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第一部 決闘大会編
二話
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「トキちゃん、オデコ痛い? 大丈夫?」
「や、前髪焦げただけだし……」
イノリがうるうるした目で、俺の額に保冷剤を当ててくれた。直にぶち当てるのでなく、タオルを巻いてくれる辺り、モテ男ってのは伊達じゃねえと思う。
今いる場所は、俺ん家のリビングだ。
イノリと俺は、隣り合って続きのダイニングのテーブルについていた。イノリの奴がいつも隣に座りたがるから、普段ならソファに座るけど。
わざわざ、いわくつきになっちまったソファに座りたい奴、いる?
「ありがとねえ、祈くん。はい、お茶どうぞ」
「あ、どもです」
母ちゃんが麦茶のコップを二つテーブルに置く。イノリは、つっけんどんに会釈した。いっつも、にこにこしてるのに珍しい。
「母ちゃん、俺コーラが良い」
「自分で出しなさいよ」
「希美ちゃん! わたしにもお茶っ」
「はーい」
いわくつきのソファをものともせず、ど真ん中にデンと座ったおばさんが、母ちゃんを呼びつけた。
おばさんはイノリに似て美人だから、偉そうにしてると女王様みたいだ。逆に母ちゃんは、全然どこにでもいるおばちゃんなんだけど。これでマジで仲いいみてえだから、不思議だよな。
じゃれ合うおばさん二人を眺めてたら、イノリに顎を掴まれてぐにっと振り向かされる。
「トキちゃん、ちゃんと冷やそう?」
「ん? おう」
イノリはふと、長い指で俺の短くなった前髪を梳いた。
「本当にごめんね。うちのオバサンの気が荒いせいで。せっかく、『横浜流星に似てきたぜ』って喜んでたのに……」
「おおおお、ここで言うなよそれを!」
おれは叫んで、イノリの口を塞いだ。
が、時すでに遅し。
母ちゃんが目を丸くして「あんた、あれ流星くん意識してたの?」などと言い、青少年の純情をいためつける。
がっくり項垂れる俺をよそに、おばさんがイノリをなじった。
「ちょっと、誰がオバサンよ、このクソガキ!」
「はあ? オバサンだろ、自分の歳も忘れたわけ?」
するとイノリも、馬鹿にしたような笑顔で言い返す。つうかお前、なんで今日はそんなに喧嘩っ早いんだ?
またもや、一触即発の空気を醸し出した二人に、やべえと思って立ち上がった。
すると、ガチャ、とリビングのドアが開く音。
「ふあー、やっと許してもらえたよー」
「ただいま。揉めてはいませんか、拝音さん、祈くん」
共用廊下で騒いだせいで、ご近所さんに締め上げられていた、オッサン二人が帰ってきた。
喧嘩がなあなあになったのは良かったけどさ。オッサンども今、手つないでなかったか?
リビングに、面子が全員揃ったところで、さっそく話し合いが始まった。
俺とイノリが、依然テーブルについていて。他の四人はソファに向かい合っていた。
けど、その並びが変なんだよな。
普段は夫婦同士で並ぶのに、今日は「父さん・おじさん」「母ちゃん・おばさん」になってんの。
「でさぁ、結局なにがどうなってんの?」
いい加減、わかんねえことがダルくなっていた俺は、ずばっと切り出した。
マジで、帰ってきてから、一回も気が休まってないんだわ。
俺の親父と、イノリのおじさんが不倫してたっぽくて?
トレンディドラマの修羅場かと思いきや、ニチアサの特撮みてぇな展開になるし。
じろっとねめつけると、親父は狼狽しまくって、膝をもじもじさせている。すると、隣のおじさんが、父さんの手をぎゅっと握った。
「亜世ちゃん……」
「勇二さん、大丈夫。ぼくがついてますよ」
「うん!」
大丈夫か決めんのは俺なんだよなぁ?!
手と手を取り合って、見つめ合うんじゃねえ。母親相手でもキツイのに、不倫相手とって、どういう神経してんだこのオッサン。
俺の削られるSAN値をよそに、親父はこほんと咳払いした。
「時生。驚かないで聞いてほしい」
「無理言うんじゃねえよ」
「そ、そう言わないで。ええと……どう言えばいいかな、俺と亜世ちゃんのことを。亜世ちゃんとは――時生が考えてるような、関係じゃなくてさ、その」
「普通に、愛し合ってるって言えば?」
「お、桜沢さん?!」
ぐだぐだと言葉をこねる父さんに、焦れたのは俺だけじゃなかったようだ。
頬杖付いたおばさんが、つまらなそうに言い放つ。父さんは、ぎょっと目を剥いた。
「愛し合ってるう?」
怪訝に問えば、父さんが茹で上がったように赤くなる。
おじさんは、そんな親父を可愛いハムスターを見るような目で見てて、怖かった。
「あのねえ、時生。そこのおっさん共――勇二と亜世はね。あんたの生まれる前から恋人なのよ」
「は」
「そんで、わたしと希美ちゃんも恋人なの」
「はああ?」
ちょっと待て、親父とおじさんが恋人で。ずっと前から付き合ってて?
その上、母ちゃんとおばさんまで付き合ってるって? それってなんてW不倫?
俺はぐるぐる回る、頭を抱えた。
母ちゃんよ、「やだ、拝音ちゃんたらいきなり……」とか照れてる場合か。
すると、おじさんがきりっとした顔で俺の名を呼んだ。
「時生くん、本当は君が成人するまで言わないつもりだったんですが……バレてしまったからには本当のことを話します。実は、今までのぼくたちは、パートナーを偽っていたんです。本当の夫婦の組み合わせは――拝音さんと希美さん。ぼくと、勇二さんなんです」
おじさんは真面目な顔で、父さんの肩を抱いて引き寄せた。そのままソファを立ち上がり、歩み寄ってくる。
「そして、君は正真正銘、ぼくと勇二さんの息子なんですよ」
そう言って、おじさんは親父ごと俺を抱きしめた。
高そうな香水の匂いと、親父の整髪料の匂いに包まれて、石のように固まる俺。
横でイノリが目をかっぴらいてて、猛烈に沸き起こる羞恥心。
「ふざけんなああああ!!」
とりあえず、こう叫ぶよな?
「や、前髪焦げただけだし……」
イノリがうるうるした目で、俺の額に保冷剤を当ててくれた。直にぶち当てるのでなく、タオルを巻いてくれる辺り、モテ男ってのは伊達じゃねえと思う。
今いる場所は、俺ん家のリビングだ。
イノリと俺は、隣り合って続きのダイニングのテーブルについていた。イノリの奴がいつも隣に座りたがるから、普段ならソファに座るけど。
わざわざ、いわくつきになっちまったソファに座りたい奴、いる?
「ありがとねえ、祈くん。はい、お茶どうぞ」
「あ、どもです」
母ちゃんが麦茶のコップを二つテーブルに置く。イノリは、つっけんどんに会釈した。いっつも、にこにこしてるのに珍しい。
「母ちゃん、俺コーラが良い」
「自分で出しなさいよ」
「希美ちゃん! わたしにもお茶っ」
「はーい」
いわくつきのソファをものともせず、ど真ん中にデンと座ったおばさんが、母ちゃんを呼びつけた。
おばさんはイノリに似て美人だから、偉そうにしてると女王様みたいだ。逆に母ちゃんは、全然どこにでもいるおばちゃんなんだけど。これでマジで仲いいみてえだから、不思議だよな。
じゃれ合うおばさん二人を眺めてたら、イノリに顎を掴まれてぐにっと振り向かされる。
「トキちゃん、ちゃんと冷やそう?」
「ん? おう」
イノリはふと、長い指で俺の短くなった前髪を梳いた。
「本当にごめんね。うちのオバサンの気が荒いせいで。せっかく、『横浜流星に似てきたぜ』って喜んでたのに……」
「おおおお、ここで言うなよそれを!」
おれは叫んで、イノリの口を塞いだ。
が、時すでに遅し。
母ちゃんが目を丸くして「あんた、あれ流星くん意識してたの?」などと言い、青少年の純情をいためつける。
がっくり項垂れる俺をよそに、おばさんがイノリをなじった。
「ちょっと、誰がオバサンよ、このクソガキ!」
「はあ? オバサンだろ、自分の歳も忘れたわけ?」
するとイノリも、馬鹿にしたような笑顔で言い返す。つうかお前、なんで今日はそんなに喧嘩っ早いんだ?
またもや、一触即発の空気を醸し出した二人に、やべえと思って立ち上がった。
すると、ガチャ、とリビングのドアが開く音。
「ふあー、やっと許してもらえたよー」
「ただいま。揉めてはいませんか、拝音さん、祈くん」
共用廊下で騒いだせいで、ご近所さんに締め上げられていた、オッサン二人が帰ってきた。
喧嘩がなあなあになったのは良かったけどさ。オッサンども今、手つないでなかったか?
リビングに、面子が全員揃ったところで、さっそく話し合いが始まった。
俺とイノリが、依然テーブルについていて。他の四人はソファに向かい合っていた。
けど、その並びが変なんだよな。
普段は夫婦同士で並ぶのに、今日は「父さん・おじさん」「母ちゃん・おばさん」になってんの。
「でさぁ、結局なにがどうなってんの?」
いい加減、わかんねえことがダルくなっていた俺は、ずばっと切り出した。
マジで、帰ってきてから、一回も気が休まってないんだわ。
俺の親父と、イノリのおじさんが不倫してたっぽくて?
トレンディドラマの修羅場かと思いきや、ニチアサの特撮みてぇな展開になるし。
じろっとねめつけると、親父は狼狽しまくって、膝をもじもじさせている。すると、隣のおじさんが、父さんの手をぎゅっと握った。
「亜世ちゃん……」
「勇二さん、大丈夫。ぼくがついてますよ」
「うん!」
大丈夫か決めんのは俺なんだよなぁ?!
手と手を取り合って、見つめ合うんじゃねえ。母親相手でもキツイのに、不倫相手とって、どういう神経してんだこのオッサン。
俺の削られるSAN値をよそに、親父はこほんと咳払いした。
「時生。驚かないで聞いてほしい」
「無理言うんじゃねえよ」
「そ、そう言わないで。ええと……どう言えばいいかな、俺と亜世ちゃんのことを。亜世ちゃんとは――時生が考えてるような、関係じゃなくてさ、その」
「普通に、愛し合ってるって言えば?」
「お、桜沢さん?!」
ぐだぐだと言葉をこねる父さんに、焦れたのは俺だけじゃなかったようだ。
頬杖付いたおばさんが、つまらなそうに言い放つ。父さんは、ぎょっと目を剥いた。
「愛し合ってるう?」
怪訝に問えば、父さんが茹で上がったように赤くなる。
おじさんは、そんな親父を可愛いハムスターを見るような目で見てて、怖かった。
「あのねえ、時生。そこのおっさん共――勇二と亜世はね。あんたの生まれる前から恋人なのよ」
「は」
「そんで、わたしと希美ちゃんも恋人なの」
「はああ?」
ちょっと待て、親父とおじさんが恋人で。ずっと前から付き合ってて?
その上、母ちゃんとおばさんまで付き合ってるって? それってなんてW不倫?
俺はぐるぐる回る、頭を抱えた。
母ちゃんよ、「やだ、拝音ちゃんたらいきなり……」とか照れてる場合か。
すると、おじさんがきりっとした顔で俺の名を呼んだ。
「時生くん、本当は君が成人するまで言わないつもりだったんですが……バレてしまったからには本当のことを話します。実は、今までのぼくたちは、パートナーを偽っていたんです。本当の夫婦の組み合わせは――拝音さんと希美さん。ぼくと、勇二さんなんです」
おじさんは真面目な顔で、父さんの肩を抱いて引き寄せた。そのままソファを立ち上がり、歩み寄ってくる。
「そして、君は正真正銘、ぼくと勇二さんの息子なんですよ」
そう言って、おじさんは親父ごと俺を抱きしめた。
高そうな香水の匂いと、親父の整髪料の匂いに包まれて、石のように固まる俺。
横でイノリが目をかっぴらいてて、猛烈に沸き起こる羞恥心。
「ふざけんなああああ!!」
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