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第1章 ペットの個性の話
第4話 理由
しおりを挟む「ペット? 愛玩動物って意味であってる?」
「はい! 貴方様の世界ではおそらく、人間がペットを飼う立場だと思いますが……この世界の人間は、『魔法が使えないか弱い下等種族』にあたりますので……」
「……なるほど」
人間より魔王とかの上位種族がいるってことか。
「本来ならば、我々のような弱い種族はすぐに滅ぼされてしまうところですが、弱くて、見た目が愛らしいということで、魔族の間でペットとして可愛がられています」
「あぁ……」
守ってあげたい的な?
犬猫が弱いとか下等とは思わないけど……そういう扱いってことか?
「この村も、魔族が人間を観たり触れ合ったりするための村です」
よくみると、そばの建物の看板には「ふれあい」とか「鑑賞」「レンタル」なんて文字が見える。
何で日本語……まぁいいか。
つまりここは猫カフェか動物園みたいなものか。
「魔族の家でペットとして飼われることもありますが、私たちにも人権はあるので、奴隷のように囲われるのではなく、お互いの同意のもとペットになります。その辺りは細かい法律があるのでおいおい……」
奴隷とペットは違うのか……うーん。本当に愛玩動物なんだな。
「ペットというとひどい扱いに思われるかもしれませんが、昔は迫害がひどく、人権も無かったので、そのころに比べれば人間らしくみんな幸せに暮らしています」
「へぇ。よかったね」
素直に頷けば、おそるおそる顔を上げた白髪のおじいさんが少しほっとしたように表情を緩めた。
「この暮らしは、三〇〇年ほど前に王になった人間好きの魔王様のお陰なんです」
人間好き……猫好きとか犬好きみたいなことか。
「なので、私たちの安全な暮らしのお礼として、魔王様の城には、常に人間のペットを献上しています。しかし……」
あぁ、ここでさっきの話か。
「新しいペットを献上する時期なのですが、魔王様が好む容姿や年頃の人間がちょうどいなくて……」
周りの人間、みんな美形だと思うけど……言われてみれば、俺みたいな顔の系統の男はいないか。
「以前にもこういうことがあった時に、魔族の宰相から異世界の同族を呼ぶように儀式とこの噴水を与えられており、この度……貴方様をその儀式で呼び寄せさせていただきました」
え、怖っ。
自分たちの村と魔族の都合だけで、無関係の俺を巻き込むの?
人権は守られているとか言いながら、異世界って倫理観ぶっ壊れてるな。
でも……
「俺が選ばれたってこと?」
「はい。魔王様のペットにふさわしい条件でふるいをかけて、魔王様が一番喜ぶ美しい容姿の人間を呼び寄せさせていただきました」
「そうか……」
そう言われたら、仕方ないな。
俺、美形だから。
昔から美形で得することが多かったけど、美形のリスクも少なくはなかった。
メリットが大きい分、デメリットがあるのは仕方がないと物心ついたころから受け入れていた。
「うーん……」
それにしても、ペットねぇ……。
戦うとか生贄とは違うみたいだけど。
一生魔王に飼われるってどうなんだろう?
「もちろんタダでとは言いません! 三年の任期が終われば、村の蓄えから一生の生活費を……」
ん? ちょっと待って。
「え? 三年? たった三年?」
「はい。三年です。魔王様はペットの人権に敏感な方なので、一人につき、自由を奪うのは三年まで。もちろん、三年間ペットとして過ごした分の報酬は支払われます」
「報酬?」
「歴代のペットは、城を出た後に住む新しい家や店などを建ててもらうことが多かったですね」
三年間の報酬として家は……アリなんじゃ……?
「それに加えて、異世界からわざわざ来ていただいた貴方様には、その後の暮らしに困らないだけの援助をさせて頂きます!」
「俺、元の世界には帰れない感じ?」
「すみません、それは……呼び寄せるだけの一方通行の魔法です」
「うーん」
ここで俺がゴネても元の世界に帰れないなら、この世界で楽しく生きる方法を模索するのがベストだな。
そうなると、三年ペットやったらその後一生遊んで暮らせるなんていうのは魅力的じゃない?
俺、この世界でも「美形」みたいだから、ペットの後も色々やりようがありそうだし。
「ペットって痛いことされたり、まともにご飯食べられなかったりはしない?」
「大丈夫です! ペットの人権は守られています。ペットは魔王様にかわいがられるだけです」
なら、元の世界でやっていた「ヒモ」と変わらないな。
相手が一人の分、楽かも?
「あ、しかし……その……」
「ん?」
白髪のおじいさんは辺りを気にしてから、俺に近づいてそっと耳打ちした。
「魔王様に、性的に可愛がられることも……」
「あぁ」
そう言うのも含むのか。
犬猫とはちょっと違うな。
でも、まぁ……
「魔王様ってエッチ上手?」
「え? そ、それは、私はなんとも……!」
まぁ、そこまでは解らないか。
できれば上手な方が良いけど……
「まぁいいや。下手だったら俺が教えればいいし……いいよ。ペットしてくる」
「お……おぉ! よろしいのですか!?」
驚かれたし、後ろの方で「異世界の方は嫌がると聞いていたのに……美しい上になんてお優しい!」「天使のようだ」なんて聞こえる。
「報酬はずんでね? あと、魔王様のところに行く前に、歴代のペットやっていた人に会える? 事前に話を聞いておきたい」
「それは、もちろん! 歴代のペットもすぐに手配します!」
「うん。よろしくね。……とりあえず俺、ここから出たいんだけど、拭くものと靴、くれない?」
噴水の淵に足をかけると、少し離れたところで「足先までお美しい」なんていう声が聞こえた。
自惚れが強い俺だけど……さすがに足先は別に普通だと思うよ。
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