334 / 409
番外編3 一番の●●
軋轢(2)
しおりを挟む
「どちらの気持ちも解る」
沈黙を破ったのは、私の隣に座っているエルフの国の森の王だった。
もうすぐ代替わりすると聞いている高齢だがエルフらしいゾっとするような美形の王で、普段はあまり発言しないのだが……エルフは精霊系の魔法を使うので、私たちが魔法石と呼ぶものとは別の魔法石「精霊石」を使う種族だ。この話題に関しては、この場で一番中立と言える。
「それぞれ言い分はあるだろう。しかし、権利は導王の国だ。権利者が断るならこの話は終了。それだけのことだろう?」
「それは……だが、例えば条件を設定するなど……」
魔王は食い下がるが、森の王は肩を竦めた。
「導王、例えば金を好きなだけやるとか、魔法石でも魔導書でも好きなだけやるとか、そんなことを言われても許可は出さないのではないか?」
「あぁ」
「ほら、対話が無駄なこともある。これで話がこじれてまた戦争になると民が泣くだろう?」
「……一度、持ち帰る」
魔王が折れて、この話題は終了となった。
魔王はまだ納得がいっていないようで、その様子に怒りが収まらないが……「味方」と言えるほどでなくても、理解してくれる王がこの場にいたことが嬉しく、その後の会議はなんとかいつも通りこなすことができた。
◆
「森の王、先ほどは助かった」
会議後のパーティーの席で、真っ先に森の王に声をかけた。
この中では珍しくペットを伴わず、いつも一人で黙々と酒を空けている森の王は、ワインのグラスを片手に少し面倒くさそうに呟いた。
「別に。お前はいつも精霊魔法を馬鹿にしないからな。お前の国の技術も尊重すべきと思っている」
そうか……確かに、他の王たちは自分たちの魔力系魔法とは違う精霊魔法を見下しがちだ。
しかし、私は違う。幼いころから魔法に関する正しい知識を身に着け、あらゆる分野に触れて来た。そんな中、自分には扱えない神秘のベールをかぶった精霊魔法は尊敬こそすれ、馬鹿にすることは一度も無かった。いつか詳しく知りたい憧れの魔法だった。
「森の王……! あぁ、精霊魔法は魔力系の魔法とは違った素晴らしい魔法でとても興味がある。もし良ければ、後日魔法に関する会談の場を設けさせてくれないか?」
「……」
森の王は一瞬私の顔を見た後、なぜか私に隠れるように斜め後ろにいるペットのラセイタを一瞥し……ため息を吐いた。
「悪いが、もうすぐ息子に継ぐ。あいつと仲良くしてやってくれ」
「え? あ、あぁ……」
森の王は酒の瓶を持って一番奥のテーブルに行ってしまった。
エルフと仲良くなって精霊魔法の話が聞ければ……そして、誰でも良いからこの針の筵のような王会議の場で、「友だち」と呼べるものができれば……そんな淡い期待は一瞬でかき消された。
「あ、わ、私、何か失礼なことをしましたか?」
私の後ろでラセイタが戸惑った小さな声を上げる。
ラセイタはとても大人しい子で、大人しい子なのに私には慕って、慣れて、自分から近づいてくれるところがかわいい子だ。こういう場所も本当はとても苦手なのに、私のためにいつも頑張ってくれる。
外見もマティオラによく似ていて、でも、マティオラよりは全体的に線が細くて、どこか放っておけない感じもかわいかった。
だが、ラセイタはもう七〇歳を過ぎた。
このパーティー会場の人間で一番高齢なのは誰の目にもあきらかだ。
「いや、大丈夫だ。私の話し方が悪かったんだろう」
ほとんど白くなった頭を撫でてやると、ラセイタはほっとしたように表情を緩めた。
あぁ、かわいい。
心が穏やかになる。
会議中もラセイタが横にいてくれればもう少し落ち着いて発言ができるのに。
沈黙を破ったのは、私の隣に座っているエルフの国の森の王だった。
もうすぐ代替わりすると聞いている高齢だがエルフらしいゾっとするような美形の王で、普段はあまり発言しないのだが……エルフは精霊系の魔法を使うので、私たちが魔法石と呼ぶものとは別の魔法石「精霊石」を使う種族だ。この話題に関しては、この場で一番中立と言える。
「それぞれ言い分はあるだろう。しかし、権利は導王の国だ。権利者が断るならこの話は終了。それだけのことだろう?」
「それは……だが、例えば条件を設定するなど……」
魔王は食い下がるが、森の王は肩を竦めた。
「導王、例えば金を好きなだけやるとか、魔法石でも魔導書でも好きなだけやるとか、そんなことを言われても許可は出さないのではないか?」
「あぁ」
「ほら、対話が無駄なこともある。これで話がこじれてまた戦争になると民が泣くだろう?」
「……一度、持ち帰る」
魔王が折れて、この話題は終了となった。
魔王はまだ納得がいっていないようで、その様子に怒りが収まらないが……「味方」と言えるほどでなくても、理解してくれる王がこの場にいたことが嬉しく、その後の会議はなんとかいつも通りこなすことができた。
◆
「森の王、先ほどは助かった」
会議後のパーティーの席で、真っ先に森の王に声をかけた。
この中では珍しくペットを伴わず、いつも一人で黙々と酒を空けている森の王は、ワインのグラスを片手に少し面倒くさそうに呟いた。
「別に。お前はいつも精霊魔法を馬鹿にしないからな。お前の国の技術も尊重すべきと思っている」
そうか……確かに、他の王たちは自分たちの魔力系魔法とは違う精霊魔法を見下しがちだ。
しかし、私は違う。幼いころから魔法に関する正しい知識を身に着け、あらゆる分野に触れて来た。そんな中、自分には扱えない神秘のベールをかぶった精霊魔法は尊敬こそすれ、馬鹿にすることは一度も無かった。いつか詳しく知りたい憧れの魔法だった。
「森の王……! あぁ、精霊魔法は魔力系の魔法とは違った素晴らしい魔法でとても興味がある。もし良ければ、後日魔法に関する会談の場を設けさせてくれないか?」
「……」
森の王は一瞬私の顔を見た後、なぜか私に隠れるように斜め後ろにいるペットのラセイタを一瞥し……ため息を吐いた。
「悪いが、もうすぐ息子に継ぐ。あいつと仲良くしてやってくれ」
「え? あ、あぁ……」
森の王は酒の瓶を持って一番奥のテーブルに行ってしまった。
エルフと仲良くなって精霊魔法の話が聞ければ……そして、誰でも良いからこの針の筵のような王会議の場で、「友だち」と呼べるものができれば……そんな淡い期待は一瞬でかき消された。
「あ、わ、私、何か失礼なことをしましたか?」
私の後ろでラセイタが戸惑った小さな声を上げる。
ラセイタはとても大人しい子で、大人しい子なのに私には慕って、慣れて、自分から近づいてくれるところがかわいい子だ。こういう場所も本当はとても苦手なのに、私のためにいつも頑張ってくれる。
外見もマティオラによく似ていて、でも、マティオラよりは全体的に線が細くて、どこか放っておけない感じもかわいかった。
だが、ラセイタはもう七〇歳を過ぎた。
このパーティー会場の人間で一番高齢なのは誰の目にもあきらかだ。
「いや、大丈夫だ。私の話し方が悪かったんだろう」
ほとんど白くなった頭を撫でてやると、ラセイタはほっとしたように表情を緩めた。
あぁ、かわいい。
心が穏やかになる。
会議中もラセイタが横にいてくれればもう少し落ち着いて発言ができるのに。
37
お気に入りに追加
3,567
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
転移したら獣人たちに溺愛されました。
なの
BL
本編第一章完結、第二章へと物語は突入いたします。これからも応援よろしくお願いいたします。
気がついたら僕は知らない場所にいた。
両親を亡くし、引き取られた家では虐められていた1人の少年ノアが転移させられたのは、もふもふの耳としっぽがある人型獣人の世界。
この世界は毎日が楽しかった。うさぎ族のお友達もできた。狼獣人の王子様は僕よりも大きくて抱きしめてくれる大きな手はとっても温かくて幸せだ。
可哀想な境遇だったノアがカイルの運命の子として転移され、その仲間たちと溺愛するカイルの甘々ぶりの物語。
知り合った当初は7歳のノアと24歳のカイルの17歳差カップルです。
年齢的なこともあるので、当分R18はない予定です。
初めて書いた異世界の世界です。ノロノロ更新ですが楽しんで読んでいただけるように頑張ります。みなさま応援よろしくお願いいたします。
表紙は@Urenattoさんが描いてくれました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜
かむら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞にて、ジョブ・スキル賞受賞しました!】
身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。
そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。
これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる