魔王さんのガチペット

メグル

文字の大きさ
上 下
171 / 409
第7章 その後の二人 / 魔力切れと覚悟の話

7~8日目

しおりを挟む

 料理長さん達に見守られながらチョコレートを湯煎し、牛乳でちょっとだけ伸ばして……俺は絞るより爪楊枝派。
 魔王って漢字は難しいからひらがなでいいか。俺にかかっている翻訳魔法、クッキーにしても読めるのかな……それだけが心配。

「……料理長さん、これ、読める?」
「おぉ! 『がんばれ』『まおうさんすき』『だいすき』『ライトより』なるほど、そうやって文字を……!」

 ちょっと恥ずかしいけど、ちゃんと読めているみたいで良かった。焼いた時につぶれないと良いなぁ。
 それにしても、この方法ってこの世界ではやって無いんだ?

「文字以外もできるよ。模様とか……絵とか……」

 魔王さんの似顔絵……は無理だな。シンプルな絵文字風のスマイルや、俺に入っている文様の角マークを描くと、料理長さんの後ろから副料理長さんだと紹介された、牛の角で筋肉ムキムキのオレンジ髪と同じ色の口髭が印象的なむさくるしい……いや、男らしい魔族さんが興味深そうにのぞき込んできた。

「……料理長。これ、もっと大きな生地にして体力回復系の医療用魔法陣を書いたらどうでしょう?」
「医療用魔法陣? ……そうか。魔法石を使わない簡易の魔法陣なら効果が出せるかもしれないな……!」
「しかも、クッキー生地なので、焼くときに魔導キャンドルの火を加えれば……」
「もう一段階上の魔法陣が使える!」

 料理長さんと副料理長さんが「すぐに魔法研究員に確認だ!」と大声を上げて厨房を出て行ってしまった。
 何かしらの発明のヒントを与えたみたいだけど、やっぱり魔法のことはよく解らない。

「……えっと……」

 戸惑う俺に向けて、厨房に残っていた若い女性と男性の料理担当魔族さんがキラキラとした視線を向けてくる。

「あぁ、ライト様……! 魔王様の食が進むようにクッキーにわざわざ細工をするというからどんなことかと思ったら!」
「天才……天才すぎる……! しかも愛情が深い! こんなに魔王様のことが大好きなんて、かわいい! なんて、かっわいい!」
「魔王様の心身の健やかさを護る、守護天使様?」
「愛情が産んだ奇跡の大発明だ! 愛の力だ!」

 にこにこ笑っておくけど、こういう流れ、いつまで経っても慣れないな……。
 とりあえず、メッセージ入りのクッキーを作れるだけ作っておこう。


      ◆
 

 魔王さんが遠征にでかけて八日目。

 昨日の夕方に送った荷物は、魔法を使っているからかもう届いたらしい。
 
「……すごい、俺、めちゃくちゃ元気!」

 朝起きた時にはまだ少しだるかったのに、昼過ぎには体のだるさが消えて、夕方には普段以上に元気になった。
 リリリさんが運んできてくれた夕食も、今日はガッツリ食べられそうだ。

「魔王様が補給物資の焼き菓子を沢山召し上がられたと聞いています。それに、ライト様の発明した魔法陣クッキーも効果があるのかと! さすがライト様!」
「副料理長さんの発明だけどね? でも、がんばった甲斐があったな~」

 離れていても魔王さんにしてあげられることがあるのが嬉しいし、自分の体で実感できるのも良いよね。
 俺も、しんどいよりは元気な方が良いし。

 ただ、元気になってしまうと……。

「ライト様? まだ体調がすぐれませんか?」
「ん? 大丈夫。もう元気だよ」

 リリリさんへ意識的に明るい笑顔を向けたけど……

 心配事が減ると、忘れていたことを思い出すというか……「寂しい」気持ちが強くなっていくんだよね。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

転移したら獣人たちに溺愛されました。

なの
BL
本編第一章完結、第二章へと物語は突入いたします。これからも応援よろしくお願いいたします。 気がついたら僕は知らない場所にいた。 両親を亡くし、引き取られた家では虐められていた1人の少年ノアが転移させられたのは、もふもふの耳としっぽがある人型獣人の世界。 この世界は毎日が楽しかった。うさぎ族のお友達もできた。狼獣人の王子様は僕よりも大きくて抱きしめてくれる大きな手はとっても温かくて幸せだ。 可哀想な境遇だったノアがカイルの運命の子として転移され、その仲間たちと溺愛するカイルの甘々ぶりの物語。 知り合った当初は7歳のノアと24歳のカイルの17歳差カップルです。 年齢的なこともあるので、当分R18はない予定です。 初めて書いた異世界の世界です。ノロノロ更新ですが楽しんで読んでいただけるように頑張ります。みなさま応援よろしくお願いいたします。 表紙は@Urenattoさんが描いてくれました。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜

かむら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞にて、ジョブ・スキル賞受賞しました!】  身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。  そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。  これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。

処理中です...