魔王さんのガチペット

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番外編1 ●●が怖い執事長の話

一歩(2)

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「その……世間一般の恋人に限らず、ウオルタが、我慢していたことはないんですか? 本当はコレをしたかった、というような」
「あるが……」

 私に付き合ってもらってばかりでは申し訳ない。
 そんな気持ちもあって言ったことではあるが……

「どうぞ、してみてください」

 私の言葉にウオルタは少しだけ緊張したように口を引き結び……ふぅと一息ついてから私に向き直った。

「……嫌だと思ったらすぐに嫌と言ってくれ」
「はい……ん?」

 ウオルタが、両手で私の体を抱き寄せる。
 これはさっきもした。
 同じでは……?

「ローズウェル……好きだ……」
「!?」

 耳元にウオルタの顔が近づいたなと思うと、息遣いも感じるほどの距離で、熱っぽく囁かれる。

「愛しい……お前のことが、愛しくて仕方がない。ローズウェル……」
「あ……?」

 あれ?
 え?
 同じ、なのに?
 同じように抱きしめられて、ただ、少し耳元で囁かれているだけなのに?
 同じ「抱きしめる」なのに、なんで安心しないんだ?
 なんで、心臓がバクバクするんだ?

「はぁ……ずっと、口に出したかった。愛している……お前が今、腕の中にいてくれて幸せだ。大好きだ……ローズウェル……ローズウェル!」
「んっ」

 腕の力が強くなって、体の距離も近くなって、ウオルタの唇が耳たぶ、こめかみ、頬へと順番に触れていく。
 あれ?
 キスも、なんか……?
 いつも、何とも思わないのに。嬉しいとも嫌とも思わない、ただ触れたなと思うだけなのに。
 今日は、触れるたびに体が跳ねる。

「ローズウェル……」
「!?」

 唇に触れるか触れないか、ギリギリ、際どい部分にウオルタの唇が当たる。
 唇は……粘膜同士が近くなる唇へのキスは……昔の眷属化にもつながる、信頼の必要な行為で……かなり深い関係に無いとしないことで……でも……だが……

「キス、嫌じゃないんだな」

 体は竦むが、頷いた。

「唇に……してもいいか?」

 ウオルタの顔が近すぎて、表情はよく解らない。
 でも、もうギリギリの距離で……こんなに近づいているのに、きちんと尋ねてくれるのが嬉しくて……小さく頷いた。

「っ……! ローズウェル……愛してる。ローズウェル……んっ」
「ん、っ!」

 唇同士が触れた。
 鍛えた硬い筋肉で覆われた体なのに、唇は柔らかい。

「……」
「……」

 触れるだけ。
 唇同士が触れるだけで、口内にも、舌にもまだ触れない。
 一瞬ビックリしたけど……うん。怖くはない。
 粘膜に近い場所は、昔の眷属化の名残もあって本能的に怖いはずなのに……。

「はぁ……」

 しばらくして、唇が離れた。
 腕の力も緩む。
 ずっとドキドキしていた心臓がこれで……

「夢のようだった」

 あ。
 ウオルタの、初めて観るような深い深い蕩けそうな笑顔に……心臓がまた高鳴った。

「唇、嫌ではなかったか? 大丈夫か?」

 笑顔はすぐに心配そうな顔に変わってしまった。
 これはこれで優しくて嬉しいはずなのに。

「唇が触れるのは……嫌ではないけど、よく解らなくて……」
「あぁ」

 ウオルタは神妙な顔で頷いてくれる。
 真剣に向き合ってくれて嬉しい。
 でも、その顔も違う……。

「でも……唇が触れた後にウオルタが嬉しそうに笑ってくれたのが……とてもいいなと……おもい……ました」
「……!?」
「どうしたら、その顔をもっと見られるのかは興味があって……」
「っ! あ、あぁ……」

 ウオルタは笑顔だけど、驚きが半分混ざったような笑顔で、それもいいけど、それではなくて……でも……今日はもう……。

「でも、あの……ごめんなさい! 今日は、もう頭がいっぱいで、無理です!」
「あぁ! 大丈夫! 大丈夫だ!」

 ウオルタの手が、あやすように私の背中を撫でる。
 私の方が年上なのに情けない。
 だが……この手も心地いい。

「焦らない! 焦らないから! ……焦らないから……ゆっくり、毎日少しずつ進もう」
「……はい」

 よかった。
 これ以上は心臓がつぶれそうだ。
 臆病で慣れていない私のペースに合わせてくれるウオルタが本当にありがたい。

 しかし……
 ゆっくりとは言っても、私の経験や知識が乏しいからだろうか……?

 ここから、これ以上に、恋人同士ですることなんてもうあまりないのでは……?

 すぐに、セックス……なのでは……?


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