魔王さんのガチペット

回路メグル

文字の大きさ
上 下
295 / 368
番外編3 一番の●●

報告(3)

しおりを挟む
「こっちでは充電……この板を動かす燃料を補給できないから、そろそろいい? まだこれで、しないといけないこともあるし」
「あぁ、ありがとう。もう、充分だ」

 本当はまだまだ、あと何百回だって、オファが帰ってくるまで見せてもらいたいが。

「この板はもうすぐ燃料が切れるし渡せないけど……これはあげる。ずっと持っていていいよ」
「……これは、絵……か?」

 今度はライト様が、掌くらいの大きさの紙を差し出してくれた。
 そこには今にも動き出しそうなオファの絵が描かれていた。
 先ほどのベッドの上で、服装も同じだ。

「観たままの風景を絵にしたようなものかな……まぁ、絵と思っておいて」

 笑顔や、照れた顔、横顔……五枚もある。
 まさか、こんなものがもらえるとは思わなかった。
 ただ単に「調子はこう、いつ帰れる」という報告を聞くだけだと思った。
 ライト様は……お優しい方だと思っていたが、こんな……こんなにも……。

「あぁ……わかった。ありがとう、ライト様。オファの治療の手配だけでなく、オファの心や、私の心にも寄り添ってくださって……なんと礼を言えば良いかわからない……ライト様は、本当にお優しい……!」

 素直に頭を下げたが、ライト様は魔王の首に抱き着きながら首を傾げてしまう。

「んー……引き受けたからには、中途半端にしたくないし……魔王さんに頼まれたことだし」
「え?」
「あ、ラ、ライト!」
「あれ? 言っちゃだめだった?」

 ライト様を膝に乗せたまま、魔王が思い切り慌てて……え?
 そうなのか?
 てっきり、お優しいライト様が、最初に提案されたのかと思っていた。

「魔王、お前……自分からライト様と長期間離れるような提案を……?」
「あ……そ、……まぁ」

 魔王が口ごもってしまうが、ライト様は笑顔で続ける。

「導王様のところから連絡来てすぐ、俺に『ライトの力でなんとか救ってやれないか!?』って聞いてきたよね?」
「……」

 魔王が気まずそうに視線を逸らす。
 
「導王様、俺のこと優しいって言ってくれているのに幻滅させちゃうかもしれないけど、俺は反対したんだよ? 一人をこのやり方で助けたら、今後同じように助けてって言う人が沢山出てくるかもしれない。その人たち全員を異世界に送るのは難しいと思う。だから……一人も送らない方が良いって、俺は言ったんだ」
「……いや、ライト様の言うことは正しい。秩序が保てなくなる」

 私も、自分に関係がなければそう言うと思う。
 おそらく、一番が生きていれば一番も。
 
「でも、魔王さんがね……『導王が、嫌っている俺に頼るなんてよほどのことだ。友だちだから、どうしても助けてやりたい。今後については俺が必ず考える』って」

 魔王……?

「友だち思いの魔王さん、すっごく優しくてかっこよくて素敵だなって思っちゃった! だから俺も頑張らないとね?」
「素敵……と思ってくれたのか?」
「うん。俺、魔王さんのそういう優しいところ大好き」
「あ、そ、そうか……」

 照れた魔王とライト様が目の前で頬にキスをしあってイチャイチャする姿は、腹立たしくも羨ましくもあったが……久しぶりに声を漏らして笑ってしまった。

「ふふっ……そうか……」

 なぁ、一番。遅くなってすまない。
 流石に私も認める。
 国民だけでなく私まで、ここまでしてもらったんだ。認めないといけない。

 無茶をして、周りを巻き込んで、周りがついて来てくれて……そうして奇跡が起こるのだと、自分の国の戦後復興でも身に沁みてはいたが……。

 魔王は、こんなにもアッサリとそれをしてしまうんだな。できてしまうんだな。

 魔王の国の王は……お前よりもお前の大事な弟の方がふさわしいな。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。