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番外編1 ●●が怖い執事長の話
次期魔王候補
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一番様のご配慮で、「一番様の専属性処理係」になってからは平和な日々が続いた。
下品な視線を感じることもあるが、今までだって「かわいいな」「一回くらい相手してくれないかな」という視線をぶつけられてきたんだ。手を出される危険が減った分、かなり気楽だ。
「ローズウェル、今夜は一番様のところへ行く日だろう? ついでに洗濯が終わった服を持って行ってくれ」
「えぇ、解りました」
執事仲間をはじめ、城付きの同僚たちも、「ソレも普通に業務の一環」くらいに思ってくれているようで、「体で取り入ったのか」とか「男娼の真似か?」などと揶揄われることは無かった。
私の信頼というよりは、一番様の快活なご性格のお陰かもしれない。
「一番様、失礼いたします」
「おー……お疲れ」
ここ数ヶ月ですっかり定番になった「お世話の日」。
夜の一〇時ごろに一番様のお部屋に向かうと、たいていリビングルームのテーブルに大きな地図が広げてある。
戦局を書き込んだ地図で、毎晩一番様なりに今後の策を練っているようだ。
「……西側は優勢ですね」
「そうだな。流石に我が国自慢の騎士団の団長まで出ているからな」
敵国の武器に対する防御方法が確立されてきたので、一部の戦闘地では防御に徹して、敵国への突破を図る西側に戦力を集中してから、戦局は明らかに良くなっている。
「二番の策が功を奏した。悔しいが、あいつの方が大局を見るのが上手いし賢いなぁ」
悔しいと言いながらも嬉しそうだ。
一番様は二番様を実の弟のようにかわいがっていらっしゃる。
「本当に、頼もしい男だ」
嬉しそうな声と共に、一番様は地図の横に置いてあった酒の瓶を煽る。
今日は、いつもより酒が進んでいるようだ。
優しい笑顔というよりは、少し酔いで緩んだ笑顔になってきた。
「なぁ、ローズウェル」
声も少しだけ、舌ったらずだ。
「この戦争がどうなるかは解らないが、魔王様は戦争のために特別に魔力を使い過ぎたと思わないか?」
「……はい」
「代替わりはそう遠くないと思う」
「……」
城付きとしては肯定しにくい。
当代の魔王様は誠実で真面目な方で、もちろん尊敬しているし、健やかに長く統治して頂きたいとは思っている。
お年だってまだ、一〇〇〇歳を超えたばかりだ。
だが……戦争になってから魔王様の張る結解魔法への負担が大きく、体に影響が出始めているのは事実だ。
「次の王は二番だ。俺よりも国民全体が見えているのはあいつだ」
「それは……」
一番様だって自分以外の魔族をよく見ていらっしゃるし、王の器だと思うが……。
「でも、あいつは自分のことや自分の身近なことに疎い。俺がそれをフォローすべきだと思っているんだ」
「あ……」
その点は、同意できる。
二番様は、仕事のし過ぎで倒れたことが一度では済まない。
どちらかと言えば、快活で目立つ一番様が王で、コツコツと地道に、誠実に仕事をこなすタイプの二番様が補佐と思っていたが……一番様は、そんなことをお考えだったのか……。
「それに、王よりも補佐役の方が自由に遊べるし書類仕事が少ないからな。どうだ? 俺にぴったりだとは思わないか?」
冗談のつもりかもしれないが、それも良いと思った。
よく遊ぶことで、一番様の世界が広がっているのは間違いない。
「ネックなのは投票だなぁ。国民の覚えが良いのはどちらか解らないけど、城の中では俺の人気の方が高いはずだから……国民の票の差が少なく、城勤めによる決戦投票で俺に決まると困る。ローズウェル、お前は二番に入れてくれよ?」
「相手に入れてくれなんてお願い、初めて聞きました」
「普通は逆か。でも……ローズウェル、頼む」
本気なんだな……私は一番様に一生使えると心に決めているので、折角なら一番様に王になって頂きたいが……。
「それが一番様の思う理想の国でしたら……承知致しました」
この人の考えであれば、きっと間違いない。
このまま、戦禍を乗り越えて、一番様と二番様が力を合わせていけば、素晴らしい国になっていくだろう。
もうひと頑張りだ。
もう少し、頑張れば……。
しかし、戦争はそんなに簡単なものではなかった。
下品な視線を感じることもあるが、今までだって「かわいいな」「一回くらい相手してくれないかな」という視線をぶつけられてきたんだ。手を出される危険が減った分、かなり気楽だ。
「ローズウェル、今夜は一番様のところへ行く日だろう? ついでに洗濯が終わった服を持って行ってくれ」
「えぇ、解りました」
執事仲間をはじめ、城付きの同僚たちも、「ソレも普通に業務の一環」くらいに思ってくれているようで、「体で取り入ったのか」とか「男娼の真似か?」などと揶揄われることは無かった。
私の信頼というよりは、一番様の快活なご性格のお陰かもしれない。
「一番様、失礼いたします」
「おー……お疲れ」
ここ数ヶ月ですっかり定番になった「お世話の日」。
夜の一〇時ごろに一番様のお部屋に向かうと、たいていリビングルームのテーブルに大きな地図が広げてある。
戦局を書き込んだ地図で、毎晩一番様なりに今後の策を練っているようだ。
「……西側は優勢ですね」
「そうだな。流石に我が国自慢の騎士団の団長まで出ているからな」
敵国の武器に対する防御方法が確立されてきたので、一部の戦闘地では防御に徹して、敵国への突破を図る西側に戦力を集中してから、戦局は明らかに良くなっている。
「二番の策が功を奏した。悔しいが、あいつの方が大局を見るのが上手いし賢いなぁ」
悔しいと言いながらも嬉しそうだ。
一番様は二番様を実の弟のようにかわいがっていらっしゃる。
「本当に、頼もしい男だ」
嬉しそうな声と共に、一番様は地図の横に置いてあった酒の瓶を煽る。
今日は、いつもより酒が進んでいるようだ。
優しい笑顔というよりは、少し酔いで緩んだ笑顔になってきた。
「なぁ、ローズウェル」
声も少しだけ、舌ったらずだ。
「この戦争がどうなるかは解らないが、魔王様は戦争のために特別に魔力を使い過ぎたと思わないか?」
「……はい」
「代替わりはそう遠くないと思う」
「……」
城付きとしては肯定しにくい。
当代の魔王様は誠実で真面目な方で、もちろん尊敬しているし、健やかに長く統治して頂きたいとは思っている。
お年だってまだ、一〇〇〇歳を超えたばかりだ。
だが……戦争になってから魔王様の張る結解魔法への負担が大きく、体に影響が出始めているのは事実だ。
「次の王は二番だ。俺よりも国民全体が見えているのはあいつだ」
「それは……」
一番様だって自分以外の魔族をよく見ていらっしゃるし、王の器だと思うが……。
「でも、あいつは自分のことや自分の身近なことに疎い。俺がそれをフォローすべきだと思っているんだ」
「あ……」
その点は、同意できる。
二番様は、仕事のし過ぎで倒れたことが一度では済まない。
どちらかと言えば、快活で目立つ一番様が王で、コツコツと地道に、誠実に仕事をこなすタイプの二番様が補佐と思っていたが……一番様は、そんなことをお考えだったのか……。
「それに、王よりも補佐役の方が自由に遊べるし書類仕事が少ないからな。どうだ? 俺にぴったりだとは思わないか?」
冗談のつもりかもしれないが、それも良いと思った。
よく遊ぶことで、一番様の世界が広がっているのは間違いない。
「ネックなのは投票だなぁ。国民の覚えが良いのはどちらか解らないけど、城の中では俺の人気の方が高いはずだから……国民の票の差が少なく、城勤めによる決戦投票で俺に決まると困る。ローズウェル、お前は二番に入れてくれよ?」
「相手に入れてくれなんてお願い、初めて聞きました」
「普通は逆か。でも……ローズウェル、頼む」
本気なんだな……私は一番様に一生使えると心に決めているので、折角なら一番様に王になって頂きたいが……。
「それが一番様の思う理想の国でしたら……承知致しました」
この人の考えであれば、きっと間違いない。
このまま、戦禍を乗り越えて、一番様と二番様が力を合わせていけば、素晴らしい国になっていくだろう。
もうひと頑張りだ。
もう少し、頑張れば……。
しかし、戦争はそんなに簡単なものではなかった。
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