上 下
16 / 58

第16話 準備3

しおりを挟む
「大きい……」

 寝室に入って第一印象はこれだった。
 備え付けのクローゼット、半分飾り棚になっている低めの本棚、大きな鉢の観葉植物、小さめのサイドボード、そして……部屋の中ほどにダブル……よりも大きいな。クイーン? キング? 大きなベッド。
 何でアルファの人って大きなベッドにするんだろう。
 ……いつでもオメガが巣作りできるように本能的に大きなベッドを選ぶって聞いたことあるけど、本当? アルファの兄も、小学校の頃すでに六畳の子ども部屋にダブルベッドを買ってもらっていたな。

「……」

 他人の家をじろじろ見ちゃダメなんだけど……番になる人の寝室なんて、興味深すぎてどうしても視線が色々な方を向いてしまう。
 これからするんだっていうこともあって、じっと座ってなんていられないし……。

「……へぇ……」

 本棚に並んでいる本は、大きな賞をとった有名小説本がほとんど。有名人のエッセイも少し。
 こういうのが好きなんだ。どの本も読んでいないけど、映画やドラマになった時に見たことがある作品は多い。

「……こっちは?」

 本棚の上の方は飾り棚になっていて、誰のかは解らないけどサイン色紙とサイン入りサッカーボール、多分海外のクラブチームのグッズが少し飾られていた。
 サッカー好きなんだ? 観るだけ? サッカー部だったのかな?
 ……あ、棚の上の木の板に金色の文字盤がはまっている置時計、これ、高級ブランドのロゴと大学のマークが入っているから大学の卒業記念……あ、違う! 主席卒業記念? え、すごい! こんなすごい大学、主席?

「ミチくん、おまたせ」

 興味深い物が多すぎて、つい夢中で見てしまっていると、いつの間にか後ろにアキヤさんが立っていた。
 さっきと同じシャツとズボンを身に付けてはいるけど……さっきとなんとなく雰囲気が違う。

「あ……アキヤさん。ごめんなさい、色々あるなって、つい……」

 シャワー浴びたてというだけで、妙に照れてアキヤさんが見られない。
 誤魔化すように……あと、本当にごめんと思って本棚を指差すと、アキヤさんは何でもないことのように笑ってくれた。

「ん? あぁ、別に良いよ。それより、ミチくんもシャワー浴びてきて? タオルとか、脱衣所に置いているから好きに使って」
「はい……」

 ……少し距離があるのに。
 アキヤさん、シャワー浴びたところなのに。

 フェロモン、感じる……。

 どうしようもないくらいドキドキする。
 この人のこと、好きだなって思う。

 出身大学は今知った。
 趣味も、なんとなく今予想しただけ。
 考えてみれば目の前の人のこと、まだあまり良く知らない。

 でも……

 今からこの人とセックスをすることにためらいはなかった。


      ◆


 シャワーを浴びて……一応、オメガの大人の男として、いつそういうことがあっても良いように練習だけはしていた「準備」をして……脱衣所のふわふわのバスタオルで体を拭く。

「うーん……どうしよう」

 初めてのセックスだから解らないことだらけだけど、一応知識はある。
 ただ、こういう細かいところが一番悩ましい。

「服、着ていく?」

 アキヤさんはシャツとズボンだけ着ていた。
 俺もそうする?
 すぐに脱ぐし、この大きなバスタオルを巻いていくとかでも……やりすぎ?
 アルファってオメガがどんな格好で出て来たら喜ぶ?
 下着は付けるべき?
 ……こういう覚悟をしてちょっといいブランドのボクサーパンツを履いてきたから見せたい気持ちも……。
 ……。
 …………。

「これで、いいか」

 しばらく悩んでから、濃いグレーの下着を身に着けて、オーバーサイズで足の付け根まで隠れる淡い青色のニットだけ着て、寝室へ戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...