。
「ふうん、そういうことね。桜沢祈、かわいそー」
「えっ?」
どう言うこと?
「ううん。立ち話もなんだし、中へおいでよ」
「あっ、わかった」
背中を押されて、部屋の中に通される。二人部屋で、同室の人はいないみたいだった。
ローテーブルの前に正座する。
二見は、冷蔵庫から水を取り出した。
「二見、同室の人は?」
「うん。出てもらったんだ、邪魔だし」
「そっか……悪いな」
「いーの、いーの。たまにはオレも上下を忘れたいし」
ミネラルウォーターのコップを、コトンと目の前に置かれる。
「よっこいせ」
二見は裸の上にパーカーを羽織ると、対面に座り込んだ。
直に着るとは、剛毅なやつだ。チャック当たって、かゆくねえのかな。
二見はコホンと咳払いして、マジな顔になった。
「じゃ、そろそろ話そっか。十月のあの事件のこと。一体、キミになにがあったのか」
「ふぃ~、腹いっぱい」
俺はベッドにだらんと伸びた。
超だらしないけど、一人だから問題ない。
食堂のてりたま丼、うまいんだよなぁ。照り焼きがこてまろと思わせて、半熟たまごの絶妙の優しさ加減。イノリの奴、食ったことあるかなー。絶対好きな味だと思う……。
お腹をポクポクとさすりつつ、ベッドの木目を眺めた。
それにしても、さっきはビビった。
爆発のせいか、測定室の前に生徒たちが詰め寄せてきてさ。道をふさがれて、帰るに帰れなくなっちまったんだけど。
「お前達、そろそろ下校時刻だぞ!」
葛城先生の鶴の一声がなきゃ、どうなってたことか。
先生は、寮まで付き添ってくれた。
「では、おつかれ」
「うす! ありがとうございます」
俺を送ってくれた後、葛城先生は測定室に戻ってった。片づけがあるんだって。なんか申し訳ねぇ。
ゴロンと寝返りを打って、時計を見上げる。
まだ、二十時前だった。
二見との約束は、二十二時ごろ。
時間はたっぷりあるし、課題を先に終わらせておこうかな。
鞄から、今日の課題と筆記用具をとりだした。
「そういえば、昼間はあぶなかったな」
教材ドロボーされたこと、イノリにバレるところだったし。
あれは、めっちゃ焦った。イノリには、教材とか失くなったの言うつもりないからさ。
とっさに誤魔化したけど。――イノリのやつ、大分不思議そうにしてたよなあ。
「やっぱり、早いとこなんとかしねえとなっ」
アイツ、ただでさえ忙しいのに、俺のことで心配かけたくねーし!
そうと決まれば、明日さっそく姫岡先輩を訪ねてみよう。
約束の時間が近づいて、えっちらおっちら部屋を出た。
二見の部屋は、俺とは違う棟にある。
とはいえ、片倉先輩のお部屋と同じ棟だから、行くのに迷ったりはしないけどな。
無事に着いて、部屋をノックした。
「すんません。二見くんいますか」
少ししてから、反応が返ってくる。
「……はーい! 手が離せないから、勝手に入ってきてー」
「わかった。お邪魔します」
戸を開けると、もわっと熱気と湿気を顔に浴びた。そんでもって、なんか化粧品みたいな、いい匂いがする。
「いやーごめんね。お風呂入ってたもんだからさぁ」
タオルでわしわし頭を拭きながら、二見が部屋の奥から出てきた。カラフルなドーナツ柄のスエットを履いただけで、上は裸だ。
俺は、驚きの声を上げた。
「す、すげー! シックスパック!」
「は?」
「うおお、ナナメまで割れてるし! やべー」
「えー? 怖っ」
きゃっきゃ興奮する俺に、二見は後じさる。
いやいや、だって。
二見って、でっかいなーとは思ってたけど、仕上がり半端ねえじゃん! しかも、ムキムキすぎず、理想の細マッチョ。
「トキ、マッチョになって文化祭はBTS踊ろうぜ! モテモテ間違いなしっ」
「マジで!? やるやるっ」
ガッチャン達とも、筋肉つけようと奮闘したもんだ。みんなでバナナ食ったり、懸垂したり楽しかったなぁ。
まあ、みんなマッチョに進化したのに、なぜか俺だけもやしだけどな。イノリは「割れてなくてもかわ……かっこいいよ?」って励ましてくれたけど、いずれ割りてぇと思ってて。
熱く語る俺をよそに、二見はボディクリームをぬりぬりして言う。
「はぁ。吉村くんって、筋肉好きなの?」
「おうっ」
頷くと、二見はにやにや笑う。
「そーなんだ。でも、桜沢祈だって、かなりスゴそうだけどね。見慣れてないわけ?」
「へ。なんでイノリ?」
まあイノリが、実はすげーのはわかるけど。
ぎゅってされたとき、胸板とか腹筋とかが当たるからさ。
でも、見慣れるかどうかっつーと……そもそもイノリって、俺の前で脱がないんだよなぁ。こないだのお泊まりだって、風呂上がりでもきちんと着こんでたし。
なんでだろ。
ガキの頃はそうでもなかったんだけど……。
ちょっとしょんぼりしていると、二見がけらけら笑いだした。
「ふうん、そういうことね。桜沢祈、かわいそー」
「えっ?」
どう言うこと?
「ううん。立ち話もなんだし、中へおいでよ」
「あっ、わかった」
背中を押されて、部屋の中に通される。二人部屋で、同室の人はいないみたいだった。
ローテーブルの前に正座する。
二見は、冷蔵庫から水を取り出した。
「二見、同室の人は?」
「うん。出てもらったんだ、邪魔だし」
「そっか……悪いな」
「いーの、いーの。たまにはオレも上下を忘れたいし」
ミネラルウォーターのコップを、コトンと目の前に置かれる。
「よっこいせ」
二見は裸の上にパーカーを羽織ると、対面に座り込んだ。
直に着るとは、剛毅なやつだ。チャック当たって、かゆくねえのかな。
二見はコホンと咳払いして、マジな顔になった。
「じゃ、そろそろ話そっか。十月のあの事件のこと。一体、キミになにがあったのか」
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