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番外編1 ●●が怖い執事長の話
遺言(1)
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その後、一番様の死を無駄にするなと、最後にかけてくれた魔法の効果が続くうちにと、陣形の崩れた敵に必死の形相で挑んだ兵士たちが、大型兵器を全て破壊した。
戦局は、一気にこちらに傾いた。
すぐに勝利できたわけではないし、その後も多くの負傷者や戦死者が出た。
それでも……
勝った。
敵国の人口を四分の三に減らしたところで、敵国の長である導王が降伏し、わが陣営が勝利した。
導王は国際法で裁かれ、国としても国外地の魔法石採掘権のはく奪や、今後一〇〇年かけて罰金を徴収することなど、多くの制裁が決定した。
これで我が国にも平和が訪れる。
それは間違いない。
だが……
失ったものは、あまりに大きかった。
◆
一番様の死は、悲しくはあっても、ショックではなかった。
最後まで立派で、最後まで一番様らしくて、この国を、民を、未来を護った意味のある死だった。
意味のある死なら肯定すべきと言うことではないが……。
意味のあることで、素晴らしい方だったと思わないと、一番様が折角自分の命を懸けてまで成し遂げた素晴らしい功績がかすんでしまう。
ドライと言われるかもしれないが、死を悼むより称えることの方が、一番様は喜ばれるのではないかと思った。
悲しいが、誇らしい。
しかも、私だけではなかった。
国民全体が一番様を「魔王の国を勝利に導いた英雄」と讃えていた。
国民全員で悲しみ、国民全員でこの平和が続く限り一番様への感謝を続けようと。
戦争の勝利に加えて、国全体が「一番様に生かして頂いた命を大事にしよう」「一番様に頂いた平和や国を護ろう」と、しっかりと胸に刻んで前に進んで行けた。
一番様は亡くなってもなお、国民を導く素晴らしい次期魔王候補様だった。
ただ……とても個人的な、大きな功績の前でこんな小さなことを持ち出すなんて、恥ずかしいほど自分本位すぎることではあるが……困ることが一つあった。
勝利の高揚感と、戦後の復興で落ち着かない国内で……私を護ってくれる人がいなくなってしまったことだ。
平和になったのだから夜這いも無いだろうと思っていたが、「元性処理係」は、一番様亡き今、下世話な視線を浴びることになった。「元一番様の性処理係を自分のものにできれば箔がつく」なんて輩もいる。
恥を忍んで二番様に助けを乞おうかと一瞬思ったが、終戦とほぼ同時に力を無くされた魔王様に代わって、二番様は「魔王」となられた。
今まで魔王様、一番様、二番様で行っていたすべての執務に加えて、戦後復興という大仕事をお一人でこなさなくてはならない。
そんな方を頼るわけにはいかない。
むしろ、私がお支えすべきだ。
そうこうしているうちに、新しい魔王様に人間のペット「ニマ様」が献上され、ニマ様のかわいらしさは日々の忙しさの癒し……そして、一番様を失った傷の癒しになっているように見えた。
これはもう、私が助けを求めに入り込む隙間は無い。
どうしたものか。
あの頃のように、切羽詰まって求めてくるわけではないので、抵抗もするし無視もするし、自衛はある程度できるのだが……中には姑息な奴もいる。
◆
城に納品される物資のとりまとめも執事の仕事だ。
そのため、多くの業者と顔を合わせるし、納品に関する交渉もする。
今日の交渉相手は……
「よぉ、ローズウェル」
「お久しぶりです、会長」
城の門をくぐったところで頑丈な金属張りの馬車を降りて来た武器商会の会長は、以前は傭兵だったらしく筋骨隆々でよく日に焼けた顔、ベージュの短髪に大きな鹿角が印象的な男だ。
現役の兵士並の体つきだな……ベージュのジャケットが筋肉で窮屈そうだ。
「戦争が終わったら武器の需要が減るかと思ったが……新しい魔王様も騎士団長様も、先を見据えた慎重な方で、武器商人として……いや、国民として頼もしい限りだ」
今日は、壊滅した騎士団の立て直しのために、戦争で使用した質より量の武器ではなく、質重視の武器を納品してもらうことになっている。
それに、また戦争が起こらないとも限らないので、ある程度の数は備蓄が必要なのと……他国に質の良い武器が流れないようにもしたい。
納品と今後の交渉。
なかなか重要な仕事なのだが……。
「しばらく見ない間に、折角のかわいい顔がやつれたんじゃないか? 一番様がいなくなって体が疼く頃だろう? 相手してやろうか?」
「嫌です。やめてください」
こういう下世話な声かけにはもう慣れた。
しかし、「一番様」という言葉を出されるのは……何度経験しても特別に嫌な気持ちになる。
……普段はもう少し上手くあしらうのだが、心に余裕がなく不機嫌を隠さずに断ってしまった。
戦局は、一気にこちらに傾いた。
すぐに勝利できたわけではないし、その後も多くの負傷者や戦死者が出た。
それでも……
勝った。
敵国の人口を四分の三に減らしたところで、敵国の長である導王が降伏し、わが陣営が勝利した。
導王は国際法で裁かれ、国としても国外地の魔法石採掘権のはく奪や、今後一〇〇年かけて罰金を徴収することなど、多くの制裁が決定した。
これで我が国にも平和が訪れる。
それは間違いない。
だが……
失ったものは、あまりに大きかった。
◆
一番様の死は、悲しくはあっても、ショックではなかった。
最後まで立派で、最後まで一番様らしくて、この国を、民を、未来を護った意味のある死だった。
意味のある死なら肯定すべきと言うことではないが……。
意味のあることで、素晴らしい方だったと思わないと、一番様が折角自分の命を懸けてまで成し遂げた素晴らしい功績がかすんでしまう。
ドライと言われるかもしれないが、死を悼むより称えることの方が、一番様は喜ばれるのではないかと思った。
悲しいが、誇らしい。
しかも、私だけではなかった。
国民全体が一番様を「魔王の国を勝利に導いた英雄」と讃えていた。
国民全員で悲しみ、国民全員でこの平和が続く限り一番様への感謝を続けようと。
戦争の勝利に加えて、国全体が「一番様に生かして頂いた命を大事にしよう」「一番様に頂いた平和や国を護ろう」と、しっかりと胸に刻んで前に進んで行けた。
一番様は亡くなってもなお、国民を導く素晴らしい次期魔王候補様だった。
ただ……とても個人的な、大きな功績の前でこんな小さなことを持ち出すなんて、恥ずかしいほど自分本位すぎることではあるが……困ることが一つあった。
勝利の高揚感と、戦後の復興で落ち着かない国内で……私を護ってくれる人がいなくなってしまったことだ。
平和になったのだから夜這いも無いだろうと思っていたが、「元性処理係」は、一番様亡き今、下世話な視線を浴びることになった。「元一番様の性処理係を自分のものにできれば箔がつく」なんて輩もいる。
恥を忍んで二番様に助けを乞おうかと一瞬思ったが、終戦とほぼ同時に力を無くされた魔王様に代わって、二番様は「魔王」となられた。
今まで魔王様、一番様、二番様で行っていたすべての執務に加えて、戦後復興という大仕事をお一人でこなさなくてはならない。
そんな方を頼るわけにはいかない。
むしろ、私がお支えすべきだ。
そうこうしているうちに、新しい魔王様に人間のペット「ニマ様」が献上され、ニマ様のかわいらしさは日々の忙しさの癒し……そして、一番様を失った傷の癒しになっているように見えた。
これはもう、私が助けを求めに入り込む隙間は無い。
どうしたものか。
あの頃のように、切羽詰まって求めてくるわけではないので、抵抗もするし無視もするし、自衛はある程度できるのだが……中には姑息な奴もいる。
◆
城に納品される物資のとりまとめも執事の仕事だ。
そのため、多くの業者と顔を合わせるし、納品に関する交渉もする。
今日の交渉相手は……
「よぉ、ローズウェル」
「お久しぶりです、会長」
城の門をくぐったところで頑丈な金属張りの馬車を降りて来た武器商会の会長は、以前は傭兵だったらしく筋骨隆々でよく日に焼けた顔、ベージュの短髪に大きな鹿角が印象的な男だ。
現役の兵士並の体つきだな……ベージュのジャケットが筋肉で窮屈そうだ。
「戦争が終わったら武器の需要が減るかと思ったが……新しい魔王様も騎士団長様も、先を見据えた慎重な方で、武器商人として……いや、国民として頼もしい限りだ」
今日は、壊滅した騎士団の立て直しのために、戦争で使用した質より量の武器ではなく、質重視の武器を納品してもらうことになっている。
それに、また戦争が起こらないとも限らないので、ある程度の数は備蓄が必要なのと……他国に質の良い武器が流れないようにもしたい。
納品と今後の交渉。
なかなか重要な仕事なのだが……。
「しばらく見ない間に、折角のかわいい顔がやつれたんじゃないか? 一番様がいなくなって体が疼く頃だろう? 相手してやろうか?」
「嫌です。やめてください」
こういう下世話な声かけにはもう慣れた。
しかし、「一番様」という言葉を出されるのは……何度経験しても特別に嫌な気持ちになる。
……普段はもう少し上手くあしらうのだが、心に余裕がなく不機嫌を隠さずに断ってしまった。
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