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第10章 位相編
到着
しおりを挟む「おっ、城門だぜ」
グラスブルを出発した乗合馬車が白都キュベルリアに着くのは夕刻の予定。
その予定通り、前方に白い城門が見えてきた。
「今回は賊も出なかったし、楽な旅だったなぁ」
その通り。前回の王都行とは違い、今回の道中は盗賊に襲われることもなかった。そして、もう間もなく旅を終えようとしている。
「そう思うだろ?」
「ええ、まあ」
ただ、ひとつ。
前回と同じ、気楽になれない状況がたったひとつだけ。
「兄さん、どうした?」
どういうわけか、またこの男と同じ馬車に乗ってしまったんだ。
「少し疲れたんです。こっちはジンクさんほど体力がありませんので」
「冗談キツイって。あんたのことは、前回でよーく分かってんだぜ」
「……」
王都の料理人であり冒険者でもあるジンク。
前回の旅で知り合い、協力して賊の襲撃を防ぎ、王都まで同行した奇妙な男。
そのジンクと今回も同じ馬車に乗り合わすなんて、どんな確率だ。
「でだ、そんな深い仲の兄さんと俺なんだからよぉ、もっと気楽になんねえか? 特に、さん付けはよしてくれって」
「そうですね、分かりました……ジンクさん」
「たぁぁ、そりゃ、ねえわ」
「……」
ジンクは前回と同じ。
まったく空気を読まず、壁を乗り越えてくる。
そのいっそ清々しい馴れ馴れしさには、少しなら付き合っても良いかと思わせるものもあるが、さすがに今回はそうもいかない。
この白都滞在で使える時間が限られているからだ。
テポレン山にいるセレス様、ワディン騎士、加えてレザンジュ王軍の状況から推測するに、俺に許された時間は20日程度。これを越えたら、問題が生じる可能性が高いだろう。
「まっ、兄さんらしいけどよ」
20日という時間だけ見ると余裕にも思えるが、実際はそんなに甘いものじゃない。解決すべき問題の難しさを考えると……。
そう。
今回俺が白都を訪れたのはシアの視力を取り戻すため。全快が無理でも、回復の方法を探し出す。これは何よりも優先すべきことだ。
次に夕連亭ベリルさんからの依頼。ウィルさんの安否を確認しなきゃならない。こちらはシアの視力回復に比べれば難易度は低いだろう。が、だからといって簡単というわけでもない。そもそもウィルさんが王都に滞在しているという情報自体が不確かなものなのだから。
最後はリーナとオズ。
この件は時間があればの話になるが、剣姫にお願いして2人のもとに案内してもらおうと思っている。
こうして並べてみると……やっぱり余裕なんてないよな。
「兄さん、着いたぞ」
などと考えている間に、馬車がキュベルリアに到着したようだ。
「久々に2人での王都かぁ」
「……」
「ほんと、楽しみだよな」
悪い。
ジンクと遊んでいる暇はないんだよ。
第10章 完
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