魔王さんのガチペット

メグル

文字の大きさ
上 下
328 / 398
番外編3 一番の●●

マティオラ(4)

しおりを挟む
「魔王」
「導王! 」

 ペットを王座の横に立たせた魔王は、私が近づくと立ち上がって迎えてくれた。

「活躍しているそうじゃないか」

 新しく給仕が運んできたワイングラスを私と魔王で合わせると、屈託のない笑顔でそんなことを言ってくれるが……。

「人工魔法石の噂は聞いているぞ。大発明だな? 導王の魔法技術の高さには毎回驚かされるが……今回もとても、とても驚いた。きっと国民は喜んでいるのだろう?」

 喜んでいる?
 国民と一丸になって作ったものだ。
 いや、今日は言葉に噛みついている場合ではない。

「あぁ。お陰で国民からとてもかわいいペットを献上してもらった。ほら、マティオラ。挨拶を」

 私が促すと、マティオラは恭しくローブの裾を持って魔王へ頭を下げた。

「はい。導王様のペットのマティオラです。お会いできて光栄です」

 挨拶も上手だ。
 魔王の威圧感で怯えてしまわないように、城の魔族相手に沢山練習してくれていたものな。

「そうか! 導王もペットを……! とてもかわいい子だ!」

 魔王が屈託のない笑顔を浮かべ、マティオラを観ながら何度も頷く。

「あぁ、とてもかわいい」
「そうだな! 人間はとてもかわいく、癒される存在だよな! うちのニマもとてもかわいいんだ……ほら、ニマ?」

 魔王の横……斜め後ろ辺りに控えめに立っていた、銀色のパーティー用ジャケットを着た金髪の人間が魔王に並んだ。
 前回のパーティーでは他にペットがいなかったから特別に可愛く感じたが、今日は別に……ん?

「初めまして、お会いできて光栄です……」

 ん?
 遠目では気が付かなかったが、このペット……名前は「ニマ」で、美形で、金髪で、背格好も髪型も年頃も、前回の会議の時のペットと同じに見えたが……まだ慣れていないようなぎこちない笑顔を浮かべる顔は……こんな子だったか?
 しかも、今、何と言った?

「初めまして……? 前回のペットとは、別人か?」
「あぁ。そうだ。ペットは三年間契約にしている」
「三年……?」
「常に、一番かわいい姿が見られるし、三年以上も部屋に閉じ込めるのは可哀そうだろう?」

 魔王は、優しくペットの肩を抱き寄せるが……は?
 優しいようで、残酷なことを言っていると思うのは私だけか?
 容姿がかわいいころだけ愛でて、歳をとれば用済みということか?
 しかも、部屋に閉じ込める? 部屋から出してやらないのか?
 まるで囚人ではないか。
 魔王に、こんなにかわいい人間を飼う資格があるように思えない。

「あぁ、マティオラ様が身につけているその魔法石、人工魔法石か? とてもよくできて……」

 私が黙ってしまったので、魔王が話を広げようとしてくれたのだろう。魔王の手がマティオラの首にかかる人工魔法石のネックレスへと手が伸びて……。
 嫌だ。
 人工魔法石にも、マティオラにも、触れられたくない!
 嫌だ!

「触るな!」

 反射的に魔王の手をはたいていた。
 思いのほか大きなパン! という音が大広間に響く。

「あ……」

 しまった。
 やってしまった……。

「あ……あ、あぁ。そうだな。大事なペットに触れるのは、マナー違反だな。悪かった」
「あ、いや、私も……反射的に、すまない」

 魔王は素直に謝ってくれたし、自分でもやりすぎたと後悔した。
 お互いに頭を下げて解決することだった。
 だが……

「気持ちは解るが、やりすぎだろう?」
「ペットより、魔法石を取られると焦ったのではないか? 貧しい国だからな?」
「まぁまぁ、即位して一〇年も経たない若造だ。マナーも、王としての品格も、これからこれから」

 後ろから、私に聞こえるように言っているであろう声が聞こえる。下品な笑い声も。

「導王、すまない。本当に俺が悪かった」

 魔王はまた謝ってくれるが……こいつが謝れば謝るほど、私は悪者になる。

「……っ」

 腹立たしい。
 魔王に? 背後の王たちに?
 いや……不甲斐ない自分に、か……。

「あ、あの!」

 私が何も言えなくなっていると、マティオラが声を上げてくれた。
 震えている。
 声も、私の腕を抱く手も。

「私が、私が……魔族様は、畏れ多く、導王様以外には、まだ、なれ、慣れて……おらずえっと、だから……、失礼をしてしまうかもしれないので……導王様は、お気遣いを……なのです!」
「マティオラ……」

 緊張なのか、畏れなのか、声は震えているし、言葉もたどたどしい。
 人間にとってこんな場所で魔族の……しかも、他国の魔族の王に言葉をかけるなどどれほど怖いことだろう。
 私のために、勇気を振り絞ってくれたのか。
 あぁ……なんて……

 なんて……

「かわい……」
「かわいいいいいいい!」
「かっわいい!!!!」
「か、か、か、かわいい!」

 思わず口からこぼれた言葉に重なって、背後から叫ぶような声が聞こえた。
 
「うわぁ……かわいい……」

 目の前の魔王も、口元を押さえて呆然とマティオラを眺めている。

「え……?」

 マティオラ本人は戸惑いながら周囲や私の顔を見るが……それもまたかわいかった。
 無自覚で、私のためにこんな……。

「マティオラ、ありがとう」
「あ……お役に立てたなら、嬉しいです」

 まだ騒がしい声を聴きながら微笑みかけると、一瞬で安心したような笑顔になってくれるところもかわいかった。
 このかわいいかわいいペットを、誰よりも大切にしようと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

押し付けられたのは年上の未亡人

三ノ宮 みさお
ライト文芸
結婚が王命で決められた、だが相手の女性が自分よりも年上、それだけではない未亡人と知って男は落胆した。 自分には若い恋人がいる、だが平民だ。 悩んだ末、男は妻となった女性に白い結婚をて提案する。 妻となった女性は受け入れ、彼女からもある条件を申し出る。 それは男に取っては好条件の筈だった。

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー
公爵令嬢であるオレリア・アールグレーンは魔力が多く魔法が得意な者が多い公爵家に産まれたが、魔法が一切使えなかった。 そんな中婚約者である第二王子に婚約破棄をされた衝撃で、前世で公爵家を興した伝説の魔法使いだったということを思い出す。 冤罪で国外追放になったけど、もしかしてこれだけ魔法が使えれば楽勝じゃない?

異世界転移したら獣人しかいなくて、レアな人間は溺愛されます。

モト
BL
犬と女の子を助ける為、車の前に飛び出した。あ、死んだ。と思ったけど、目が覚めたら異世界でした。それも、獣人ばかりの世界。人間はとてもレアらしい。 犬の獣人は人間と過ごした前世の記憶を持つ者が多くて、人間だとバレたら(貞操が)ヤバいそうです。 俺、この世界で上手くやっていけるか心配だな。 人間だとバレないように顔を隠して頑張って生きていきます! 総モテですが、一途。(ビッチではないです。)エロは予告なしに入ります。 所々シリアスもありますが、主人公は頑張ります。ご都合主義ごめんなさい。ムーンライトノベルズでも投稿しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編の予定&完結まで書いてから投稿予定でしたがコ⚪︎ナで書ききれませんでした。 苦手なのですが出来るだけ端折って(?)早々に決着というか完結の予定です。 ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

処理中です...