魔王さんのガチペット

メグル

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第1章 ペットの個性の話

第1話 ペット

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 お城の最上階にある、クラシックホテルのスイートルームのような俺の部屋のドアが開き、やたらごてごてした金の装飾が付いた黒い詰襟風の服の上に赤黒いマントを羽織った大男が入ってくる。

「おかえり。今日もお仕事お疲れ様」
「……ん」

 美形ではあるけど眼力が鋭くて威圧感のある大男は、部屋に入って早々、ソファに座った俺へと近づいてきた。
 身長は一七九センチの俺より三〇センチくらい高いし、艶やかな黒髪には少しねじれて節のあるヤギのような硬く尖った角が上向きについているし、表情は険しいし、ガタイはいいし、正直「怖っ」と思うけど……。

「ライト……」
「ん~?」

 大男は俺の名前を呼びながら目の前で立ち止まるけど、俺はソファに座ったまま、視線は手元の新聞から上げない。

「疲れた。吸わせてくれ」
「いいよ。どうぞ」

 ここでやっと顔を上げて微笑むと、大男は俺に抱き着いて首筋辺りに顔を埋める。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 見た目とのギャップがある気の抜けた声が部屋に響き、しばらくそこに顔を埋めたまま、俺の体を抱きしめたり、わしゃわしゃと髪を撫でたり、俺の体を堪能する。

「癒される……かわいい……ライト……かわいい……」
「うん。ありがと」

 自分では「かわいい」ではなく「かっこいい」だと思っているし、ここに来るまではずっとそう言われてきたんだけど……この大男がずっと「かわいい」ばかり言うので、すっかり俺も「かわいい」と言われることに慣れてしまった。

「あぁ、かわいい……今日もかわいくてえらいなぁ」

 あー新聞がぐしゃぐしゃ。まぁいいか。ほとんど読んだし。

「ライト……こんなにかわいいなんて天才だ……俺のライト……」

 その後も大男は俺の体を好き勝手撫でて、抱きしめて、「かわいいなぁ」「かわいいの集合体」「奇跡の存在」なんて楽しそうに言い続ける。厳つかった顔も、もうデレデレの笑顔だ。

 この大男と俺は、まるで溺愛してくる彼氏とその恋人のような関係に見えるだろうけど、違う。

 この大男は魔族の王様……つまり魔王で、俺は人間。
 この世界で人間は魔族のペットになる。

 つまり俺は、魔王のペットだ。
 使用人でも恋人でも奴隷でもなく、ただのペット。
 犬や猫と思ってもらっていい。

「ライト……」

 大人しく撫でられていても、魔王はまだ見かけに似合わない情けない声を上げた。
 今日は重症だな。

「……今日、そんなに疲れた? おっぱいも吸う?」
「……! 吸う!」

 まぁ、ちょっとエッチなこともするペットだけど。


      ◆


 お城に住んで「魔族」とか「魔王」とか言って馴染んでいるけど、俺は元々この世界で生まれたわけではない。
 魔族はファンタジーな存在と思われている世界の、日本という国の首都に住んでいる二十六歳の一般的な男だった。
 特別なところがあるとすれば……

「ライトって結構キラキラネームなのに、名前負けしてないよね」

 男にも、女にも、小学生の頃から何度言われたか解らない。
 物心ついたころから俺は「美少年」で、「天使」とか「少女漫画のキャラ」なんて言われていた。
 もう少し大きくなると、「アイドル」とか「イケメン」「かっこいい」と言われ出して、二〇歳を超えた頃からは「美形」や「美人」「美しい」と言われることが多くなった。
 韓流ドラマの主人公に似ているとか、アジア系パリコレモデルに似ているとか。
 実際、アジアンビューティー系の、整ってクールにも見えるのに、目力が強くて華やかな凄味のある美形だ。
 派手なベージュ系ブロンドヘアに染めても、肩につくかつかないかの長さまで伸ばしてハーフアップにしても、顔が良いから似合ってしまうし、一七九センチの長身で指や足が長いモデル体型なのも顔に合っていると思う。
 ……なんていうと、「自惚れ」「ナルシスト」と言われそうだけど、事実なので仕方がない。
 とにかく俺は見た目が良い。
 逆に言えば、見た目が良い以外に何のとりえもない。
 だったら「美形」を売りにして働くのが一番だと思ったんだ。


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