上 下
1,072 / 1,157
第10章 位相編

決着

しおりを挟む

<古野白楓季視点>



 空間異能者がいない。
 完全に姿を消している。

 つまり。

「転移よ!」

 転移を使って吾妻と共に距離を取るつもりだ。
 場合によっては、また元の世界に逃げ帰る可能性も。

「あいつ、逃げるつもりだな」

「ええ」

 でも、そんなことさせない!

「逃げる前に仕留めるわよ、有馬君、武上君」

「……」

「有馬には聞こえてねえぞ」

 そうだった……。

 はあ、私が焦ってどうするの。
 もっと冷静にならないと。

「……武上君、転移に備えて」

「了解だ」

 武上君が吾妻の後ろに回り込んでいく。
 私の炎弾の準備もできている。

 そして、有馬君は。
 片膝をついた吾妻に手刀を!

 首元に吸い寄せられるように伸びた手刀が僅かな音だけを空間に響かせ……。

「うっ!」

 吾妻がついに。
 ついに、地に墜ちた!

「……」

 それなのに、空間異能者は消えたまま。
 吾妻の前に姿を見せない。

 まさか、見捨てて逃げたの?
 自分ひとりだけで?

 空間異能者の不可解な行動に、つい考え込んでしまう。


「やったぞ、有馬ぁ!」

 そんな私とは違い、武上君は喜びを爆発させている。
 有馬君のもとに駆け寄って、何度も肩を叩いている。
 一応、転移には気を付けているようだけど……。

「やっと倒せたぜ」

「……吾妻はな」

「んん? オレの声、聞こえんのか?」

「ああ」

「五感が戻ったんだな?」

「……ああ」

「そいつぁ、最高だ。完璧だ!」

 早い。
 もう回復するなんて、さすが有馬君。

「これでもう、怖いものなしだろ」

「分かったから、肩を叩くなって」

「いいじゃねえかよぉ。こんなの、おまえが痛いわけねえんだし」

「いや、普通に痛いからな」

「よく言うぜ」

「ほんとに痛いんだよ」

 有馬君の言葉は軽やかで明るいものだけれど、眼光は鋭いまま。
 空間異能者を警戒している目つきだと思う。

 もちろん、私も集中を切らしていない。
 炎弾も発動手前で待機状態を保っている。

「それに、終わったとは限らないんだぞ、武上」

「……空間異能者かよ?」

「そうだ」

「吾妻は完全に伸びてんだぜ。このままひとりで逃げんじゃねえの? って、もう逃げてるかもな」

「そうかもしれないが、油断はできない」

「油断ねぇ」

 確かに、逃げた可能性もある。
 けれど……。

「縛るか吾妻を。そうすりゃ、問題ねえだろ」

「武上君、ここには縄なんてないわよ」

「……」

「縄どころか、今は何も……」

 当初用意していた道具類は全て奪われてしまったから。

「しゃあねえ。オレがずっと見張ってやらあ」

 拘束できない以上、監視するしかない、か。

「武上、これを使ってくれ」

 えっ?
 有馬君、それ?

「縄持ってんのか?」

「ああ、ここに戻って来る前に準備しておいた」

「おいおい、用意良すぎだろ」

「……」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

辺境で魔物から国を守っていたが、大丈夫になったので新婚旅行へ出掛けます!

naturalsoft
ファンタジー
王国の西の端にある魔物の森に隣接する領地で、日々魔物から国を守っているグリーンウッド辺境伯爵は、今日も魔物を狩っていた。王国が隣接する国から戦争になっても、王国が内乱になっても魔物を狩っていた。 うん?力を貸せ?無理だ! ここの兵力を他に貸し出せば、あっという間に国中が魔物に蹂躙されるが良いのか? いつもの常套句で、のらりくらりと相手の要求を避けるが、とある転機が訪れた。 えっ、ここを守らなくても大丈夫になった?よし、遅くなった新婚旅行でも行くか?はい♪あなた♪ ようやく、魔物退治以外にやる気になったグリーンウッド辺境伯の『家族』の下には、実は『英雄』と呼ばれる傑物達がゴロゴロと居たのだった。 この小説は、新婚旅行と称してあっちこっちを旅しながら、トラブルを解決して行き、大陸中で英雄と呼ばれる事になる一家のお話である! (けっこうゆるゆる設定です)

俺を追い出した元パーティメンバーが速攻で全滅したんですけど、これは魔王の仕業ですか?

ほーとどっぐ
ファンタジー
王国最強のS級冒険者パーティに所属していたユウマ・カザキリ。しかし、弓使いの彼は他のパーティメンバーのような強力な攻撃スキルは持っていなかった。罠の解除といったアイテムで代用可能な地味スキルばかりの彼は、ついに戦力外通告を受けて追い出されてしまう。 が、彼を追い出したせいでパーティはたった1日で全滅してしまったのだった。 元とはいえパーティメンバーの強さをよく知っているユウマは、迷宮内で魔王が復活したのではと勘違いしてしまう。幸か不幸か。なんと封印された魔王も時を同じくして復活してしまい、話はどんどんと拗れていく。 「やはり、魔王の仕業だったのか!」 「いや、身に覚えがないんだが?」

チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司
ファンタジー
28才、彼女・友達なし、貧乏暮らしの桐山頼人(きりやま よりと)は剣と魔法のファンタジー世界に"ヨリ"という名前で魔王を倒す勇者として召喚される。 しかしそこでもギフトと呼ばれる所謂チート能力がなかったことから同じく召喚された仲間たちからは疎まれ、ついには置き去りにされてしまう。 「ま、良いけどね!」 ヨリはチート能力は持っていないが、お金無限増殖というバグ能力は持っていた。 大金を手にした彼は奴隷の美少女を買ったり、伝説の武具をコレクションしたり、金の力で無双したりと自由気ままに暮らすのだった。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。 が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。 災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。 何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。 ※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...