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【後日談】

俺だって溺愛したい【4】

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 映画中も、映画館近くの気軽な居酒屋でビール片手に食事をする間も、居酒屋から駅へ向かう間も、やっぱり浅野さんにスキンシップの先手を取られてばかりだった。
 浅野さんが楽しそうだし、俺も嬉しいから良いと言えば良いんだけど。



「タクシー全然来ないですね」
「電車にしましょうか」

 駅のタクシー乗り場には、タクシーを待つ人はいるのに、タクシーは一台もいない。
 大きな駅だから油断したな。
 
「……電車、辛くないですか?」

 浅野さんが心配そうに顔を覗き込んでくれる。
 そういえば、転職してからは電車に乗る機会がほとんどなかった。
 あるとしても、休日の空いた電車で……今は平日の夜九時半ごろ。
 この沿線はまだまだ帰宅ラッシュだ。多分混んでいる。
 でも……

「浅野さんと一緒なら、電車嫌いじゃないんで」

 むしろ、抱きしめてもらえるから好きだけど……。
 照れながら曖昧に呟いたのに、俺の本音は浅野さんにバレバレのようで、隣に立った浅野さんが嬉しそうに笑顔を輝かせる。

「じゃあ、電車にしましょう!」


      ◆


 ホームにはすでに列ができていて、浅野さんと俺も最後尾に並んだ。
 程なくしてやってきた電車は、朝のピーク時間に比べればマシだけど、ぎゅうぎゅうと言って差し支えない程度には混んでいる。
 久しぶりだな、この感じ。
 窮屈で息苦しく、憂鬱に感じる満員電車。
 ……だけど、堂々と目の前の浅野さんとくっつける満員電車。
 そう思うと、少し浮かれた気持ちで電車に足を踏み入れた。

「うわ……」

 久しぶりの満員電車はやはりきつい。まず、入るのに苦労する。
 すでに満員に見える人の波の中に無理やり体をねじ込んで……チラチラ後ろを気にしてくれている浅野さんとはぐれないように、背中にくっついて……。
 なんとか電車に乗り込めて、俺の背後でドアが閉まった。
 ちゃんと浅野さんとはぐれずに乗り込めたな。
 いつもと位置が逆だけど。
 ん?

 あ。

 そうだ。俺の後ろ、今、ドアだ。
 目の前には、半袖シャツをまとった浅野さんの広い背中だ。
 前の会社に勤めていた頃の逆だ!
 これなら、俺から浅野さんを抱きしめて、癒してあげられるかもしれない!
 周囲の人はちょうど俺たちに背中を向けているし、これだけ密集していればその向こうの人には見えないはず……よし!

「……」

 早速、浅野さんに抱き着いた。
 大きい体に包まれる安心感も良いけど、厚みのある体に抱き着くのも、別の安心感と言うか……抱き枕とかぬいぐるみを抱いて寝ると落ち着くみたいなほっとする感じか?
 これも、いいな。

「……!」

 浅野さんの体がピクっと震えて、後ろを向こうとするけど、慌ててぎゅっと強く抱きしめてとめる。
 俺なんかが抱きしめても、支えてあげることはできないけど。
 たまには……

「浅野さん、お疲れ様です」

 背伸びをして、耳元でできるだけ小さな声で囁くと、浅野さんは前を向いたまま少し体の力を抜いた。
 よしよし。
 いつも、浅野さんどうしてくれていたかな……。 

「……ふっ」

 肩の辺りをぽんぽんと労うように叩くと、浅野さんの体の力が更に抜けた気がした。
 いいよな、これ。俺もこれ好き。

「……ん」

 首筋の匂い、嗅いでいいよな? あー……浅野さんの匂いする。
 浅野さんみたいに勃起まではしないけど、結構クるなこれ。
 足ももう少し近づけて……お、この体勢かなり密着できているんじゃないか?
 密着したまま、今度は浅野さんの体を撫でる。
 シャツ越しだけど、浅野さんの男らしい弾力のある体を撫でて……あぁ、これもいいな。後ろから抱き着いているから、浅野さんの顔も体も見えないけど、こうやって撫でていると、浅野さんの存在をすごく感じるし、体の形も感じるし、いい。
 もっと触りたい。お腹、胸の弾力ある筋肉、鎖骨や肋骨のごつごつ、脇腹を通って……太もも。
 そうだ、映画館で撫でられたお返し……。
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