魔王さんのガチペット

メグル

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第7章 その後の二人 / 魔力切れと覚悟の話

19~21日目

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 魔王さんが遠征に出かけて一九日目。
 やっと一点の迷いもなく「元気」と言える体調になった。
 違和感もないし、しんどさもない。

「魔王さんも全快ってことだよね。よかった……」

 安心だし、食欲があるからご飯が美味しいし、無理しない程度の筋トレもできたし、まだ俺の中の魔王さんの魔力の枯渇は感じないし、絶好調。
 ただ……先日もそうだったけど、体の心配がなくなると……

「魔王さん……」

 寂しい。
 早く会いたい。
 恋しい。
 魔王さん……。

 そんなことばかり考えてしまった。


      ◆


 魔王さんが遠征にでかけて二〇日目。

 夕方ごろに連絡が入って、魔王さんは導王様のお城を出て、明日からお仕事の続きを始めるらしい。
 体調で解っていたけど、お仕事できるくらい元気なのは嬉しいし、お仕事が終われば帰って来てくれるんだから、会える日へのカウントダウンだと思うと一層嬉しい。
 でも……

「魔王さん……」

 寂しい。
 早く会いたい。
 恋しい。
 魔王さん……。

 昨日も同じことを想っていたけど……。

「魔王さん……魔王さん……」

 なんだろう。
 昨日よりも……。

 もっと寂しい。
 もっと早く会いたい。
 もっと恋しい。
 魔王さん……魔王さん……魔王さん……!


      ◆


 魔王さんが遠征に出かけて二一日目。
 もう気のせいじゃない。

 朝、起きた瞬間から頭の中が魔王さんでいっぱいだった。

「魔王さん……」

 身体がしんどいわけじゃないからベッドから起き上がって、毎日のルーティンはこなすんだけど……。

「魔王さん……」

 食事中も。

「魔王さん……」

 筋トレをしていても。

「魔王さん……」

 新聞を読んでいても。

「魔王さん……」

 体調の経過観察をしてもらっていても。

 ずっとずっと頭の中は魔王さんでいっぱいだった。

「ライト様……もしかして……」

 夕食を運んできてくれたローズウェルさんに、普段通りの笑顔を向けたつもりだったけど……どうやら態度にも出ていたらしい。

「魔王様の魔力が、枯渇して……?」

 心配そうに言われた言葉で、諦めがついた。
 やっぱりそうだよね。
 これ、気のせいじゃない。
 寂しいからだけじゃない。
 そういうことだよね。

「魔王さんが恋しい……」
 
 会いたい。
 顔が見たい。
 声が聴きたい。
 ……それ以上に、体液注がれたい。

「っ、ライト様……!」

 ローズウェルさんがなぜか顔を赤くする。

「そのお顔は……っ……そんなお顔は、見せては……」
「……? なに? 俺、変な顔してる?」

 魔王さんに見せられないような、変な顔してる?
 だったら嫌だな……でも、表情なんて気にする余裕ない。
 どんな顔か自分で解らないけど、勝手にこの顔になるのに。

「……ご主人様が恋しくて、欲しくてたまらない、最高に……その……かわいい、ペットの顔、です……」

 ……?
 じゃあ、いいんじゃないの?
 なんで?
 俺、なにか悪い?
 戸惑いながら首をかしげると、ローズウェルさんは唇を噛みながら上を向いてしまう。

「っ……ライト様、普段はご自身がかわいすぎる自覚をもってらっしゃるのに……!」
「……俺、今、かわいすぎ?」
「はい。私だからギリギリ会話ができていますが、他の者だとかわいすぎて『かわいい』しか言えなくなるレベルです。しかもかわいいのに、かわいそうで……でも私が助けてあげられることが無くて……正直、心臓が色々な意味で痛いです」

 なんか……あれ?
 ローズウェルさんの言っていることがあまり頭に入らない。
 とにかく俺のせいで辛いんだよね?
 
「ごめん……」
「うっ……あ、あやまらないで……ください。更にかわいそうかわいい……一番お辛いのは、ライト様なのに……くっ……少々、失礼します」

 ローズウェルさんが一度俺に背を向けて、何度か深呼吸をする。

「ふぅーーーー……失礼いたしました」

 あ、執事らしい顔に戻ってる。
 プロだな。

「ライト様、気休め程度かもしれませんが、魔王様に魔力を込めた体液を送って頂くように手配します」

 いいの!?
 欲しい!

 ……っと、一瞬思ったけど……。

「欲しいけど、いいよ。我慢する。魔王さん、ただでさえ魔力を回復したてで大きなお仕事しないといけなくて大変なのに。俺に分けなくていい」

 結解張るのって魔力の消費量多いらしいし……。
 俺のために魔力使って魔王さんがしんどくなるの嫌だし。

「しかし……」
「魔王さん欲しいけど、迷惑かけるの嫌。それに、俺に魔力送ってもらう分、作業が遅れて帰ってくるの遅くなったら嫌。だから……ごめん。当分俺、こんなのかもしれないけど、ごめん」
「ライト様……うっ、ぐっ、か、か、か、かわ、くぁ、いい、かわいい……! こんなに欲しがっているのに、魔王様の、心配……こんな、いじらしい、かわいい、なんてかわいい、かっわいいい……!」

 ローズウェルさんがここまでなるの、珍しい。

 俺、もしかして想像よりやばい?
 でも……魔王さんが帰ってくる予定まであと四日くらい?
 耐えるしかない。

 耐えるしかないけど……早く会いたい。
 会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。

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