32 / 239
第一部 決闘大会編
三十二話
しおりを挟む
「四元素拮抗型っていうのは、魔力の型のひとつなんだ――トキちゃん、昨日話したよね? 魔力は大抵、四元素のどれかに偏るものだって」
「おう」
イノリは、俺と繋いだのと逆の手で、胸ポケットからペンを取り出した。机に、昨日と同じ小さい正方形を書きつける。
それ油性じゃね? と思ったけど、黙って聞く。
「でもね、四元素拮抗型の人は、偏りのない魔力を持ってるんだよ。肉体の四元素がどれも均等で、どこにもフレがないの。図にすると、こんな感じ?」
「ほー」
イノリは言いながら、小さな四角の周りを囲むように、大きな正方形を書いた。俺は、首を捻った。
「なあイノリ。その四元素拮抗型ってのだと、元素ってわかりにくいもんなん?」
「そうだねぇ。四元素ってさ、持ってる量が均等だとすごく安定するんだって。安定してると、どれか一つが飛び抜けないから、気づきにくいんだと思う」
「そうなのか」
「そのかわり、四元素拮抗型の人は、体が丈夫な人が多いんだよー。四元素が安定してると、身もこころも安定するから」
「へえ!」
それは、すっげえ身に覚えがあるぞ。
たしかに俺、昔から風邪一つひかねえし、あんまり悩んだことねえもんな。
イノリは、にこっと笑うと俺の手をぎゅっと握った。
「ねっ、トキちゃんは大丈夫だよ。元素に気づきにくいのは、持ってる魔力の性質ってだけだから」
「イノリ……ありがとな」
胸がジーンとした。
いや、俺がその「四元素拮抗型」ってのだったからじゃなくて。イノリの気持ちが嬉しくてさ。
俺、そんなに悩んでたつもりじゃねえんだ。そりゃ、「参ったなあ」とは思ってたけど。何やるにしたって、やると決めたら、こつこつやるもんだし。
けど、こうしてイノリに励まされるとさ。俺って、不安だったんかなとかちょっと思う。
たぶん、いま心強いから。
イノリは、おっとりと説明を続けた。
「四元素拮抗型はね。元素に気づきにくいから最初はたいへんだけど、一度わかっちゃえばめっけもんだって。希美ママが言ってたよ」
「母ちゃんが?」
「希美ママも、トキちゃんと同じだったって。おじさんも」
「マジ!」
ふつうに初耳だぜ。てかイノリ、お前よくそんなの知ってんな。
したら、イノリは「母さんさ、酒が入ると希美ママとの馴れ初めばっか喋るんだよね……」と遠い目をしてて。そりゃ、きついな……。
「じゃあ、母ちゃんたちも、最初はわかんなかったのかな」
「みたいだよー。それで、希美ママは「ずっと黒だったけど、恩師に魔力を起こしてもらってから、ぐんぐん伸びたの」って、言ってた」
「へーっ。すげえな」
なるほど、魔力を起こしてもらうかぁ。
それって、須々木先輩いわくの、「触って刺激♡」なんだよな。先輩は、俺にイノリに頼んでみろって言ってたけど。
「それって、具体的にどういうことすんのかな。お前、知ってる?」
「うん、わかるよ。あのね―」
イノリは、俺と繋いだ手を目の高さに持ち上げた。
すると、金色の光がくっついたところからこぼれだす。
昨日とは違って、中には吸い込まれて行かなくて、手のひらがふわふわ擽ったい。
「わっ」
「昨日と同じでさー、俺の魔力をトキちゃんの中に流し込むだろ。でぇ、トキちゃんの風の元素を刺激して、俺の魔力で絡めとって……」
「うわわわ」
金色の光が帯みたいになって、するすると俺の指にからみつく。
うわ、超くすぐってえ!
それに、なんかゾクゾクする。やな感じじゃないけど、その……!
「っ……!」
思わず、ビクッと肩をすくめると、イノリは楽しそうに目を細めた。
きゅ、と指を一瞬強く握られる。
「こうして、表に引っ張り出すの」
「ぁっ……!」
息を飲む。
今、触れてるところから、電気が走ったみたいになった――。
ゾクゾクって、背中が勝手に震えてしまう。
と、ぽん、って金色の光がまんまるい玉になって、つないだ手の上に浮かんだ。光の玉は、ぽかんと見ている俺の目の前で、すぐ霧散してしまった。
イノリは、にこにこと笑って言う。
「つまり、俺の魔力で引っ張って、トキちゃんの魔力を外に連れ出すってかんじかな。さっきは、中に入れなかったけどー」
「……へ、へえ~。サンキュ、イノリ」
どぎまぎしながら、空いた手で胸を押えた。
な、なんか、やばくね?
いや、昨日のとどう違うのかって、言われたらそうなんだけど。でも、なんかこれ……。
うまく言えねえんだけど、イノリに頼んでいいのかって感じがする。
だからって、他の奴に頼めるかって言うと、――それはそれで変なんだけど。
いや、なにが変とかわかんねえけど!
「で。トキちゃん、どうしたい?」
「へ?」
「魔力、起こしちゃう? もしするならさ、トキちゃんさえ良かったら、俺がしたいんだけど」
「えっ」
真面目な顔で、俺を見つめるイノリ。なんか、じんわりと顔面に汗が染みてくる俺。ごくっと、唾を飲む。
サンキュー、イノリ。俺からも頼もうと思ってたとこ!
渡りに船、そう答えるつもりだったんだけど。
「か、考えさせてもらっていいかな……」
口から出たのは、なんともしょぼくれた返事だった。
「おう」
イノリは、俺と繋いだのと逆の手で、胸ポケットからペンを取り出した。机に、昨日と同じ小さい正方形を書きつける。
それ油性じゃね? と思ったけど、黙って聞く。
「でもね、四元素拮抗型の人は、偏りのない魔力を持ってるんだよ。肉体の四元素がどれも均等で、どこにもフレがないの。図にすると、こんな感じ?」
「ほー」
イノリは言いながら、小さな四角の周りを囲むように、大きな正方形を書いた。俺は、首を捻った。
「なあイノリ。その四元素拮抗型ってのだと、元素ってわかりにくいもんなん?」
「そうだねぇ。四元素ってさ、持ってる量が均等だとすごく安定するんだって。安定してると、どれか一つが飛び抜けないから、気づきにくいんだと思う」
「そうなのか」
「そのかわり、四元素拮抗型の人は、体が丈夫な人が多いんだよー。四元素が安定してると、身もこころも安定するから」
「へえ!」
それは、すっげえ身に覚えがあるぞ。
たしかに俺、昔から風邪一つひかねえし、あんまり悩んだことねえもんな。
イノリは、にこっと笑うと俺の手をぎゅっと握った。
「ねっ、トキちゃんは大丈夫だよ。元素に気づきにくいのは、持ってる魔力の性質ってだけだから」
「イノリ……ありがとな」
胸がジーンとした。
いや、俺がその「四元素拮抗型」ってのだったからじゃなくて。イノリの気持ちが嬉しくてさ。
俺、そんなに悩んでたつもりじゃねえんだ。そりゃ、「参ったなあ」とは思ってたけど。何やるにしたって、やると決めたら、こつこつやるもんだし。
けど、こうしてイノリに励まされるとさ。俺って、不安だったんかなとかちょっと思う。
たぶん、いま心強いから。
イノリは、おっとりと説明を続けた。
「四元素拮抗型はね。元素に気づきにくいから最初はたいへんだけど、一度わかっちゃえばめっけもんだって。希美ママが言ってたよ」
「母ちゃんが?」
「希美ママも、トキちゃんと同じだったって。おじさんも」
「マジ!」
ふつうに初耳だぜ。てかイノリ、お前よくそんなの知ってんな。
したら、イノリは「母さんさ、酒が入ると希美ママとの馴れ初めばっか喋るんだよね……」と遠い目をしてて。そりゃ、きついな……。
「じゃあ、母ちゃんたちも、最初はわかんなかったのかな」
「みたいだよー。それで、希美ママは「ずっと黒だったけど、恩師に魔力を起こしてもらってから、ぐんぐん伸びたの」って、言ってた」
「へーっ。すげえな」
なるほど、魔力を起こしてもらうかぁ。
それって、須々木先輩いわくの、「触って刺激♡」なんだよな。先輩は、俺にイノリに頼んでみろって言ってたけど。
「それって、具体的にどういうことすんのかな。お前、知ってる?」
「うん、わかるよ。あのね―」
イノリは、俺と繋いだ手を目の高さに持ち上げた。
すると、金色の光がくっついたところからこぼれだす。
昨日とは違って、中には吸い込まれて行かなくて、手のひらがふわふわ擽ったい。
「わっ」
「昨日と同じでさー、俺の魔力をトキちゃんの中に流し込むだろ。でぇ、トキちゃんの風の元素を刺激して、俺の魔力で絡めとって……」
「うわわわ」
金色の光が帯みたいになって、するすると俺の指にからみつく。
うわ、超くすぐってえ!
それに、なんかゾクゾクする。やな感じじゃないけど、その……!
「っ……!」
思わず、ビクッと肩をすくめると、イノリは楽しそうに目を細めた。
きゅ、と指を一瞬強く握られる。
「こうして、表に引っ張り出すの」
「ぁっ……!」
息を飲む。
今、触れてるところから、電気が走ったみたいになった――。
ゾクゾクって、背中が勝手に震えてしまう。
と、ぽん、って金色の光がまんまるい玉になって、つないだ手の上に浮かんだ。光の玉は、ぽかんと見ている俺の目の前で、すぐ霧散してしまった。
イノリは、にこにこと笑って言う。
「つまり、俺の魔力で引っ張って、トキちゃんの魔力を外に連れ出すってかんじかな。さっきは、中に入れなかったけどー」
「……へ、へえ~。サンキュ、イノリ」
どぎまぎしながら、空いた手で胸を押えた。
な、なんか、やばくね?
いや、昨日のとどう違うのかって、言われたらそうなんだけど。でも、なんかこれ……。
うまく言えねえんだけど、イノリに頼んでいいのかって感じがする。
だからって、他の奴に頼めるかって言うと、――それはそれで変なんだけど。
いや、なにが変とかわかんねえけど!
「で。トキちゃん、どうしたい?」
「へ?」
「魔力、起こしちゃう? もしするならさ、トキちゃんさえ良かったら、俺がしたいんだけど」
「えっ」
真面目な顔で、俺を見つめるイノリ。なんか、じんわりと顔面に汗が染みてくる俺。ごくっと、唾を飲む。
サンキュー、イノリ。俺からも頼もうと思ってたとこ!
渡りに船、そう答えるつもりだったんだけど。
「か、考えさせてもらっていいかな……」
口から出たのは、なんともしょぼくれた返事だった。
21
お気に入りに追加
492
あなたにおすすめの小説
烏木の使いと守護騎士の誓いを破るなんてとんでもない
時雨
BL
いつもの通勤中に猫を助ける為に車道に飛び出し車に轢かれて死んでしまったオレは、気が付けば見知らぬ異世界の道の真ん中に大の字で寝ていた。
通りがかりの騎士風のコスプレをしたお兄さんに偶然助けてもらうが、言葉は全く通じない様子。
黒い髪も瞳もこの世界では珍しいらしいが、なんとか目立たず安心して暮らせる場所を探しつつ、助けてくれた騎士へ恩返しもしたい。
騎士が失踪した大切な女性を捜している道中と知り、手伝いたい……けど、この”恩返し”という名の”人捜し”結構ハードモードじゃない?
◇ブロマンス寄りのふんわりBLです。メインCPは騎士×転移主人公です。
◇異世界転移・騎士・西洋風ファンタジーと好きな物を詰め込んでいます。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
くんか、くんか Sweet ~甘くて堪らない、君のフェロモン~
天埜鳩愛
BL
爽やかスポーツマンα × 妄想巣作りのキュートΩ☆ お互いのフェロモンをくんかくんかして「甘い❤」ってとろんっとする、可愛い二人のもだきゅんラブコメ王道オメガバースです。
オメガ性を持つ大学生の青葉はアルバイト先のアイスクリームショップの向かいにあるコーヒーショップの店員、小野寺のことが気になっていた。
彼に週末のデートを誘われ浮かれていたが、発情期の予兆で休憩室で眠ってしまう。
目を覚ますと自分にかけられていた小野寺のパーカーから香る彼のフェロモンに我慢できなくなり、発情を促進させてしまった!
他の男に捕まりそうになった時小野寺が駆けつけ、彼の家の保護される。青葉はランドリーバスケットから誘われるように彼の衣服を拾い集めるが……。
ハッピーな気持ちになれる短編Ωバースです
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
全寮制男子高校生活~行方不明になってた族の総長が王道学園に入学してみた~
雨雪
BL
スイマセン、腐男子要素どこいった状態になりそうだったんでタイトル変えました。
元、腐男子が王道学園に入学してみた。腐男子設定は生きてますがあんま出てこないかもです。
書いてみたいと思ったから書いてみただけのお話。駄文です。
自分が平凡だと本気で思っている非凡の腐男子の全寮制男子校での話。
基本思いつきなんでよくわかんなくなります。
ストーリー繋がんなくなったりするかもです。
1話1話短いです。
18禁要素出す気ないです。書けないです。
出てもキスくらいかなぁ
*改稿終わって再投稿も終わったのでとりあえず完結です~
なぜか第三王子と結婚することになりました
鳳来 悠
BL
第三王子が婚約破棄したらしい。そしておれに急に婚約話がやってきた。……そこまではいい。しかし何でその相手が王子なの!?会ったことなんて数えるほどしか───って、え、おれもよく知ってるやつ?身分偽ってたぁ!?
こうして結婚せざるを得ない状況になりました…………。
金髪碧眼王子様×黒髪無自覚美人です
ハッピーエンドにするつもり
長編とありますが、あまり長くはならないようにする予定です
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる