261 / 409
番外編1 ●●が怖い執事長の話
恋心(1)
しおりを挟む
「話があります」
「どうした?」
ライト様に相談した日の夕食後。
お互いリラックスした部屋着のシャツとズボン姿で、食後のお茶が乗ったダイニングテーブルに向かい合って座ったままで……だが、背筋は伸ばして話を切り出した。
「ライト様が専属化されましたよね?」
「あぁ。これからもずっと魔王様のお側でかわいく支えてくださるようで安心だ」
「えぇ。とてもかわいらしいライト様が常に魔王様のお側にいる……そのお陰で、私のかわいさが霞んでとても生きやすくなりそうです」
「ローズウェルの容姿が霞むようなことはないが……生きやすいというなら良かった」
ウオルタは自分のことのように笑顔で喜んでくれる。
いつもなら「優しい男だな」と思うが、今日は……胸をぎゅっと掴まれるような気がした。
「……実際、この三年、とても生きやすいんです」
「そうか。それは良かった」
また笑顔で頷いてくれたウオルタに、やはり胸がぎゅっとなるが……いや、そうなるからこそ、言わないといけない。
「なので……ウオルタ、もう、無理に恋人のフリをしなくてもいいですよ?」
「へ?」
「嘘をつくのは苦手でしょう?」
「あ……いや……その……」
ウオルタが呆けて、焦って……
「っ……」
何か言いかけて……上手く言葉にならないのか、口をつぐんだ。
「……」
仕事中は常に厳しい顔をしているウオルタが、泣きそうな顔になる。
あぁ……そうか。
やはり、そうなんだ……。
「ウオルタ……助けてくれて、ありがとう」
「別に、一番様に……頼まれたから」
「でも、先に一番様に頼んでくれたのはウオルタですよね?」
「なっ!?」
声を詰まらせるウオルタのことをじっと見つめていると、しばらくしてウオルタの震える声が聞こえた。
「なぜ……いや、これを知っているのは……」
「今日、偶然話の流れで……魔王様からお聞きしました」
「どこまで……聞いた?」
「あの騎士見習いの兵士とあなたが同期で、私とのことを知ったと。一番様と二番様にお願いしてくださったと。そして……当時、私のことが……好きだったと」
「……」
ウオルタの顔が、青くなって、白くなって、赤くなって……最終的には頭を抱えて項垂れてしまった。
「ウオルタ……なぜ、黙っていたんですか?」
項垂れたウオルタに声をかけると、か細い声で返事が返ってきた。
「恩着せがましいことはしたくなかった。それに……」
あぁ、また声が震えている。
「好きなのは当時だけじゃない。今もだ。ずっとだ。だから……ローズウェルが、愛されることを怖がっているのは解っていたから……愛していると言ってしまうと、怖がられてしまって、側に……いられなくなると思って……」
ここまで言った後、ウオルタがぐっと息を飲むのが解った。
「すまない!」
ウオルタが勢いよく顔を上げる。
……三〇〇年以上前、手当をしてやった日を彷彿とさせる、泣き顔だった。
「ずっと、だましていた! お前のことが好きなのに。護るなんて言って、親友なんて嘘で、側にいる権利を得て……ずるいことをした! すまない! 本当に……すまない!」
本当に優しい。
いや、これは優しさと言うより……私への、愛か。
「ウオルタ、なんで謝るんですか? 今まで三〇〇年もの間、私のために……私が怖がらないように、恋心を隠してまで私を助けてくれていたこと、感謝しかありません」
「ローズウェル……」
椅子から立ち上がってウオルタのそばまで行くと、床に跪きながら視線を合わせた。
「ありがとうございます。感謝しています。ウオルタ」
ウオルタの顔が、ようやく少しほっとしたのが解った。
「どうした?」
ライト様に相談した日の夕食後。
お互いリラックスした部屋着のシャツとズボン姿で、食後のお茶が乗ったダイニングテーブルに向かい合って座ったままで……だが、背筋は伸ばして話を切り出した。
「ライト様が専属化されましたよね?」
「あぁ。これからもずっと魔王様のお側でかわいく支えてくださるようで安心だ」
「えぇ。とてもかわいらしいライト様が常に魔王様のお側にいる……そのお陰で、私のかわいさが霞んでとても生きやすくなりそうです」
「ローズウェルの容姿が霞むようなことはないが……生きやすいというなら良かった」
ウオルタは自分のことのように笑顔で喜んでくれる。
いつもなら「優しい男だな」と思うが、今日は……胸をぎゅっと掴まれるような気がした。
「……実際、この三年、とても生きやすいんです」
「そうか。それは良かった」
また笑顔で頷いてくれたウオルタに、やはり胸がぎゅっとなるが……いや、そうなるからこそ、言わないといけない。
「なので……ウオルタ、もう、無理に恋人のフリをしなくてもいいですよ?」
「へ?」
「嘘をつくのは苦手でしょう?」
「あ……いや……その……」
ウオルタが呆けて、焦って……
「っ……」
何か言いかけて……上手く言葉にならないのか、口をつぐんだ。
「……」
仕事中は常に厳しい顔をしているウオルタが、泣きそうな顔になる。
あぁ……そうか。
やはり、そうなんだ……。
「ウオルタ……助けてくれて、ありがとう」
「別に、一番様に……頼まれたから」
「でも、先に一番様に頼んでくれたのはウオルタですよね?」
「なっ!?」
声を詰まらせるウオルタのことをじっと見つめていると、しばらくしてウオルタの震える声が聞こえた。
「なぜ……いや、これを知っているのは……」
「今日、偶然話の流れで……魔王様からお聞きしました」
「どこまで……聞いた?」
「あの騎士見習いの兵士とあなたが同期で、私とのことを知ったと。一番様と二番様にお願いしてくださったと。そして……当時、私のことが……好きだったと」
「……」
ウオルタの顔が、青くなって、白くなって、赤くなって……最終的には頭を抱えて項垂れてしまった。
「ウオルタ……なぜ、黙っていたんですか?」
項垂れたウオルタに声をかけると、か細い声で返事が返ってきた。
「恩着せがましいことはしたくなかった。それに……」
あぁ、また声が震えている。
「好きなのは当時だけじゃない。今もだ。ずっとだ。だから……ローズウェルが、愛されることを怖がっているのは解っていたから……愛していると言ってしまうと、怖がられてしまって、側に……いられなくなると思って……」
ここまで言った後、ウオルタがぐっと息を飲むのが解った。
「すまない!」
ウオルタが勢いよく顔を上げる。
……三〇〇年以上前、手当をしてやった日を彷彿とさせる、泣き顔だった。
「ずっと、だましていた! お前のことが好きなのに。護るなんて言って、親友なんて嘘で、側にいる権利を得て……ずるいことをした! すまない! 本当に……すまない!」
本当に優しい。
いや、これは優しさと言うより……私への、愛か。
「ウオルタ、なんで謝るんですか? 今まで三〇〇年もの間、私のために……私が怖がらないように、恋心を隠してまで私を助けてくれていたこと、感謝しかありません」
「ローズウェル……」
椅子から立ち上がってウオルタのそばまで行くと、床に跪きながら視線を合わせた。
「ありがとうございます。感謝しています。ウオルタ」
ウオルタの顔が、ようやく少しほっとしたのが解った。
148
お気に入りに追加
3,567
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
転移したら獣人たちに溺愛されました。
なの
BL
本編第一章完結、第二章へと物語は突入いたします。これからも応援よろしくお願いいたします。
気がついたら僕は知らない場所にいた。
両親を亡くし、引き取られた家では虐められていた1人の少年ノアが転移させられたのは、もふもふの耳としっぽがある人型獣人の世界。
この世界は毎日が楽しかった。うさぎ族のお友達もできた。狼獣人の王子様は僕よりも大きくて抱きしめてくれる大きな手はとっても温かくて幸せだ。
可哀想な境遇だったノアがカイルの運命の子として転移され、その仲間たちと溺愛するカイルの甘々ぶりの物語。
知り合った当初は7歳のノアと24歳のカイルの17歳差カップルです。
年齢的なこともあるので、当分R18はない予定です。
初めて書いた異世界の世界です。ノロノロ更新ですが楽しんで読んでいただけるように頑張ります。みなさま応援よろしくお願いいたします。
表紙は@Urenattoさんが描いてくれました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ひとりじめ
たがわリウ
BL
平凡な会社員の早川は、狼の獣人である部長と特別な関係にあった。
獣人と人間が共に働き、特別な関係を持つ制度がある会社に勤める早川は、ある日、同僚の獣人に迫られる。それを助けてくれたのは社員から尊敬されている部長、ゼンだった。
自分の匂いが移れば他の獣人に迫られることはないと言う部長は、ある提案を早川に持ちかける。その提案を受け入れた早川は、部長の部屋に通う特別な関係となり──。
体の関係から始まったふたりがお互いに独占欲を抱き、恋人になる話です。
狼獣人(上司)×人間(部下)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる