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第10話 訪問2
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「あの、凝った模様にするの、好きなんです。周りにはシンプルなデザインの方が似合うよって言われるし、仕事用はシンプルなデザインにするんですけど……作っていて楽しくて」
「え? じゃあ、もしかしてこの前仕事帰りに会った時に着ていたのも手編み?」
「そうです」
「手編みなんだ……あぁいうシンプルで作りがしっかりしているニットは流石に既製品だと……。でも、そうだね。確かにアレもすごく似合っていたけど、このデザインも似合っていると思うよ。何より体形にピッタリだよね。ジャストサイズだから柄がかわいくてもキレイめっていうか……既製品だとちょっとぶかぶかなものが多いと思うんだけど」
わ……俺の言われたい言葉ばっかり言ってくれる。
「そうなんです! 自分サイズで作れるのが手編みの良いところなんです。オーバーサイズのも作るんですけど、今日はアキヤさんと会うからちょっとキレイめの格好の方がいいかなと思って……」
「うん。俺好み。でも、オーバーサイズの服を着ているところも見たいな。次はそういうの着てきてくれる?」
アキヤさんのリクエストだ! しっかり覚えないと……。
それにしても、嬉しいなぁ。俺の趣味に、作ったものに、こんなに興味を持ってくれるなんて。
「はい! それと……」
……いや、ちょっと待て。
「ミチくん?」
浮かれてつい、余分なことを言いそうになってしまった。
アキヤさんのも編みたい……って。
まだ番にもなっていないのに、手編みなんて重いよね?
今まで、友達に作りすぎて何度も引かれているし……運命の相手だからって要らないけど無理に受け取ってくれても悪いし……。
うん。絶対にまだ早い。
「それと……このコーヒー美味しいですね!」
……話が繋がっていない。下手な誤魔化しだ。
でも、アキヤさんは特に俺を疑うことなく微笑んでくれた。
「口に合ったなら良かった。初めて買う店のだから心配だったんだけど」
「俺、こういう酸味の少ない苦いコーヒー好きだからちょうどいいです。アキヤさんの淹れ方も上手なんだと思います」
「これ、ドリップバッグだからそんなに……でも、気に入ったなら家に常備しておくよ」
アキヤさんがそう言いながら自分のカップをテーブルに置く。
……なんとなく釣られて、オレもまだ中身のあるカップをテーブルに置いた。
「これから、ミチくんが来てくれること増えるだろうから」
俺が今住んでいるマンションはオメガ専用のマンションなので、アキヤさんは入れない。
だから、お家デートっていうと俺がここに来ることが増えるんだろうけど……。
「アキヤさん……」
三〇センチあいていた俺とアキヤさんの距離が、いつの間にか一〇センチなっていた。
それに、手……太ももに……。
これって、そういう雰囲気?
「ミチくん、初めて会った時から、ずっとしたかったんだけど」
「は、はい……」
アキヤさんの顔が近い。
あ、わ、するんだ。
キス?
それとも、もっと……?
「まず、抱きしめて良い?」
「……」
まず、ってことは……その後はもっと何かするんだよね?
緊張で上手く声が出なくて、小さく頷くのが精一杯だった。
「ミチくん……」
「あ……」
ソファに座ったまま、上半身をぴったりくっつけるように、両手で、しっかりと抱きしめられた。
俺はニット、アキヤさんはカットソーと柔らかい生地のジャケット……それだけの生地が間にあるのに、アキヤさんの体温を感じるし……。
「はぁ……」
「ん……」
お互いの肩に顎を乗せているから、首筋に……首の後ろに顔が近づく。
フェロモンが一番解る場所。
アキヤさんのフェロモン……。
すごい。
ほっとする。
出会った瞬間ドキドキしたし、一緒にいるとドキドキすることばかりだから、フェロモンをしっかり感じればもっともっとドキドキすると思ったのに、違う。
これ、ほっとする。ここが俺の居場所だって感じがする。居心地がいい。
ずっとこれ浴びていたい。
「ん……アキヤさん……」
「ミチくん……」
俺もアキヤさんの背中に腕を回して顔を摺り寄せれば、アキヤさんも同じようにしてくれる。
「安心する」
「俺もです。ほっとする」
俺よりちょっと背が高くて、筋肉があって厚みがあるのもいい。フェロモンだけじゃない、この体も好き。
腕の中にいるの、安心する。
「もうちょっとフェロモン出ることしていい? 今日は最後まではしないから。ちゃんと段階守るから」
「……はい」
アルファに求められて断れることなんてない。
この人になら、なにされてもいい。
別に段階なんて守らなくていい。
でも……経験のない俺に合わせようとしてくれている優しさも、震えるくらい嬉しい。
フェロモンに包まれながら身を任せていると、アキヤさんが顔を上げて、少しだけ体が離れる。
「ミチくん」
「ん……」
優しく頬を撫でられて……唇が近づいてきた。
キスだ……。
アキヤさんの唇、薄く見えるのに柔らかい。この感触だけで、触れあっただけで……体の奥からぶわっと何かが沸いたのがわかった。
「はぁ……」
「あ……」
少しだけ唇が離れて、視線がぶつかる。
少し潤んだ瞳、薄く開いた唇の隙間からこぼれる熱っぽい息。
あ。
すごい。アキヤさんの、にじみ出るようなフェロモンが……すごい。濃い。
体がゾクっとした。震えた。
震えて……多分……。
「っ……!」
俺もめちゃくちゃフェロモンが出た。
「ミチくん……」
「んっ」
「ミチくん、ミチくん……っ」
「あ、アキヤさん……ん」
またぎゅっと抱きしめあって、お互いの首の後ろに顔を近づけあって、大量のフェロモンをしっかりと堪能した。
「え? じゃあ、もしかしてこの前仕事帰りに会った時に着ていたのも手編み?」
「そうです」
「手編みなんだ……あぁいうシンプルで作りがしっかりしているニットは流石に既製品だと……。でも、そうだね。確かにアレもすごく似合っていたけど、このデザインも似合っていると思うよ。何より体形にピッタリだよね。ジャストサイズだから柄がかわいくてもキレイめっていうか……既製品だとちょっとぶかぶかなものが多いと思うんだけど」
わ……俺の言われたい言葉ばっかり言ってくれる。
「そうなんです! 自分サイズで作れるのが手編みの良いところなんです。オーバーサイズのも作るんですけど、今日はアキヤさんと会うからちょっとキレイめの格好の方がいいかなと思って……」
「うん。俺好み。でも、オーバーサイズの服を着ているところも見たいな。次はそういうの着てきてくれる?」
アキヤさんのリクエストだ! しっかり覚えないと……。
それにしても、嬉しいなぁ。俺の趣味に、作ったものに、こんなに興味を持ってくれるなんて。
「はい! それと……」
……いや、ちょっと待て。
「ミチくん?」
浮かれてつい、余分なことを言いそうになってしまった。
アキヤさんのも編みたい……って。
まだ番にもなっていないのに、手編みなんて重いよね?
今まで、友達に作りすぎて何度も引かれているし……運命の相手だからって要らないけど無理に受け取ってくれても悪いし……。
うん。絶対にまだ早い。
「それと……このコーヒー美味しいですね!」
……話が繋がっていない。下手な誤魔化しだ。
でも、アキヤさんは特に俺を疑うことなく微笑んでくれた。
「口に合ったなら良かった。初めて買う店のだから心配だったんだけど」
「俺、こういう酸味の少ない苦いコーヒー好きだからちょうどいいです。アキヤさんの淹れ方も上手なんだと思います」
「これ、ドリップバッグだからそんなに……でも、気に入ったなら家に常備しておくよ」
アキヤさんがそう言いながら自分のカップをテーブルに置く。
……なんとなく釣られて、オレもまだ中身のあるカップをテーブルに置いた。
「これから、ミチくんが来てくれること増えるだろうから」
俺が今住んでいるマンションはオメガ専用のマンションなので、アキヤさんは入れない。
だから、お家デートっていうと俺がここに来ることが増えるんだろうけど……。
「アキヤさん……」
三〇センチあいていた俺とアキヤさんの距離が、いつの間にか一〇センチなっていた。
それに、手……太ももに……。
これって、そういう雰囲気?
「ミチくん、初めて会った時から、ずっとしたかったんだけど」
「は、はい……」
アキヤさんの顔が近い。
あ、わ、するんだ。
キス?
それとも、もっと……?
「まず、抱きしめて良い?」
「……」
まず、ってことは……その後はもっと何かするんだよね?
緊張で上手く声が出なくて、小さく頷くのが精一杯だった。
「ミチくん……」
「あ……」
ソファに座ったまま、上半身をぴったりくっつけるように、両手で、しっかりと抱きしめられた。
俺はニット、アキヤさんはカットソーと柔らかい生地のジャケット……それだけの生地が間にあるのに、アキヤさんの体温を感じるし……。
「はぁ……」
「ん……」
お互いの肩に顎を乗せているから、首筋に……首の後ろに顔が近づく。
フェロモンが一番解る場所。
アキヤさんのフェロモン……。
すごい。
ほっとする。
出会った瞬間ドキドキしたし、一緒にいるとドキドキすることばかりだから、フェロモンをしっかり感じればもっともっとドキドキすると思ったのに、違う。
これ、ほっとする。ここが俺の居場所だって感じがする。居心地がいい。
ずっとこれ浴びていたい。
「ん……アキヤさん……」
「ミチくん……」
俺もアキヤさんの背中に腕を回して顔を摺り寄せれば、アキヤさんも同じようにしてくれる。
「安心する」
「俺もです。ほっとする」
俺よりちょっと背が高くて、筋肉があって厚みがあるのもいい。フェロモンだけじゃない、この体も好き。
腕の中にいるの、安心する。
「もうちょっとフェロモン出ることしていい? 今日は最後まではしないから。ちゃんと段階守るから」
「……はい」
アルファに求められて断れることなんてない。
この人になら、なにされてもいい。
別に段階なんて守らなくていい。
でも……経験のない俺に合わせようとしてくれている優しさも、震えるくらい嬉しい。
フェロモンに包まれながら身を任せていると、アキヤさんが顔を上げて、少しだけ体が離れる。
「ミチくん」
「ん……」
優しく頬を撫でられて……唇が近づいてきた。
キスだ……。
アキヤさんの唇、薄く見えるのに柔らかい。この感触だけで、触れあっただけで……体の奥からぶわっと何かが沸いたのがわかった。
「はぁ……」
「あ……」
少しだけ唇が離れて、視線がぶつかる。
少し潤んだ瞳、薄く開いた唇の隙間からこぼれる熱っぽい息。
あ。
すごい。アキヤさんの、にじみ出るようなフェロモンが……すごい。濃い。
体がゾクっとした。震えた。
震えて……多分……。
「っ……!」
俺もめちゃくちゃフェロモンが出た。
「ミチくん……」
「んっ」
「ミチくん、ミチくん……っ」
「あ、アキヤさん……ん」
またぎゅっと抱きしめあって、お互いの首の後ろに顔を近づけあって、大量のフェロモンをしっかりと堪能した。
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