魔王さんのガチペット

メグル

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番外編1 ●●が怖い執事長の話

恋心(1)

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「話があります」
「どうした?」

 ライト様に相談した日の夕食後。
 お互いリラックスした部屋着のシャツとズボン姿で、食後のお茶が乗ったダイニングテーブルに向かい合って座ったままで……だが、背筋は伸ばして話を切り出した。

「ライト様が専属化されましたよね?」
「あぁ。これからもずっと魔王様のお側でかわいく支えてくださるようで安心だ」
「えぇ。とてもかわいらしいライト様が常に魔王様のお側にいる……そのお陰で、私のかわいさが霞んでとても生きやすくなりそうです」
「ローズウェルの容姿が霞むようなことはないが……生きやすいというなら良かった」

 ウオルタは自分のことのように笑顔で喜んでくれる。
 いつもなら「優しい男だな」と思うが、今日は……胸をぎゅっと掴まれるような気がした。

「……実際、この三年、とても生きやすいんです」
「そうか。それは良かった」

 また笑顔で頷いてくれたウオルタに、やはり胸がぎゅっとなるが……いや、そうなるからこそ、言わないといけない。

「なので……ウオルタ、もう、無理に恋人のフリをしなくてもいいですよ?」
「へ?」
「嘘をつくのは苦手でしょう?」
「あ……いや……その……」

 ウオルタが呆けて、焦って……

「っ……」

 何か言いかけて……上手く言葉にならないのか、口をつぐんだ。

「……」

 仕事中は常に厳しい顔をしているウオルタが、泣きそうな顔になる。
 あぁ……そうか。
 やはり、そうなんだ……。

「ウオルタ……助けてくれて、ありがとう」
「別に、一番様に……頼まれたから」
「でも、先に一番様に頼んでくれたのはウオルタですよね?」
「なっ!?」

 声を詰まらせるウオルタのことをじっと見つめていると、しばらくしてウオルタの震える声が聞こえた。

「なぜ……いや、これを知っているのは……」
「今日、偶然話の流れで……魔王様からお聞きしました」
「どこまで……聞いた?」
「あの騎士見習いの兵士とあなたが同期で、私とのことを知ったと。一番様と二番様にお願いしてくださったと。そして……当時、私のことが……好きだったと」
「……」

 ウオルタの顔が、青くなって、白くなって、赤くなって……最終的には頭を抱えて項垂れてしまった。

「ウオルタ……なぜ、黙っていたんですか?」

 項垂れたウオルタに声をかけると、か細い声で返事が返ってきた。

「恩着せがましいことはしたくなかった。それに……」

 あぁ、また声が震えている。

「好きなのは当時だけじゃない。今もだ。ずっとだ。だから……ローズウェルが、愛されることを怖がっているのは解っていたから……愛していると言ってしまうと、怖がられてしまって、側に……いられなくなると思って……」

 ここまで言った後、ウオルタがぐっと息を飲むのが解った。

「すまない!」

 ウオルタが勢いよく顔を上げる。
 ……三〇〇年以上前、手当をしてやった日を彷彿とさせる、泣き顔だった。

「ずっと、だましていた! お前のことが好きなのに。護るなんて言って、親友なんて嘘で、側にいる権利を得て……ずるいことをした! すまない! 本当に……すまない!」

 本当に優しい。
 いや、これは優しさと言うより……私への、愛か。

「ウオルタ、なんで謝るんですか? 今まで三〇〇年もの間、私のために……私が怖がらないように、恋心を隠してまで私を助けてくれていたこと、感謝しかありません」
「ローズウェル……」

 椅子から立ち上がってウオルタのそばまで行くと、床に跪きながら視線を合わせた。

「ありがとうございます。感謝しています。ウオルタ」

 ウオルタの顔が、ようやく少しほっとしたのが解った。
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