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番外編1 ●●が怖い執事長の話
住み家
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「そろそろ、この部屋も引き払わないといけなくなった」
週に二度ほど騎士寮に通って三〇年。
この間に、ウオルタは騎士団をなんとか形にした。
まだまだ先代の騎士団に比べれば頼りないが、最低限の実力を持った騎士が最低限の人数はそろった。
ここに来るまでほぼ休みなく騎士団に尽くし、自らの鍛錬も人一倍行って来た姿を見ているので、友人として素直に嬉しい。
ただ、騎士団の人数が増えたということは、寮の部屋も埋まってきたということだ。
それに、騎士団長がいつまでも寮住まいというのも体裁が悪い。
先代の団長であるウオルタの祖父、副団長であるウオルタの父は、城から歩いて一〇分ほどの位置にある家に住んでいたはずだ。
「……父が住んでいた家に移ろうと思っている。俺の生家でもあるが、父方の親戚が戦争で皆亡くなってからは、母は母方の家で暮らしているので、知り合いに貸していたのだが……仕事の都合で別の街に移ったので、先々月から空き家になっているんだ」
「首都の一軒家が空き家に? それはもったいない。すぐにでも移るべきですよ!」
私が持ち込んだワインの入ったグラスを傾けながら言うと、ウオルタは「そうだよな……」と少し歯切れの悪い返事をする。
何が引っかかっているのか。
この国の首都に住むことは、あまりに人気が高くて難しいのに。
しかも狭いアパートの一室ではなく、一軒家! 全国民の憧れだ。郊外の広い屋敷より少しでも魔王様の城に近い場所が人気なのだから。
「ローズウェルが、通いにくいだろう?」
「え? えぇまぁ……でも、徒歩一〇分くらいでしょう?」
「ローズウェルの住む寮から城門まで一〇分近くかかる。そこから一〇分……夜中にローズウェルを歩かせるなんて心配だ。俺が毎回送り迎えをできればよいのだが」
「さすがにそこまでは……特に城の敷地内はいくら夜といっても安全ですよ」
「多忙なローズウェルを往復四〇分も歩かせるなんて……」
そこまで言ったところで、ウオルタはうなだれていた顔を上げた。
「ア、ソウダ」
妙に棒読みだな……。
「一軒家で一人暮らしは持て余してしまう。ローズウェルも一緒に住まないか?」
「一緒に?」
「あぁ」
この時私は、「ウオルタと一緒に住む」ということよりも……
「首都の……一軒家に住める……?」
以前ウオルタに「ここが生家だ」と教えてもらったレンガ造りで三階建ての四角い家のことで頭がいっぱいだった。
だって仕方がないだろう?
田舎の平民出身の私にとって、首都の一軒家がどれほどの憧れだったか……!
「大きくはないが、個室は四つある。きちんとプライベート空間は持てる」
「……」
執事の私がこのまま出世して執事長になれたとしても、騎士団長よりはかなり位が低い。
給料も……一般魔族の平均よりははるかにたくさんいただけるが、首都の一軒家はまぁまず空きが出ないし、出たら大富豪しか買えないような値段がつく。
ほとんどを由緒正しい家系か、超大富豪がすでに押さえているから。
寮を出るとしても、集合住宅の一室を借りることになるだろう。
「家事は、どうせ自分の分をするから、ローズウェルの分もついでにしてやれるし、忙しい時期はメイドを雇っても良い。家賃も、年間の所有権料程度だし、一人で住むのも二人で住むのも同じだから払わなくていい」
「そんなのいけません! 憧れの家に住まわせてもらえるだけでありがたいのに! 家事は私もするし、国に払う所有権料の半分を払わせてもらいますから!」
「あ……いいのか?」
「もちろんですよ。二人で暮らすのに片方だけが家事をするなんておかしいでしょう? それに、所有権料は、今の寮費程度ではないですか?」
「いや、家事と言うか……一緒に、住んでくれるのか?」
「え? えぇ。願ってもない話です。よろしくお願いします」
ウオルタが一瞬驚いた後、ゆっくりと、子どものような満面の笑みになっていく。
「あぁ! よろしく、よろしくな! ローズウェル!」
「……?」
よろしく、というのは私の方なのに。
恋人のフリをしてくれることになった時もそうだ。
もしかしてウオルタは……
「はぁ……家に帰ったらローズウェルがいる生活か……!」
ウオルタは、思いのほか寂しがり屋なのかもしれない。
家族、親族を一度にたくさん亡くしたんだものな……。
折角住まわせてもらうんだ、ウオルタが寂しく感じないようになるべく家にいよう。
そして、友人とのルームシェアを楽しもう。
週に二度ほど騎士寮に通って三〇年。
この間に、ウオルタは騎士団をなんとか形にした。
まだまだ先代の騎士団に比べれば頼りないが、最低限の実力を持った騎士が最低限の人数はそろった。
ここに来るまでほぼ休みなく騎士団に尽くし、自らの鍛錬も人一倍行って来た姿を見ているので、友人として素直に嬉しい。
ただ、騎士団の人数が増えたということは、寮の部屋も埋まってきたということだ。
それに、騎士団長がいつまでも寮住まいというのも体裁が悪い。
先代の団長であるウオルタの祖父、副団長であるウオルタの父は、城から歩いて一〇分ほどの位置にある家に住んでいたはずだ。
「……父が住んでいた家に移ろうと思っている。俺の生家でもあるが、父方の親戚が戦争で皆亡くなってからは、母は母方の家で暮らしているので、知り合いに貸していたのだが……仕事の都合で別の街に移ったので、先々月から空き家になっているんだ」
「首都の一軒家が空き家に? それはもったいない。すぐにでも移るべきですよ!」
私が持ち込んだワインの入ったグラスを傾けながら言うと、ウオルタは「そうだよな……」と少し歯切れの悪い返事をする。
何が引っかかっているのか。
この国の首都に住むことは、あまりに人気が高くて難しいのに。
しかも狭いアパートの一室ではなく、一軒家! 全国民の憧れだ。郊外の広い屋敷より少しでも魔王様の城に近い場所が人気なのだから。
「ローズウェルが、通いにくいだろう?」
「え? えぇまぁ……でも、徒歩一〇分くらいでしょう?」
「ローズウェルの住む寮から城門まで一〇分近くかかる。そこから一〇分……夜中にローズウェルを歩かせるなんて心配だ。俺が毎回送り迎えをできればよいのだが」
「さすがにそこまでは……特に城の敷地内はいくら夜といっても安全ですよ」
「多忙なローズウェルを往復四〇分も歩かせるなんて……」
そこまで言ったところで、ウオルタはうなだれていた顔を上げた。
「ア、ソウダ」
妙に棒読みだな……。
「一軒家で一人暮らしは持て余してしまう。ローズウェルも一緒に住まないか?」
「一緒に?」
「あぁ」
この時私は、「ウオルタと一緒に住む」ということよりも……
「首都の……一軒家に住める……?」
以前ウオルタに「ここが生家だ」と教えてもらったレンガ造りで三階建ての四角い家のことで頭がいっぱいだった。
だって仕方がないだろう?
田舎の平民出身の私にとって、首都の一軒家がどれほどの憧れだったか……!
「大きくはないが、個室は四つある。きちんとプライベート空間は持てる」
「……」
執事の私がこのまま出世して執事長になれたとしても、騎士団長よりはかなり位が低い。
給料も……一般魔族の平均よりははるかにたくさんいただけるが、首都の一軒家はまぁまず空きが出ないし、出たら大富豪しか買えないような値段がつく。
ほとんどを由緒正しい家系か、超大富豪がすでに押さえているから。
寮を出るとしても、集合住宅の一室を借りることになるだろう。
「家事は、どうせ自分の分をするから、ローズウェルの分もついでにしてやれるし、忙しい時期はメイドを雇っても良い。家賃も、年間の所有権料程度だし、一人で住むのも二人で住むのも同じだから払わなくていい」
「そんなのいけません! 憧れの家に住まわせてもらえるだけでありがたいのに! 家事は私もするし、国に払う所有権料の半分を払わせてもらいますから!」
「あ……いいのか?」
「もちろんですよ。二人で暮らすのに片方だけが家事をするなんておかしいでしょう? それに、所有権料は、今の寮費程度ではないですか?」
「いや、家事と言うか……一緒に、住んでくれるのか?」
「え? えぇ。願ってもない話です。よろしくお願いします」
ウオルタが一瞬驚いた後、ゆっくりと、子どものような満面の笑みになっていく。
「あぁ! よろしく、よろしくな! ローズウェル!」
「……?」
よろしく、というのは私の方なのに。
恋人のフリをしてくれることになった時もそうだ。
もしかしてウオルタは……
「はぁ……家に帰ったらローズウェルがいる生活か……!」
ウオルタは、思いのほか寂しがり屋なのかもしれない。
家族、親族を一度にたくさん亡くしたんだものな……。
折角住まわせてもらうんだ、ウオルタが寂しく感じないようになるべく家にいよう。
そして、友人とのルームシェアを楽しもう。
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