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第10章 位相編
異なる経験
しおりを挟む「達人と対戦できて良かったじゃない」
「大志君は前から強者と戦いたいって言ってたからね」
「それは、そうだけどよぉ……」
里村だけじゃない。
今目の前にいる古野白さんも武上も、それに幸奈も。
「……」
ある程度予想していたこととはいえ、簡単には受け入れられない。動揺が残ってしまう。
武上、里村、古野白さんのここまでの会話や動き、それに細かい仕草まで、全てが俺の知る3人そのものなんだ。別世界の3人とは思えないんだよ。
けど、この世界の里村は異能者であり研究所に所属している。
15歳の時点で古野白さん武上と知り合っている。
これらは明らかに俺の世界とは違う。
だからもう……認めるしかないだろう。
俺は今、過去ではなく位相世界にいることを。
「強者と戦えて勉強になったと思えばいいんだって」
「里村君の言う通りよ。だから、いつまでも落ち込まないの」
「……落ち込んでねえし」
「何言ってるの? さっきからずっと落ち込んでるで」
「楓季ちゃん!」
「あっ……そうね。武上君はこんなことで落ち込まないわよね」
「そうそう、何てったって大志君だもん」
「……」
「大志君に弱気は似合わないもんね。というか、弱気になる必要ないし」
「……そうか? ほんとにそう思うか?」
「もちろん。そもそも相手は大人なんだよ」
「だよな。あっちは年上で経験の差があって、それに、ちっと油断してたからだよな」
「うん、間違いないね」
「へへ、さすが里村。よく分かってんじゃねえか」
俺がいるのは位相世界。
この里村は俺の知らない異能者の里村。
記憶消去という特殊な異能を持っている。
しかも、そのレベルは2。
20歳の武上や古野白さんでもレベルは1だった。
鷹郷さんでレベル2、壬生伊織でようやくレベル3。
15歳の里村がレベル2とは。
非戦闘系の異能者だから?
戦闘以上に頻繁に異能を使用するから?
だとすれば、レベルが上がるのも頷ける、か。
しかし……。
15歳の里村たちを傍目にしながら思考に飲まれていると。
「功己さん」
幸奈が話しかけてきた。
模擬戦終了後も驚きの表情を浮かべて距離を取っていたんだが……。
少し落ち着いたようだな。
「お疲れ様でした」
「ああ」
「凄かったです。異能者に勝つなんて、ほんともう」
「……」
「ホテルで聞いた話以上じゃないですか」
「……そうか?」
「そうですよ。とんでもないです」
興奮したようにまくし立てる幸奈。
どう見ても俺の知る15歳の幸奈にしか見えないが、彼女はあの幸奈じゃないんだよな。
「この目で観戦しても信じられないくらいですから」
「……」
2つの世界の幸奈。
外見も内面も違いがあるようには思えない。
それなのに別人だとは……。
ん?
ということは。
経験も異なっている?
つまり、あっちの幸奈は酷い目にあっていない?
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