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第7章 その後の二人 / 魔力切れと覚悟の話
7~8日目
しおりを挟む料理長さん達に見守られながらチョコレートを湯煎し、牛乳でちょっとだけ伸ばして……俺は絞るより爪楊枝派。
魔王って漢字は難しいからひらがなでいいか。俺にかかっている翻訳魔法、クッキーにしても読めるのかな……それだけが心配。
「……料理長さん、これ、読める?」
「おぉ! 『がんばれ』『まおうさんすき』『だいすき』『ライトより』なるほど、そうやって文字を……!」
ちょっと恥ずかしいけど、ちゃんと読めているみたいで良かった。焼いた時につぶれないと良いなぁ。
それにしても、この方法ってこの世界ではやって無いんだ?
「文字以外もできるよ。模様とか……絵とか……」
魔王さんの似顔絵……は無理だな。シンプルな絵文字風のスマイルや、俺に入っている文様の角マークを描くと、料理長さんの後ろから副料理長さんだと紹介された、牛の角で筋肉ムキムキのオレンジ髪と同じ色の口髭が印象的なむさくるしい……いや、男らしい魔族さんが興味深そうにのぞき込んできた。
「……料理長。これ、もっと大きな生地にして体力回復系の医療用魔法陣を書いたらどうでしょう?」
「医療用魔法陣? ……そうか。魔法石を使わない簡易の魔法陣なら効果が出せるかもしれないな……!」
「しかも、クッキー生地なので、焼くときに魔導キャンドルの火を加えれば……」
「もう一段階上の魔法陣が使える!」
料理長さんと副料理長さんが「すぐに魔法研究員に確認だ!」と大声を上げて厨房を出て行ってしまった。
何かしらの発明のヒントを与えたみたいだけど、やっぱり魔法のことはよく解らない。
「……えっと……」
戸惑う俺に向けて、厨房に残っていた若い女性と男性の料理担当魔族さんがキラキラとした視線を向けてくる。
「あぁ、ライト様……! 魔王様の食が進むようにクッキーにわざわざ細工をするというからどんなことかと思ったら!」
「天才……天才すぎる……! しかも愛情が深い! こんなに魔王様のことが大好きなんて、かわいい! なんて、かっわいい!」
「魔王様の心身の健やかさを護る、守護天使様?」
「愛情が産んだ奇跡の大発明だ! 愛の力だ!」
にこにこ笑っておくけど、こういう流れ、いつまで経っても慣れないな……。
とりあえず、メッセージ入りのクッキーを作れるだけ作っておこう。
◆
魔王さんが遠征にでかけて八日目。
昨日の夕方に送った荷物は、魔法を使っているからかもう届いたらしい。
「……すごい、俺、めちゃくちゃ元気!」
朝起きた時にはまだ少しだるかったのに、昼過ぎには体のだるさが消えて、夕方には普段以上に元気になった。
リリリさんが運んできてくれた夕食も、今日はガッツリ食べられそうだ。
「魔王様が補給物資の焼き菓子を沢山召し上がられたと聞いています。それに、ライト様の発明した魔法陣クッキーも効果があるのかと! さすがライト様!」
「副料理長さんの発明だけどね? でも、がんばった甲斐があったな~」
離れていても魔王さんにしてあげられることがあるのが嬉しいし、自分の体で実感できるのも良いよね。
俺も、しんどいよりは元気な方が良いし。
ただ、元気になってしまうと……。
「ライト様? まだ体調がすぐれませんか?」
「ん? 大丈夫。もう元気だよ」
リリリさんへ意識的に明るい笑顔を向けたけど……
心配事が減ると、忘れていたことを思い出すというか……「寂しい」気持ちが強くなっていくんだよね。
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