魔王さんのガチペット

メグル

文字の大きさ
上 下
248 / 409
番外編1 ●●が怖い執事長の話

住み家

しおりを挟む
「そろそろ、この部屋も引き払わないといけなくなった」

 週に二度ほど騎士寮に通って三〇年。
 この間に、ウオルタは騎士団をなんとか形にした。
 まだまだ先代の騎士団に比べれば頼りないが、最低限の実力を持った騎士が最低限の人数はそろった。
 ここに来るまでほぼ休みなく騎士団に尽くし、自らの鍛錬も人一倍行って来た姿を見ているので、友人として素直に嬉しい。
 ただ、騎士団の人数が増えたということは、寮の部屋も埋まってきたということだ。
 それに、騎士団長がいつまでも寮住まいというのも体裁が悪い。
 先代の団長であるウオルタの祖父、副団長であるウオルタの父は、城から歩いて一〇分ほどの位置にある家に住んでいたはずだ。

「……父が住んでいた家に移ろうと思っている。俺の生家でもあるが、父方の親戚が戦争で皆亡くなってからは、母は母方の家で暮らしているので、知り合いに貸していたのだが……仕事の都合で別の街に移ったので、先々月から空き家になっているんだ」
「首都の一軒家が空き家に? それはもったいない。すぐにでも移るべきですよ!」

 私が持ち込んだワインの入ったグラスを傾けながら言うと、ウオルタは「そうだよな……」と少し歯切れの悪い返事をする。
 何が引っかかっているのか。
 この国の首都に住むことは、あまりに人気が高くて難しいのに。
 しかも狭いアパートの一室ではなく、一軒家! 全国民の憧れだ。郊外の広い屋敷より少しでも魔王様の城に近い場所が人気なのだから。

「ローズウェルが、通いにくいだろう?」
「え? えぇまぁ……でも、徒歩一〇分くらいでしょう?」
「ローズウェルの住む寮から城門まで一〇分近くかかる。そこから一〇分……夜中にローズウェルを歩かせるなんて心配だ。俺が毎回送り迎えをできればよいのだが」
「さすがにそこまでは……特に城の敷地内はいくら夜といっても安全ですよ」
「多忙なローズウェルを往復四〇分も歩かせるなんて……」

 そこまで言ったところで、ウオルタはうなだれていた顔を上げた。

「ア、ソウダ」

 妙に棒読みだな……。

「一軒家で一人暮らしは持て余してしまう。ローズウェルも一緒に住まないか?」
「一緒に?」
「あぁ」

 この時私は、「ウオルタと一緒に住む」ということよりも……

「首都の……一軒家に住める……?」

 以前ウオルタに「ここが生家だ」と教えてもらったレンガ造りで三階建ての四角い家のことで頭がいっぱいだった。
 だって仕方がないだろう?
 田舎の平民出身の私にとって、首都の一軒家がどれほどの憧れだったか……!

「大きくはないが、個室は四つある。きちんとプライベート空間は持てる」
「……」

 執事の私がこのまま出世して執事長になれたとしても、騎士団長よりはかなり位が低い。
 給料も……一般魔族の平均よりははるかにたくさんいただけるが、首都の一軒家はまぁまず空きが出ないし、出たら大富豪しか買えないような値段がつく。
 ほとんどを由緒正しい家系か、超大富豪がすでに押さえているから。
 寮を出るとしても、集合住宅の一室を借りることになるだろう。

「家事は、どうせ自分の分をするから、ローズウェルの分もついでにしてやれるし、忙しい時期はメイドを雇っても良い。家賃も、年間の所有権料程度だし、一人で住むのも二人で住むのも同じだから払わなくていい」
「そんなのいけません! 憧れの家に住まわせてもらえるだけでありがたいのに! 家事は私もするし、国に払う所有権料の半分を払わせてもらいますから!」
「あ……いいのか?」
「もちろんですよ。二人で暮らすのに片方だけが家事をするなんておかしいでしょう? それに、所有権料は、今の寮費程度ではないですか?」
「いや、家事と言うか……一緒に、住んでくれるのか?」
「え? えぇ。願ってもない話です。よろしくお願いします」 

 ウオルタが一瞬驚いた後、ゆっくりと、子どものような満面の笑みになっていく。

「あぁ! よろしく、よろしくな! ローズウェル!」
「……?」

 よろしく、というのは私の方なのに。
 恋人のフリをしてくれることになった時もそうだ。
 
 もしかしてウオルタは……
 
「はぁ……家に帰ったらローズウェルがいる生活か……!」

 ウオルタは、思いのほか寂しがり屋なのかもしれない。
 家族、親族を一度にたくさん亡くしたんだものな……。
 
 折角住まわせてもらうんだ、ウオルタが寂しく感じないようになるべく家にいよう。
 そして、友人とのルームシェアを楽しもう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

ほんわりゲームしてます I

仲村 嘉高
ファンタジー
※本作は、長編の為に分割された1話〜505話側になります。(許可済)  506話以降を読みたい方は、アプリなら作者名から登録作品へ、Webの場合は画面下へスクロールするとある……はず? ─────────────── 友人達に誘われて最先端のVRMMOの世界へ! 「好きな事して良いよ」 友人からの説明はそれだけ。 じゃあ、お言葉に甘えて好きな事して過ごしますか! そんなお話。 倒さなきゃいけない魔王もいないし、勿論デスゲームでもない。 恋愛シミュレーションでもないからフラグも立たない。 のんびりまったりと、ゲームしているだけのお話です。 R15は保険です。 下ネタがたまに入ります。 BLではありません。 ※作者が「こんなのやりたいな〜」位の軽い気持ちで書いてます。 着地点(最終回)とか、全然決めてません。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

俺の伴侶はどこにいる〜ゼロから始める領地改革 家臣なしとか意味分からん〜

琴音
BL
俺はなんでも適当にこなせる器用貧乏なために、逆に何にも打ち込めず二十歳になった。成人後五年、その間に番も見つけられずとうとう父上静かにぶちギレ。ならばと城にいても楽しくないし?番はほっとくと適当にの未来しかない。そんな時に勝手に見合いをぶち込まれ、逃げた。が、間抜けな俺は騎獣から落ちたようで自分から城に帰還状態。 ならば兄弟は優秀、俺次男!未開の地と化した領地を復活させてみようじゃないか!やる気になったはいいが……… ゆるゆる〜の未来の大陸南の猫族の小国のお話です。全く別の話でエリオスが領地開発に奮闘します。世界も先に進み状況の変化も。番も探しつつ…… 世界はドナシアン王国建国より百年以上過ぎ、大陸はイアサント王国がまったりと支配する世界になっている。どの国もこの大陸の気質に合った獣人らしい生き方が出来る優しい世界で北から南の行き来も楽に出来る。農民すら才覚さえあれば商人にもなれるのだ。 気候は温暖で最南以外は砂漠もなく、過ごしやすく農家には適している。そして、この百年で獣人でも魅力を持つようになる。エリオス世代は魔力があるのが当たり前に過ごしている。 そんな世界に住むエリオスはどうやって領地を自分好みに開拓出来るのか。 ※この物語だけで楽しめるようになっています。よろしくお願いします。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

処理中です...