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余談

友達(4)

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 伊月社長に三つのお願いをされてから一週間ほどで、本当にアクセサリーブランドのイメージキャラクターの仕事が来た。
 曲を作ることも、コンサートを開くことも、ほぼ決定。

「やった! 五人で仕事!」
「新曲!」
「コンサート!」

 メンバーは手放しで喜んだし、マネージャーや事務所の社長は微妙な笑顔ではあったけど「大事なお客さんの指名だから当分はこっちのスケジュール優先でね」と言ってくれた。 
 伊月社長の言っていた通りだけど……これ……

 ……早すぎる。

 怖いくらいに早い。
 あの日、伊月社長がすぐ手配したとしても、社内の会議に予算組み、承認、広告代理店との調整、こっちの事務所との調整……一週間でできるわけがない。
 これ、絶対にその前から内々で進んでいた話だ。
 ほら、提案書の日付、十日前だし!

「なぁ、フユキがなんかしてくれた?」

 マネージャーたちがいなくなった会議室でメンバーに聞かれたけど……言ってしまいたい気持ちもあったけど……

「いくら俺のツテでもこんなに早く結果でないよ。俺もびっくりした」
「それもそうか」 
「あ、ほら、提案書に『伊月ホールディングス内にfive×tenのファンが多く……』って書いてある。ファンが見てくれていたのかな?」
「そうかも。だったらしっかり頑張らないとな!」

 メンバーは笑顔になったし、やる気も出た。
 俺だって嬉しい。

 でも……

 伊月社長に関しては、メンバーを巻き込むのは怖い。
 当面は俺一人の胸にしまっておこう。


      ◆


 特に伊月社長から連絡がないまま、数日が過ぎた。
 その間に、「まだ共演者は決まっていないけど探偵映画のオファーがあって……事務所としては絶対にうけてほしいんだけどどう?」とマネージャーから打診があった。
 もちろん快諾したけど、これも早い。この映画のプロデューサーも監督も、うちの事務所と関係が薄いのに。

「あの人、どこまで用意していたんだ?」

 やはり全部計算なのか?
 俺でこれなんだから、きっと波崎くんはもっともっといい仕事を融通してもらって……
 いや、俺は他人のことを言える立場じゃない。
 
「明日は早いし、変なことを考えずにしっかり寝よう」

 明日は毎週水曜日に「コメンテーター」としてレギュラー出演している朝の情報番組の日だ。
 スタジオに五時入りだから早いけどもう寝るか。

 ……この後、翌朝のトップニュースになる暴露動画がアップされるなんて知らずに、ベッドに入った。


      ◆


「……うわー……」

 翌朝、スタジオに向かうタクシーの中で、日課になっているニュースサイトのチェックをすると、トップニュースは例の暴露チャンネルが投稿した「【内部告発】大物司会者のセクハラ老害ノーカット版【被害者凸アリ】」という動画の話題ばかりだった。

「確かに前からヤバイ人だったけどさ……」

 芸人の嶋北さんのセクハラ、パワハラは有名だ。
 有名だけど……

「放送には乗らないように、これだって上手くカットできるタイミングでやっているし、レイプとか怪我させるとか、ガチでヤバイことはしない人なんだけどな……」

 あくまで「昔のテレビのお笑いのノリ」を引きずっているだけ。
 それも昨今はよくないし、未成年の女の子へコレは完全にアウト。
 ただ……

「もっとヤバイ人、ヤバイ現場、いくらでもあるのに?」

 このADさん、前に別の司会者の飲み会で見たけど、あの飲み会はもっと胸糞悪いことがあった。
 カメラが回っていなかったから告発できないのかもしれないけど、それにしても……

「……」

 一般人には、「耐えかねたADさんの告発」に見えるだろうけど、業界に詳しい人には、被害者のノノちゃんの関係者……いや、嶋北さんを引きずり下ろしたいライバルとか制作側の策略に見えるな。
 一番株が上がるのは波崎くんだけど、波崎くんを上げるよりは、嶋北さんを下げる意図を感じる編集だし。

「っていうか、このチャンネル……」

 動画一覧を少しさかのぼると、ほんの数個目で最近じっくり見た動画が出てきた。
 あの、枕営業パーティー潜入の動画だ。

 同じチャンネル……
 得するのは波崎アオくん……
 こんなのどう考えても……

――ブブブブブッ

「!?」

 動画サイトを開いていたスマホに、メッセージが届いた。
 伊月社長だ。

『よろしくね』

 ただそれだけ。
 でも、その一言ですべてを理解した。

 波崎くんを助けるように、嶋北さんを降板させるように、コメントをして欲しいということ。

 すべて伊月社長の計算だということ。

「……はぁ……『はい。まかせてください』」

 俺はもう、この人の計画に乗るしかないということ。
 伊月社長は、絶対に敵に回してはいけないということ。
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