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第17話 準備4

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「……おまたせしました」
「……!」

 ドアを開けて中に入った瞬間、ベッドに腰掛けたアキヤさんがビクっと体を強張らせて、固まってしまった。
 あー……失敗した? はしたない? 引いてる?

「ミチくん……こっち来て」

 絞り出すような声に促されるまま、アキヤさんの目の前まで歩いていくと……。

「わっ!?」

 力強く、腰を抱きしめられた。
 ニット越しに、アキヤさんの頬が俺のみぞおちあたりに擦り寄った。

「なんでそんなかわいい格好してくれるの?」
「え? な、なんとなく……?」
「なんとなくで俺のこと喜ばせるなんて……番かよ」
「まだ、ですよ?」
「わかってる」

 腕の力が強くなって……あ、わ! お尻……!

「ミチくんは初めてだから、優しくしたいのに」

 アキヤさんが顔を上げる。
 ちょっと情けない表情でかわいい……。

「かわいすぎてちょっと無理かもしれない」
「……優しくしてもらいたいので、変顔とかしましょうか?」
「たぶん、それはそれでかわいいと思うから無駄」
「え、えっと……じゃあ、どうすればいいですか?」

 本当に、どうすればいいんだろう?
 困った顔で首をかしげると、アキヤさんはふっと嬉しそうに笑ってくれた。

「……ミチくんがすると何でもかわいいから、何もしないで」
「なにそれ……んっ!」

 ニットの中に手が……!
 手のひらが、ペタっとヘソ辺りに触れただけなのに……体が震えた。
 わかる。
 俺、今、フェロモン出た。

「……触れただけで、これか」

 アキヤさんの笑顔が幸せそうに深まる。
 それ、俺のフェロモンで……?

「ミチくん、膝座って。フェロモンもっと感じたい」
「あ、はい。俺も……」

 ベッドに腰掛けたアキヤさんの太ももを跨いで、向かい合って座る。
 アキヤさんの顔がしっかり見えて、しっかり抱きしめ合えて……深く抱きしめ合えば、お互いの顔が首筋に埋まって、フェロモンが……。

「うん。いい……俺、ミチくんのフェロモンすごく好きだよ」
「ん……俺も。アキヤさんのフェロモン好きです。おちつく……きもちいー……」

 ほっとして、体の奥がじんわりあたたかくなる。
 先週と同じ。

 でも……同じだけど……落ち着くのに……心臓、めちゃくちゃドキドキする。

「もっと、くっつきたい」
「ん」

 ニットを大きく捲られて、脱がされて、下着だけになる。
 あまり筋肉のつかない細い体は少年っぽいとか少女漫画的とか言われるから、自分では色気が無いと思っていた。

「……ミチくん……こんなキレイな体だったんだ」
「キレイ……?」

 アキヤさんの視線はすごく熱っぽくて、嘘をついているようには見えない。
 ……この体、キレイに見えるんだ?

「キレイで、ずっと見ていたくなるし、触りたくなる」
「……あ、の、嬉しいけど、恥ずかしいから……アキヤさんも」

 シャツのボタンに手をかけると、俺が外すのをアキヤさんはただただ嬉しそうに眺めてくる。
 そんなに見られると緊張する……上手くできなくて、普通に自分のシャツのボタンを外すよりも倍以上かかってなんとかすべてを外し、ズボンはアキヤさんが自分で脱いでくれて……やっとアキヤさんの体を見ることができた。

「うわ……! か、かっこいぃっ!」

 俺、オメガの男だから、性対象は男性も女性も両方なんだけど、男性でも女性でも、陸上選手とか、サッカー選手みたいな細いんだけど要所要所の筋肉がぼこぼこしていて全体がぎゅぎゅっと引き締まっている体型に弱い。細いけど筋肉質って感じの。
 俺の性癖なんだなと思っていたけど……そっか。俺の運命の番がこういう体型だから、無意識に同じ体型の人が好きだったんだって解った。

「俺の理想どおり……俺、ずっとこういう体を想像してオナニーしてた……」
「じゃあ、今度からは俺の体を思い出してオナニーしてくれるんだ?」
「あ……」

 しまった、失言だったかも。
 
「す、すると思います。こんなの見ちゃったら、忘れられない」
「嬉しい……体型維持頑張るね」

 アキヤさんが嬉しそうだから、まぁいいか。

「よ、よろしくお願いします……ん」

 キスだ……唇がぴったりくっついて、体も。ぎゅっと抱きしめられて、素肌同士が触れ合う。
 これ、いい……。

「見た目だけじゃなくて、肌触りも最高」
「体温も安心します」
「ずっとくっついていたい」
「俺もです」

 しばらく、お互いを確かめるように肌を撫で合って、体を摺り寄せる。
 二人ともフェロモンが出て……それが混ざり合うと、落ち着く安心感のフェロモンのはずが……だんだん……。

「……すごく安心するけど……ごめん、興奮してきた」
「あ!」

 太ももに触れる硬い感触に少し体を離して視線を落とした。
 アキヤさんの黒い下着の前が持ち上がっていて……その中がどんな状態かは、同じ男だからよく解る。
 俺で、興奮してくれているんだ?
 そんなの……
 俺も……!

「あ……ん」
「興奮した?」
「あ、アキヤさん……」
「うん」

 アキヤさんの視線は俺の股間に向いていて、俺もそこを見ているんだけど、アキヤさんみたいに勃起はしていなかった。オメガで男だから、一人でするときは男の部分の興奮が強くて、興奮した時はまず勃起なのに。
 今日は……

「興奮して、俺……」

 確証はなかったけど、自分の指を下着の中に入れると、そこはもう、明らかにそういう状態だった。
 
「俺……ぬ……濡れちゃいました」

 俺、男らしくより、オメガらしく興奮しているんだ……。

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