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第5章 旅の話
第110話 お土産(4)
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お城に戻ってきた日の夜、お仕事を終えた魔王さんと、俺の部屋でゆっくり報告……というか、ソファに並んでくっついていた。
「これは魔王さんへのお土産」
「俺のために……気を遣わなくてもいいと言っただろう?」
そう。
持って帰れる荷物が少ないことを俺が気にしていたから、魔王さんはそう言ってくれていたんだけど……。
「魔王さんに俺が元の世界でどんな暮らしをしていたかとか、俺がどんな物が好きなのかとか……俺のこと、知ってもらいたいし」
「そうか……」
「それに、喜ばせたいし」
「そ、そうか……!」
俺の言葉一つで魔王さんが嬉しそうにするのなんて、もう慣れていたつもりだけど……一週間ぶりだと、いいなぁ。すごくキュンとくる。
「まずは、お菓子。みんなに配ったのと同じだけど、俺がすごく好きなやつ」
「うまい! なるほど、これがライトの好きな味か」
「そう。甘じょっぱい味が好きなんだよね。みたらし団子……は解らないか。塩キャラメルとか塩バタークッキーとか。でも特に好きなのはコレ」
「キャラメルやクッキーより? 確かに美味いが……この軽い生地がいいのか?」
「うん。この生地が好き。独特の味ももちろん好きなんだけど……前に言ったかな? 弟が小麦が食べられないんだけど、このお菓子は小麦を使っていないから。兄弟みんなで食べられるんだ。だから家でお菓子を食べる時によく買っていて……ハマっちゃった」
「あぁ、なんて可愛らしく心の温まるエピソードなんだ……絵本にしてすべての子どもにきかせたい」
食育絵本ってあるけどね……それは大げさだと思う。
「次はこれ。お菓子と違って、これは魔王さんだけに」
「俺だけに?」
手のひらサイズの黒い小箱を渡しながら俺が頷くと、魔王さんはとても嬉しそうにするから……やっぱり遠慮していたんだな。
持って帰って正解だ。
「そう。開けてみて」
「あぁ……これは、時計か?」
箱の中身は、銀色の金属ベルトに濃紺の文字盤がついた腕時計。インデックス部分が数字ではなくバータイプのシンプルな腕時計だ。文字盤が大きめだから大柄の魔王さんに合うはず。
「腕時計って言って……こんな感じで腕につける時計。オシャレだし便利じゃない?」
俺の左手首にハマった、同じブランドの同じ型で文字盤が黒い腕時計を見せると、魔王さんは興味深そうに両方を見比べた。
こっちと向こうで時間の流れが同じって聞いたから使えるかなと思って持ってきたけど……今のところ、部屋の置き時計とズレはないから大丈夫そう。
「たしかに、ライトに良く似合っている。懐中時計よりも小さく、とても精巧で……軽いな」
「ずっと身につけるものだからね。ちなみに、この世界の時計って手巻き式だけど、この腕時計は太陽の光にあてると充電できて半永久的に動くから」
「……太陽の光?」
元々便利だから普段使いの腕時計は全部ソーラー式にしていたんだけど……これなら異世界でも充電できて便利だよね?
「そう。あと、ちょっとくらいの……雨に濡れる程度の水ならかかっても大丈夫」
「水が……?」
「振動も、普通に生活したりスポーツしたりするくらいなら大丈夫」
「しかし……これはガラスだろう? 割れるんじゃないか?」
「普通のガラスじゃなくて丈夫なガラスだから、ハンマーでたたいたり馬車でひいたりしない限り大丈夫。実はその腕時計、新しく買ったものじゃなくて俺がホスト……前の仕事を辞める時に、自分へのご褒美で買った時計なんだけど、気に入ってずっとつけていて、ドアにぶつけたり、踏んだり、二階から落としたこともあるんだけど壊れなかったよ」
お客さんに買ってもらうことはあっても、自分のために七桁のお金を使うのは初めてで買う時はドキドキしたな……あと、自分が大人になって、きちんと自立できたって実感した。
そういう思い出の腕時計だ。
「すごいな……しかも、思い出の……そんな大切なものをもらっても良いのか?」
「新しい物を買って渡しても良かったんだけど……気に入っている腕時計を側に置いて置きたくて。ちなみに俺が今つけている腕時計とおそろい。これは、弟たちが今までのお礼にって買ってくれたんだ」
学費を返さなくていいならせめてって言いながら俺の好きなブランドの店に引っ張って行かれて選んだものだ。買ってあげると言われた時点で、こうしようと決めた。
だから、もらってくれないと困る。
「それは……素敵だな」
「でしょう? どっちも好きなブランドの好きな形で、しかも、こんな嬉しい思い出で……大事な人とペアで使いたかったんだ」
「……異世界の技術と言うだけで素晴らしいのに、ライトの大事な思い出を共有させてもらえること、とても嬉しい。大切にする」
「うん」
大事な時計が、ますます大事になっちゃったな。
魔王さんも喜んでくれたし。
でも……「魔王さんを喜ばせる」でいうと、こっちの方が喜びそうだな……。
「あと……お土産って言うか……見たいかなと思って」
「……?」
「これは魔王さんへのお土産」
「俺のために……気を遣わなくてもいいと言っただろう?」
そう。
持って帰れる荷物が少ないことを俺が気にしていたから、魔王さんはそう言ってくれていたんだけど……。
「魔王さんに俺が元の世界でどんな暮らしをしていたかとか、俺がどんな物が好きなのかとか……俺のこと、知ってもらいたいし」
「そうか……」
「それに、喜ばせたいし」
「そ、そうか……!」
俺の言葉一つで魔王さんが嬉しそうにするのなんて、もう慣れていたつもりだけど……一週間ぶりだと、いいなぁ。すごくキュンとくる。
「まずは、お菓子。みんなに配ったのと同じだけど、俺がすごく好きなやつ」
「うまい! なるほど、これがライトの好きな味か」
「そう。甘じょっぱい味が好きなんだよね。みたらし団子……は解らないか。塩キャラメルとか塩バタークッキーとか。でも特に好きなのはコレ」
「キャラメルやクッキーより? 確かに美味いが……この軽い生地がいいのか?」
「うん。この生地が好き。独特の味ももちろん好きなんだけど……前に言ったかな? 弟が小麦が食べられないんだけど、このお菓子は小麦を使っていないから。兄弟みんなで食べられるんだ。だから家でお菓子を食べる時によく買っていて……ハマっちゃった」
「あぁ、なんて可愛らしく心の温まるエピソードなんだ……絵本にしてすべての子どもにきかせたい」
食育絵本ってあるけどね……それは大げさだと思う。
「次はこれ。お菓子と違って、これは魔王さんだけに」
「俺だけに?」
手のひらサイズの黒い小箱を渡しながら俺が頷くと、魔王さんはとても嬉しそうにするから……やっぱり遠慮していたんだな。
持って帰って正解だ。
「そう。開けてみて」
「あぁ……これは、時計か?」
箱の中身は、銀色の金属ベルトに濃紺の文字盤がついた腕時計。インデックス部分が数字ではなくバータイプのシンプルな腕時計だ。文字盤が大きめだから大柄の魔王さんに合うはず。
「腕時計って言って……こんな感じで腕につける時計。オシャレだし便利じゃない?」
俺の左手首にハマった、同じブランドの同じ型で文字盤が黒い腕時計を見せると、魔王さんは興味深そうに両方を見比べた。
こっちと向こうで時間の流れが同じって聞いたから使えるかなと思って持ってきたけど……今のところ、部屋の置き時計とズレはないから大丈夫そう。
「たしかに、ライトに良く似合っている。懐中時計よりも小さく、とても精巧で……軽いな」
「ずっと身につけるものだからね。ちなみに、この世界の時計って手巻き式だけど、この腕時計は太陽の光にあてると充電できて半永久的に動くから」
「……太陽の光?」
元々便利だから普段使いの腕時計は全部ソーラー式にしていたんだけど……これなら異世界でも充電できて便利だよね?
「そう。あと、ちょっとくらいの……雨に濡れる程度の水ならかかっても大丈夫」
「水が……?」
「振動も、普通に生活したりスポーツしたりするくらいなら大丈夫」
「しかし……これはガラスだろう? 割れるんじゃないか?」
「普通のガラスじゃなくて丈夫なガラスだから、ハンマーでたたいたり馬車でひいたりしない限り大丈夫。実はその腕時計、新しく買ったものじゃなくて俺がホスト……前の仕事を辞める時に、自分へのご褒美で買った時計なんだけど、気に入ってずっとつけていて、ドアにぶつけたり、踏んだり、二階から落としたこともあるんだけど壊れなかったよ」
お客さんに買ってもらうことはあっても、自分のために七桁のお金を使うのは初めてで買う時はドキドキしたな……あと、自分が大人になって、きちんと自立できたって実感した。
そういう思い出の腕時計だ。
「すごいな……しかも、思い出の……そんな大切なものをもらっても良いのか?」
「新しい物を買って渡しても良かったんだけど……気に入っている腕時計を側に置いて置きたくて。ちなみに俺が今つけている腕時計とおそろい。これは、弟たちが今までのお礼にって買ってくれたんだ」
学費を返さなくていいならせめてって言いながら俺の好きなブランドの店に引っ張って行かれて選んだものだ。買ってあげると言われた時点で、こうしようと決めた。
だから、もらってくれないと困る。
「それは……素敵だな」
「でしょう? どっちも好きなブランドの好きな形で、しかも、こんな嬉しい思い出で……大事な人とペアで使いたかったんだ」
「……異世界の技術と言うだけで素晴らしいのに、ライトの大事な思い出を共有させてもらえること、とても嬉しい。大切にする」
「うん」
大事な時計が、ますます大事になっちゃったな。
魔王さんも喜んでくれたし。
でも……「魔王さんを喜ばせる」でいうと、こっちの方が喜びそうだな……。
「あと……お土産って言うか……見たいかなと思って」
「……?」
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