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第6章 二人の話
第125話 退位(4)
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「実は、人間になるための儀式に必要な物があり、ライト様に協力して頂きたいのだ」
「俺に?」
「あぁ。一つは立会人。一〇名ほどの人間が必要で、これは当日ただ立っていてくれるだけでいい。危険はない。そして……もう一つは、名前だ」
「名前?」
「あぁ。王族には名前が無い」
そういえば、聞いたことが無い。
いつも呼んでいる「森の王」はこの国の王様をさす言葉らしいし……魔王さんも名前が無かったし、導王様もたぶんそう。この世界は王になる人には名前が無いのか。
「王になるまでは王子、王を引退すれば先代と呼ばれるだけだが……王族を抜けるからな。名前が必要なんだ。つけてくれないか?」
森の王様には元の世界に一時帰国できるようになった恩もあるし、俺にできることはしてあげたい。
でも……名前って責任重大だよね。
俺よりももっと近しい人の方が……と思うけど。
「俺でいいの? むしろ、イルズちゃんがつけたら?」
「私は伴侶ですから。伴侶は名前を付ける立場ではないでしょう?」
それはそうか。
一般的に名前を付けてくれる人と言えば……。
「親……?」
「いない」
「兄弟は?」
「ライト様の名前は兄弟が付けたのか?」
「確かに違うね……」
「そうだろう? それに、折角人間になるんだ。人間に付けてもらいたい」
新しく自分がなる種族へのリスペクトか。
それは素敵な考え方だと思うけど……。
「なんで俺?」
俺の疑問に、森の王様は少しだけ困ったような顔をする。
「……人間になるかどうか、ずっと考えていたんだ。ずっと……」
森の王様が一瞬下を向いた後、また穏やかな笑顔を俺に向けてくれた。
「イルズと共に時間を過ごしたいと言いながら、心のどこかでは人間は儚くて、能力も劣っていて、私が守らなければいけないと思っていた。しかし」
森の王様が、円卓に置かれていた革張りのバインダーのようなものを開く。
「ライト様はライト様らしい方法で魔王を助け、人間の魅力を存分に生かして多くの人に好かれている。それに、これだ」
バインダーの中には、俺が送った手紙が挟まっていて、一番上には……俺が元の世界へ戻った時のお土産として贈った、日本一高いタワーと首都の街並みが写るポストカードがあった。
「改めて異世界の人間についての文献を確認したが、魔法が使えず、精霊の力も使えない人間が、私たちができないようなことをしていることに驚いた」
ポストカードを手に取って眺める森の王様の目は、子供のようにキラキラ輝いていて……そのキラキラが真っすぐ俺に向いた。
「人間を差別しないと言いながら、人間と本当の意味で対等だと思えたのは、イルズの努力と、ライト様の存在のお陰だ。ライト様は、人間になる私の恩師か親と言っても過言ではない。だからぜひ、名前を付けて欲しい」
そんな視線向けられたら……。
「そうだね。森の王様、人間になるんだもんね。人間をもっと好きになるお手伝いができたなら俺は嬉しい」
名付けなんて責任重大で戸惑うけど……こんなこと言われて断れるほど薄情な人間ではないつもりだ。
「……この国の、名前のルールとかある?」
「付けてくれるのか!」
「あまりにもこの国の人の感性と合わないような名前を提案しちゃったら、正直に『考え直して』って言ってね?」
「解った。約束する」
「じゃあ、当日までに考えればいい?」
「あぁ、よろしく頼む」
「ライトくんが考えた名前で愛しい人を呼べるなんて、楽しみです」
はぁー……もう。
森の王様はもちろん、イルズちゃんまで嬉しそうにするし……頑張らないとな。
滞在中の嬉しい悩みができてしまった。
それと、もう一つ。
大きな悩みも。
「俺に?」
「あぁ。一つは立会人。一〇名ほどの人間が必要で、これは当日ただ立っていてくれるだけでいい。危険はない。そして……もう一つは、名前だ」
「名前?」
「あぁ。王族には名前が無い」
そういえば、聞いたことが無い。
いつも呼んでいる「森の王」はこの国の王様をさす言葉らしいし……魔王さんも名前が無かったし、導王様もたぶんそう。この世界は王になる人には名前が無いのか。
「王になるまでは王子、王を引退すれば先代と呼ばれるだけだが……王族を抜けるからな。名前が必要なんだ。つけてくれないか?」
森の王様には元の世界に一時帰国できるようになった恩もあるし、俺にできることはしてあげたい。
でも……名前って責任重大だよね。
俺よりももっと近しい人の方が……と思うけど。
「俺でいいの? むしろ、イルズちゃんがつけたら?」
「私は伴侶ですから。伴侶は名前を付ける立場ではないでしょう?」
それはそうか。
一般的に名前を付けてくれる人と言えば……。
「親……?」
「いない」
「兄弟は?」
「ライト様の名前は兄弟が付けたのか?」
「確かに違うね……」
「そうだろう? それに、折角人間になるんだ。人間に付けてもらいたい」
新しく自分がなる種族へのリスペクトか。
それは素敵な考え方だと思うけど……。
「なんで俺?」
俺の疑問に、森の王様は少しだけ困ったような顔をする。
「……人間になるかどうか、ずっと考えていたんだ。ずっと……」
森の王様が一瞬下を向いた後、また穏やかな笑顔を俺に向けてくれた。
「イルズと共に時間を過ごしたいと言いながら、心のどこかでは人間は儚くて、能力も劣っていて、私が守らなければいけないと思っていた。しかし」
森の王様が、円卓に置かれていた革張りのバインダーのようなものを開く。
「ライト様はライト様らしい方法で魔王を助け、人間の魅力を存分に生かして多くの人に好かれている。それに、これだ」
バインダーの中には、俺が送った手紙が挟まっていて、一番上には……俺が元の世界へ戻った時のお土産として贈った、日本一高いタワーと首都の街並みが写るポストカードがあった。
「改めて異世界の人間についての文献を確認したが、魔法が使えず、精霊の力も使えない人間が、私たちができないようなことをしていることに驚いた」
ポストカードを手に取って眺める森の王様の目は、子供のようにキラキラ輝いていて……そのキラキラが真っすぐ俺に向いた。
「人間を差別しないと言いながら、人間と本当の意味で対等だと思えたのは、イルズの努力と、ライト様の存在のお陰だ。ライト様は、人間になる私の恩師か親と言っても過言ではない。だからぜひ、名前を付けて欲しい」
そんな視線向けられたら……。
「そうだね。森の王様、人間になるんだもんね。人間をもっと好きになるお手伝いができたなら俺は嬉しい」
名付けなんて責任重大で戸惑うけど……こんなこと言われて断れるほど薄情な人間ではないつもりだ。
「……この国の、名前のルールとかある?」
「付けてくれるのか!」
「あまりにもこの国の人の感性と合わないような名前を提案しちゃったら、正直に『考え直して』って言ってね?」
「解った。約束する」
「じゃあ、当日までに考えればいい?」
「あぁ、よろしく頼む」
「ライトくんが考えた名前で愛しい人を呼べるなんて、楽しみです」
はぁー……もう。
森の王様はもちろん、イルズちゃんまで嬉しそうにするし……頑張らないとな。
滞在中の嬉しい悩みができてしまった。
それと、もう一つ。
大きな悩みも。
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